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二章 学校で夜遊び

027 第二皇子一行

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 カールスタード学院へ向かう旅、2日目。フィリップは今日もゴネまくって、仮病の発熱も40度ぐらいまで上げたのに、首根っこを掴まれて馬車に放り込まれて出発した。

「鬼~~~!」
「鬼でけっこうです」

 同乗するダグマーに怒りをぶつけるフィリップであったが、ダグマーは眉ひとつ動かさずにあしらっていた。

 この第二皇子一行は、馬車が10台。先頭車両にファーンクヴィスト公爵家の4人が乗り、2番目にフィリップたち4人。護衛の2人は御者台で目を光らせ、メイドが同乗して高貴な者の世話をしている。
 その後ろにはカールスタード学院に通う2人の衣装や家具を乗せた馬車が5台。護衛やメイドの生活必需品を乗せた馬車が1台。予備の空の馬車が2台も連なる。
 周りには、100人を超える騎馬と馬車。第二皇子の移動なのだから、警備は万全だ。

 その護衛の騎士はどこから来ているのかというと、各領地の持ち回り。領主が護衛の責任者となり、隣の領地まで送り届けることがミッション。次の領地ではまた100人の騎馬が待ち構えていて、そこで交代となる。
 いちおう領主は初日に挨拶しようとしていたけど、フィリップは寝ていたし今朝もゴネていたから会えずじまい。その場合は2番目に偉いラーシュ・ファーンクヴィスト公爵家令息10歳が対応していた。
 フィリップと違って、金髪イケメンのしっかりした子供だ。フィリップの中身は40歳オーバーなのに……


 そんな馬車で拉致されているフィリップは、ダグマーに当たるのも飽きたのか寝ようと思ったけど、昨晩一睡もしていないのにまったく眠れずにいた。

「揺れるぅぅ~。もっと静かに走れないの? こんなの眠れないよ~~~」
「これ以上揺れの少ない馬車は、この世界には存在しません」

 そう。舗装もされてない道、サスペンションも付いていない馬車というヤツは、現代人には耐えられない揺れなのだ。

「だったらさ~……膝枕するとかないの?」
「セクハラです」
「子供子供。僕、子供だからセーフじゃない?」
「子供が夜の世話をしろとか言わないと思います」
「ケチ~~~!!」
「ケチでけっこうです」

 フィリップがギャーギャー言ってもダグマーは塩対応。そんなことしていたら、フィリップの体に異変が起こる。

「気持ち悪い! 止めて~~~」
「そんな姿を下々の者に見せられませんので、この桶に出してください」
「ゲロゲロゲロ~」

 いくらレベルの高いフィリップでも、長時間の揺れには耐えられないのであった。


「ゴ、ゴメン……ありがと……」

 馬車の中で散々嫌味を言い続けた相手でも、汚物の処理や優しく背中をさすってくれたのだから、フィリップはダグマーに感謝の言葉を告げた。

「仕事ですので……」

 しかしダグマーは澄まし顔。でも、何か言いたそうな顔を一瞬したので、フィリップはそこをつつく。

「どうかしたの?」
「い、いえ……」
「あ、僕が謝罪も感謝もしないようなガキだと思ってた??」
「いえ……」
「その顔は当たりみたいだね。ま、僕も鬼とか失礼なこと言ってたから、痛み分けってことで」
「はあ……」

 この件で、ダグマーのフィリップへの評価が少し上がったようだ。

「まだ辛いんだよね~……膝枕してくれたら治りそうなんだけど~?」
「セクハラです」
「いまいけそうな雰囲気だったじゃ~ん。ケチ~~~」
「それとこれとは別です」

 でも、すぐに評価は戻ったのであったとさ。


 馬車はそれからも走り続け、小川が流れる場所でお昼休憩になった。騎士や護衛が辺りを確認し、メイドの2人がテーブルセッティングをしたら、ようやくフィリップも馬車から降ろされた。
 フィリップがフラフラ歩いて椅子に座ると、ラーシュが座ることに許可を求めて来たから、フィリップは「さっさと座りなよ」と冷たくあしらった。

「ん? なんか文句がありそうな顔だね」
「いえ……」
「不満そうな顔してたじゃ~ん……ひょっとして、兄上のほうがよかったとか思ってるんじゃない??」
「いえ!」
「アハハ。正直者だな~」

 ダグマーでは反応が面白くないから、ここぞとばかりにラーシュをからかうフィリップ。その笑い声にイラッとしたラーシュは、顔を真っ赤にして反論を我慢してる。

「なんだ。乗って来ないんだ。我慢強いんだね~」
「そんなこと思っていませんので……」
「まぁいいや。次からは、いちいち許可取らないですぐに座ってくれていいから。護衛の4人も、こっち来て一緒に食べよう。そのほうが時間の短縮になるでしょ? もちろんメイドもね。これは命令だよ~」

 フィリップからの命令は、全員どうしていいかわからないのでコソコソやってからテーブル席に座った。フィリップが言った「全員揃わないと食べられない」ってのが決め手になったみたいだ。
 それから食事をフィリップから始めると、全員テーブルの上に乗っている料理に手を伸ばし、マナーも気にせず食べるフィリップを見ながら食べていた。

「あ、マナーが悪いって? ここは城でもパーティーでもない、自由な場所だよ。鳥や獣が行儀よく食べてるとこ見たことないでしょ? だったらその作法をマネて、僕たちも自分が美味しい食べ方をしようじゃないか」

 皆の目が気になったフィリップは、饒舌に言い訳をしてなんとか言いくるめる。それからも喋りながら食べるフィリップに呆れたのか、各々緊張を解いて食事を続ける。

「あ、そうだ。もしも僕がみんなに気付かれずに消えたらどうする?」
「「「「「自害します」」」」」
「うっそ……」

 どうやらフィリップが全員集めた理由は、ダグマーの話が信じられなかったから。ダグマーだけが特別なのかと思っていたのに、答えが綺麗に揃ったからには、フィリップはますます逃げられなくなるのであった。
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