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02 出会い

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「本当に攻撃が出来ないのですか?」

 勇者が戦えないと聞いた魔王は冷静になると質問するが、攻撃すること事態がトラウマだとのこと。一度だけ振るった拳で、魔物がミンチ肉になったと勇者はガタガタ震えて言っていた。
 それなら戦力になると四天王は目を輝かせたが、人族がミンチ肉になる姿を想像した四天王もガタガタと震えて話がまとまらない。

 それからは罵詈雑言ばりぞうごん。それのどこが勇者なんだと四天王にののしられ、勇者も説明するが、二つ名を聞いても納得してもらえない。

「頑丈な勇者? 走る勇者? 旅の勇者?」
「「「「……ハッ」」」」

 どれも役に立ちそうにない二つ名なので、鼻で笑われていた。

 さすがにいたたまれなくなった勇者は、代案を提出する。

「サシャが攻撃魔法を使ってくれたら、なんとかなりそうなんだがな」
「私は……と言うか、魔族は生活魔法と農業に特化した魔法しか使えないので無理です」
「う~ん……じゃあ、人族のスカウトでもしてみるか?」
「スカウトですか……」

 勇者の代案は有用には思えなかった一同だが、情報収集の為には有りかと考え、人族が占拠した町への侵入が決定した。


 送り込む人員は二人。勇者と魔王だ。
 勇者は魔王と離れたくないと我が儘を言い、魔王は人族がどんな野菜を食べているか気になってついて行く事にしたようだ。
 どちらもちゃんと情報収集して来てくれるのかと、四天王は心配していた。


 翌朝は予定通り侵入作戦が決行され、四天王に見送られる。そこでおかんのように心配する四天王に、山ほど野菜を持って行けと言われた魔王は断ろうとしたが、勇者が持つと言って驚かせていた。

 それから出発して小一時間が過ぎた。

「ハァハァ……」

 長距離を歩いた魔王は、肩で息をする。

「大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「馬車を使わせてくれたらよかったんだけどな~」
「いまは最前線にほとんど送ってしまったので仕方ないですよ」
「でもな~……ほとんど進んでないんだが……」
「す、すみません」

 魔王の歩調に合わせていた勇者だが、直線距離で五日も掛かると聞いているので、これではもっと掛かると感じているようだ。

「よし! お兄ちゃんに任せろ!!」
「どうするのですか?」
「おんぶしてやるよ」
「それでは、お兄ちゃんが疲れるじゃないですか」
「大丈夫だ。なんてったって、走る勇者と呼ばれていたからな」

 いい笑顔で返事をする勇者だが、魔王は「そんなの関係あるの?」って顔をしている。だが、歩き疲れた魔王は、勇者の背中を借りる事にしたようだ。

「む、無理だ……」

 魔王を背中に乗せた勇者だったが、一歩も進めずに膝を突いた。

「そ、そ、そ、そんなに重たくないです~!!」

 昨夜から女のプライドを傷付けられていた魔王は、ついにぶちギレた。でも、怒り方がかわいいからか、勇者には効かない。
 でも、ポコポコ叩いているせいで、胸が揺れているのは効いているようだ。この胸の感触のせいで、魔王を背負えなかっただけなのだが……

 このまま遊んでいても無駄に時間が過ぎるだけなので、勇者は椅子の付いた背負子しょいこを取り出す。

「こんな物まで持っているのですね。お兄ちゃんの収納魔法はいっぱい入るし、凄いのですね」
「収納魔法ではない。アイテムボックスって言うんだ」
「何が違うのですか?」
「妹が言うには……忘れた。それより急ごうか」
「はあ……」

 勇者は説明を投げ出して魔王の乗った背負子を背負う。それから走り出したのだが、流れ行く景色が速すぎて、魔王が「キャーキャー」騒いでいた。
 だが、揺れがまったく無い背負子は、魔王を安心させるには十分だったようだ。今では「スピー」と寝息を立てている。意外と胆の座った魔王だ。


 そうして勇者が走り続けてお昼前……

 停止して魔王を起こす。

「サシャ……サシャ」
「ん、んん~……お昼ごはんですか~?」

 寝惚ける魔王はお昼ごはんで起こされたと思って口に出す。意外と食い意地が張っている魔王だ。

「お昼ごはんもそうだが、湖に着いたぞ」
「へ……? 湖!?」

 驚くことに、勇者は徒歩四日は掛かる道程みちのりを、たったの数時間で走破したのだ。これには魔王は信じられないと、勇者に食い掛かって質問していた。

「俺は走る勇者と呼ばれていたからな~」

 たが、勇者の答えは魔王の期待していた答えでは無く、頭を抱える事となる。

「それより、早く昼ごはんを食べてしまおう」
「そうですね!」

 そして魔王も、お弁当にご執心となってどうでもよくなったようだ。でも、アイテムボックスから出て来た温かいままの味噌汁には、興味を持って質問する。

「時間が止まるのですか……それなら足の早い果物なんかを保存できれば……」

 興味の持ち方がおかしいぞ、魔王……





「それでここからどうやって移動するんだ? さすがに俺でもこの距離は……」

 昼食を済ませた勇者は、魔王をだらしない顔で見ながら、湖の移動方法を相談する。

「それなら大丈夫です。湖の管理をしてくれているヒルデさんを呼びます」

 そう言って魔王は、角笛を収納魔法から取り出し、高らかに吹き鳴らす。

 それからしばしお喋りしていると、静かだった湖に波が起こり、巨大な生物が顔を出した。

「ヤッホー!」

 巨大生物の正体は、全長10メートルを超える水竜。魔王に手を振って挨拶をしているが、軽い。

「おっきな竜だな~」
「こちらは先ほど話していた水竜のヒルデさんです。では、乗せてもらいましょう」

 魔王は見慣れているから驚く事は無いのだが、勇者も驚く素振りを見せない。魔王達も驚く人を見た事が無いので、気にもならないようだ。

 水竜に乗ってぺちゃくちゃと移動を続け、うっすらと岸が見えて来ると水竜は止まる。

「ボクは大きいから、ここまでだね」
「あ……そうでした~。ここからどうしましょう?」
「小舟を引いて来たからそれに乗って。岸まで波で送るよ」
「ありがとうございます!」


 こうして小舟に乗り換えた勇者と魔王は、快適な湖の旅を終えて岸に辿り着いた。小舟はアイテムボックスに入れ、魔王を背負って走り出した勇者は、すぐに町を視界に収める。

「町が見えたな」
「あ! 本当です。もう着いちゃいました……。お兄ちゃん、凄いです!!」
「そうだろそうだろ~」

 勇者は魔王に褒められて鼻高々。もっと褒めてとリクエストまでして、魔王を困らせる。

 魔王が褒め言葉を言い尽くし、三周目に突入した頃、勇者は湖に向かう人影を発見した。

「なあ? なんか追われてる人がいるぞ」

 人影は三人の人族に、騎兵が十騎。追い付かれるのは時間の問題に見える。

「追いかけっこをしているのでしょうか?」

 魔界は平和だからって、その暢気のんきな言い方は無いだろう。

「いや、逃げてるんじゃないかな?」
「逃げてるって事は……悪い人に追われているのですか!?」
「さあな~」
「た、助けないと!」
「人族どうしのいざこざなんだから、俺達が関わる事でもないと思うんだが……」
「そうでした……ここにいる人は、全員敵でした……」

 優しい魔王は、危険が迫る者を放っておけないらしく、暗い顔になる。

「まぁ、情報収集が仕事だしな。町に入る前に、ちょっとだけ話を聞いておこう」
「お兄ちゃん……ありがとうございます!」

 魔王から感謝の言葉をもらった勇者は、気持ち悪い顔になって駆ける。でも、魔王は降ろさなくていいの?


 逃げている三人に近付くと、遠くからは男に見えていたが、全員、男装をした女だったようだ。
 勇者はさらに近付くと、何故か並走して走る。

「ちょっといいか?」

 そして話し掛けた。

「なっ……見てわからないのか! こっちは忙しいんだ!!」

 すると、金髪の美人さんにキレられた。

「まあまあ。どうして逃げてるか教えてくれたら、協力してもいいぞ?」
「馬から逃げられるわけがないだろう!」
「う~ん……馬を連れて来たら、話を聞いてくれるか?」
「武器だ! 武器を寄越せ! それで戦える!!」
「なるほど……ちょいまち」

 勇者はアイテムボックスから剣を三本取り出して、素早く動いて走り続ける三人に握らせる。
 金髪美女も二人の女性も、あまりの出来事に驚いていたが、逃げている最中なのでツッコめないでいる。

「盗賊から奪ったナマクラだけど、これでいいか?」
「あ、ああ……」
「それでだ」
「ちょ、ちょっと待て! この事態が落ち着いてから話を聞いてやる!」
「それもそうか」

 勇者も金髪美女の言い分に納得して行動を見守る事にしたようだ。


 金髪美女は、残りの女性に声を掛けてから反転。剣を抜いて騎兵の接近を待つ。
 勇者も戦闘が行われると判断して魔王を降ろす。
 魔王は何がなんだかわかっていないようだが、周りの雰囲気に呑まれて緊張しているみたいだ。

 そうして準備万端で構えていると、騎兵が近付き、一騎が前に出て金髪美女に声を駆ける。

「馬上から失礼します。クリスティアーネ殿下。逃げ出して、どちらに行こうとなさっているのですか?」
「ヨハンネス……お前には関係の無い事だ」
「お兄様のラインホルト殿下から見張っているように言われていますので、関係が無いわけではありません。それでどちらに?」
「言うわけがないだろう」

 再度行き先を尋ねるヨハンネスに、クリスティアーネと呼ばれた女性は睨み付ける。

「最前線の町とは方向が違ってますし……まさか……湖を越えて魔族の元へ行こうとしておられるのですか?」
「お前には関係ないことだ!」

 ヨハンネスとクリスティアーネが緊迫した言い合いを続ける後ろでは、勇者と魔王も会話を交わしている。

「殿下って呼ばれているって事は、偉い人なんですかね?」
「そうじゃないか? でも、ラインホルトって奴の方が偉そうだな」
「と言う事は、お兄さんに追われているのでしょうか」
「みたいだな。やっぱり妹かわいさに、そばに置いておきたいんだろ」
「それはお兄ちゃんの考えですよね? 妹さんもベタベタされるのが嫌だから逃げてるんですよ」
「そうなのか!?」

 う~ん……世間話? ここはどうやってクリスティアーネを逃がすかを考えた方がいいんじゃないか?

「……ちょっと黙っていてくれないか?」

 ほら。クリスティアーネに怒られた。

「貴様はクリスティアーネ殿下を逃がそうと手引きした者か!?」

 ほら。ヨハンネスにもいらぬ疑いを掛けられてしまった。

「いや。さっき出会ったばかりで、名前も知らなかった」
「はあ!? そんな奴がどうしてここに居るんだ!!」

 それでものほほんと答える勇者に、ヨハンネスは剣を向けて怒鳴るのであった。
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