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日常3
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ケントの目が覚めたのは、翌朝だった。
天幕の入り口からこぼれる日の光を視認し、朝だという事を思考の片隅で寝ぼけながらも認識する。
昨日は訓練だなんだといろいろな出来事のせいか、ケントはいつの間にか疲れ果てて寝てしまっていた。
ふと横に振り返ると、隣の寝床ではハーヴェイが気持ちよさそうに寝ている。
ケントは自身の手で唇をなぞり、かすかに口に残った粘り気が乾いたような感触に、ゆっくりと昨日の出来事が夢ではなく現実だという事を再認識する。
4回──いや5回は出されて飲んだだろうか。
ハーヴェイの性欲は、絶倫どころか獣のような性欲だった。
そのあり余る性欲に、ふと関係があるのかはわからないが、ハーヴェイは大家族の末っ子だという事を思い出す。
それよりもあれだけ自分の口の中へと精液をぶっ放したにも関わらず、今日も変わらず平然とハーヴェイは股間を膨張させている。
(すごいなコイツ……)
じっと見つめるハーヴェイの布ズボンで作られた山頂。
次第に目を離せなくなる後輩の股間を見ながら、記憶にあるハーヴェイの言葉たちが、ケントの脳裏で飛び交う。
「いいっすよ、いつでも好きなだけ舐めてくださいよ」
「起こす時も舐めて起こしてください」
「やっぱ正直が一番っすよ」
「ほんとはチンコ好きなんすよね?」
「──舐めろよ、変態」
少しずつケントの目がうつろいで、まるで解けない暗示のようにその脳から出される電気信号にケントは従う。
ハーヴェイの股間へと手を伸ばしながら──
(んー?なんか……気持ちいい……なんだこれ……すげえ……)
その終わらない快感からか、ハーヴェイはゆっくりとヨダレを垂らしながら目を覚ました。
(あーチンコ気持ちいい……え?……気持ちいい?……なんで?)
ハーヴェイが恐る恐る半開きの目で、自身の股間を見てみると、三日月のようにそそり立った自身のペニスをケントが無我夢中で舐めている。
(あらら……まじっすか……)
寝ている自分のペニスを、何も言わずとも自ら咥えている先輩の姿を見て、ハーヴァイの口元が薄く緩んだ。
ハーヴェイはその手を伸ばし、口で半分ほどまで咥えこんでいるケントの頭に突然──その手を乗せた。
「……そのままで……」
ハーヴェイがそう一言を発すると、まるで突然地震が起こったかのように、その腰を大きく振りはじめ、頭に乗せた手でケントの頭を抑えつけていた。
ケントの様子を気にする事もなく、ハーヴェイは天井を見つめ、右手でケントの顔を抑え──ただひたすら本能のままにこの腰を振った。
ハーヴェイの割れた筋肉が、ケントの目の前へと何度も往復する。
ケントの喉奥を、ハーヴェイの長く三日月のようなペニスが繰り返し犯し続ける。
「あ……いくッス」
その小さな一声とともに、ハーヴェイの竿袋が大きく雄たけびを上げた。
竿道を通って、寝起きとは思えないほどの大量の精液がケントの口の中に出された。
ケントが竿から口を放すと、ゆっくりと口の中の精液を飲み干した──。
「へへっ……朝から変態っすねぇ」
「……おまえが舐めて起こせって言ったんだろ」
「でもまさか……ほんとにやってくれるなんて」
ハーヴェイが飛びつくようにケントに抱き着くと、勢い余ってケントにおおいかぶるように倒れた。
「お、おいハーヴェイ」
「サイコーっす!一生ついていきますよ、先輩」
新人傭兵の一日が、今日も始まる。
*
(……やっちゃった)
ケントは、小さな後悔とわずかな自己嫌悪を抱えながら、まるで猛暑の中を気だるく歩くように外を歩いていた。
そんなケントの心とは相反するように、清々(すがすが)しいまでに日差しが照らしている。
そしてケントの前をニコニコとご機嫌に歩くハーヴェイ。
「フーンフンフフーン」
(はー……案外、俺も欲望に忠実な人間だったんだな──ハーヴェイのも平気で飲んじゃうなんて……マラークが聞いたらなんていうか)
一日で相棒と後輩の男根を咥え、その精液を飲んでしまう変態的な自分。
しかし何より驚いているのが、自分にそんな一面が存在していた事──にも関わらずわずかに存在するそんな自身への自己肯定。
それは、元の世界で大人びた自分を演じていた反動か、傭兵団の人間と生活をし、ケントの性格が少しずつ変わっていったからなのか。
(欲望に忠実な人間に囲まれてると、影響って出るものなのかなー。アイツらの股間の匂いも昨日から 何か変なんだよな……異様にいい匂いっていうか──脳に届くように逆らえないんだよな)
*
「今日は大してやることもなくてね、手をかりるのは1人だけでいいよ」
「え?」
村の中心部で、ケントとハーヴェイは村人のロクシーと話していた。
村仕事を手伝おうとロクシーの元に来たが、村仕事も少ないようだった。
「そうですか……じゃあ俺が──」
「じゃあ俺がやります」
横にいたハーヴェイがケントの言葉を遮るように、手を挙げてその意欲を示した。
「は?」
「ケントさんは訓練でもしてきてください」
「おまえ、なんか変なモノでも食ったのか?」
「食ったのはケントさんっす」
ケントはハーヴェイの腹を殴った。
「ぐぇっ!」
「ロクシーさん、ちょっとごめんなさい」
ケントは自分よりも身長の高いハーヴェイの耳をつかみ、村人のロクシーから距離をとるようにハーヴェイを引っ張った。
ハーヴェイの耳元へとケントは笑顔を近づけ、小声で話す。
(ハーヴェイくーん、あーんまり調子に乗らないようにねぇ)
(いててて……違うんすよ、昨日アレだけ飲んだし、本当は魔法の練習したいんすよね?)
予想外のハーヴェイからの気遣いにケントは、掴んでいたハーヴェイの耳から手を放した。
「おまえ、そのために……?」
「そうっすよぉ!仕事は俺に任せてケントさんは1人で魔法の訓練をしてください」
「そっか……ありがとなハーヴェイ」
今度はハーヴェイがケントの耳に近づき、手で口元を隠すように小さな声でささやいた。
「……なので戻ったらサービスよろしくっす、変態な先輩」
*
「──すみませんロクシーさん、ハーヴェイをよろしくお願いします」
「はいよ、じゃあ今日もハーヴェイくんを借りるねぇ」
「体力があり余ってるみたいなんでこき使ってください」
ハーヴェイが頭の痛みを両手でこらえながら涙を流していたが、まるで自分は無関係かのようにケントはその場を立ち去った。
(ひっでぇ……戻ったらまたいじめてやるっすよ)
──目的地もなく、村の中を歩きながらケントはこれからの事を考えていた。
(魔法の練習……とはいってもな、昨日マラークに戦い方そのものが見当違いって言われたばっかりだし──)
ふと思いついたようにケントはその足を止め、キョロキョロとあたりに誰もいない事を確認すると、ケントはその口で小さく言葉をつぶやいた。
「……ステータス、オープン」
ケントの目の前にゲーム画面のような文字が浮かび上がってきた。
──────────
ケント=イズミ
LV5 職業 見習い傭兵
HP52/52
ATK 10
DFE 8
AGI 10
MAG 82/82
MEN 3
LUCK11
スキル
剣術2
風の矢弾1
炎榴0
精変換
──────────
そこには自身の名前、職業、能力、習得しているスキルなど、さまざまな情報が書かれていた。
ケントが自身の能力を示しているであろうそのステータスの数値を見ていると、MAGと書かれた項目の数値に驚いた。
MAG 82/82
(魔力──82!?昨日の朝は32だったのに?おいおい──これほとんどハーヴェイだろ……アイツ──)
昨日の朝は32だったその数値が、わずか1日で50もの数値が増えていた。
その原因は倉庫でのマラークの精液、そして天幕でのハーヴェイの精液だ。
ケントはたった1日で魔力がとてつもなく上昇している事に、嬉しさとわずかな残念さを交えながらもその画面を見ている。
(それと──MEN…メンタルの数値が3!?昨日よりまた下がってる……?)
ほんの数日前まで──初めてマラークの精液を飲む前までは、MAGと書かれている魔力のステータス値が0だったことに対し、MENと書かれた精神が12というもっとも高い数値だった。
しかし今では魔力のステータス値が異常に高い82になってる事に対し、12もあった精神のステータス値が3と最も低い数値になっていた。
(精神値が9も下がったって事か。このままいけばそのうち0になりそうだな……。これも『精変換』の影響か?けど魔力が尋常じゃないほど上がっていってる事を考えれば、魔法が主体の戦闘スタイルにするべきなのは間違っていない──でも何から手をつければいいんだろう)
ケントは手を握ると、自身の口に当てながら脳内で考え始めた。
この傭兵団はマラークが言った通り前衛が圧倒的に多い。
というかサンダーライト以外の人たちが戦ってる姿をあまり見ていないせいで、戦う事の基本がそういうものだと思ってた。
マラークの言う前衛に向いてない理由は、俺が生き物を殺す事に慣れていないからだろう──それって慣れるのか?
モンスター相手は慣れる事はできるのかもしれない──でも傭兵という仕事を続けている限り、人間を殺すと判断をすべき場面が必ず来る。
俺は……多分ためらうし、それが油断となって味方に迷惑をかけるのも容易に想像できる。
──でもそれって前衛じゃなくて後衛でも同じじゃないか?
フェイみたいに弓で攻撃しても、副団長みたいに魔法で攻撃してもその前提は変わらない。
ああ、やっぱり俺は1人じゃ何もできないじゃないか。
──1人じゃなにもできない?
(そもそも──なんで俺は1人で完結しようとしてるんだ?)
じっと立ち止まってケントは、突然何かを思いついたように振り返り、走り出した。
村の中を走ってケントが向かった先は傭兵たちが宿舎代わりに使っている民家。
その扉を開け、その中に入ると、木箱の中を見ているレックスと羽ペンを片手に地図を見続けるフェイという傭兵がいた。
「レックス!」
「ケント?どうしたんだそんなに慌てて」
「仕事中にごめん、ちょっと聞きたい事があって……回復魔法って──みたことある?」
「回復魔法?ああ、あるぞ、一応な」
「回復魔法をサンダーライトの人間が誰も使ってないのって、なんか理由があったりする?」
「そうだな、まず回復魔法は俺たちや冒険者のような連中が使う事はほぼないだろう」
「それって……なんで?」
「なんでって……なんでだ?フェイ」
突然の専門外なケントからの質問に、同じように疑問を覚えたレックスは、隣にいたフェイという傭兵に返答を投げた。
オールバックのように青い髪を首後ろで縛っている髪型をしているフェイ。
彼は弓使いではあるが、氷魔法を使った中距離戦も得意としているのもあり、魔法の知識もある傭兵なのだ。
「そうだな、まず回復魔法というのは精神力に依存する所が大きい。精神力というのはある種、信仰心のような側面もあってね。だから教会に属する聖職者や、王に忠誠を誓う聖騎士のように、盲目的ともいえる崇拝的な思考の持ち主じゃないと真価を発揮できない、まぁ信じる者は救われるってやつさ」
「精神力……」
ケントはさっき3と書かれていた自分のステータス値を思い出した。
「もし精神力のない人間が回復魔法を使った場合は?」
「恐らくだけど、魔法そのものは発動する。けど効果は限りなく──ないに等しいだろうね」
「そっか……」
ほんのわずかに見えたような気がした道筋が、あっけなく崩れた。
表情がほんの少しだけ落ち込んだケントにフェイが話を続ける。
「ケントは回復魔法師にでもなりたかったのか?」
「あ、いや。前衛以外の可能性を探ってみようかなって、魔法の可能性をいろいろ考えてたんだ」
「昨日マラークに言われた事か、あんまり気にするなよケント」
「気にしてないよ、でも試してみたいんだ」
「ケントはちゃんと考えてると思うよレックス。ケントが回復魔法にたどり着いたのも、この前衛が多い傭兵団では、威力の高い魔法が使えない事を想定したんだろう」
(マラークが言ってた事と同じ事を言ってる、さすがウチの冷静担当のフェイだ)
「とはいえ、これから回復魔法に目をつけたにしても、そもそも教える人間がいないしな──あるは支援魔法か……」
フェイの独り言に近いようなその支援魔法という言葉が、ケントの耳に印象的に残った。
「支援魔法?」
「ああ、いわゆるエンチャンターといわれる、味方に支援魔法をかけて戦うタイプなんだけど……いや、これも現実的じゃないな」
「なんで?」
「普通、一般的な攻撃魔法って、発動させるだけの魔力があればいいだろ?でも支援魔法はそれだけじゃない、維持にかかる魔力が継続的に必要なんだ。並みの魔法の使い手が支援魔法をかけても、数秒で魔力が尽きて無力になる。そんな現実的じゃない魔法にリソースをはくなら、他の魔法に魔力を費やしたほうがよっぽど現実的なんだよ」
「それって逆に言えば、魔力さえあれば強力な支援魔法をかけ続けられるって事だよね?」
「ああ、そりゃそうだけど、そんなエンチャンター見た事はないし、やっぱり現実的じゃ……」
「フェイは支援魔法の使い方はわかる?」
「俺はわからないな……あ、でも支援魔法を学んだ事があるって、そういえば前に世間話をしてて聞いたことあるな」
「だれが?」
「村のロクシーさんの奥さん」
「──へ?」
天幕の入り口からこぼれる日の光を視認し、朝だという事を思考の片隅で寝ぼけながらも認識する。
昨日は訓練だなんだといろいろな出来事のせいか、ケントはいつの間にか疲れ果てて寝てしまっていた。
ふと横に振り返ると、隣の寝床ではハーヴェイが気持ちよさそうに寝ている。
ケントは自身の手で唇をなぞり、かすかに口に残った粘り気が乾いたような感触に、ゆっくりと昨日の出来事が夢ではなく現実だという事を再認識する。
4回──いや5回は出されて飲んだだろうか。
ハーヴェイの性欲は、絶倫どころか獣のような性欲だった。
そのあり余る性欲に、ふと関係があるのかはわからないが、ハーヴェイは大家族の末っ子だという事を思い出す。
それよりもあれだけ自分の口の中へと精液をぶっ放したにも関わらず、今日も変わらず平然とハーヴェイは股間を膨張させている。
(すごいなコイツ……)
じっと見つめるハーヴェイの布ズボンで作られた山頂。
次第に目を離せなくなる後輩の股間を見ながら、記憶にあるハーヴェイの言葉たちが、ケントの脳裏で飛び交う。
「いいっすよ、いつでも好きなだけ舐めてくださいよ」
「起こす時も舐めて起こしてください」
「やっぱ正直が一番っすよ」
「ほんとはチンコ好きなんすよね?」
「──舐めろよ、変態」
少しずつケントの目がうつろいで、まるで解けない暗示のようにその脳から出される電気信号にケントは従う。
ハーヴェイの股間へと手を伸ばしながら──
(んー?なんか……気持ちいい……なんだこれ……すげえ……)
その終わらない快感からか、ハーヴェイはゆっくりとヨダレを垂らしながら目を覚ました。
(あーチンコ気持ちいい……え?……気持ちいい?……なんで?)
ハーヴェイが恐る恐る半開きの目で、自身の股間を見てみると、三日月のようにそそり立った自身のペニスをケントが無我夢中で舐めている。
(あらら……まじっすか……)
寝ている自分のペニスを、何も言わずとも自ら咥えている先輩の姿を見て、ハーヴァイの口元が薄く緩んだ。
ハーヴェイはその手を伸ばし、口で半分ほどまで咥えこんでいるケントの頭に突然──その手を乗せた。
「……そのままで……」
ハーヴェイがそう一言を発すると、まるで突然地震が起こったかのように、その腰を大きく振りはじめ、頭に乗せた手でケントの頭を抑えつけていた。
ケントの様子を気にする事もなく、ハーヴェイは天井を見つめ、右手でケントの顔を抑え──ただひたすら本能のままにこの腰を振った。
ハーヴェイの割れた筋肉が、ケントの目の前へと何度も往復する。
ケントの喉奥を、ハーヴェイの長く三日月のようなペニスが繰り返し犯し続ける。
「あ……いくッス」
その小さな一声とともに、ハーヴェイの竿袋が大きく雄たけびを上げた。
竿道を通って、寝起きとは思えないほどの大量の精液がケントの口の中に出された。
ケントが竿から口を放すと、ゆっくりと口の中の精液を飲み干した──。
「へへっ……朝から変態っすねぇ」
「……おまえが舐めて起こせって言ったんだろ」
「でもまさか……ほんとにやってくれるなんて」
ハーヴェイが飛びつくようにケントに抱き着くと、勢い余ってケントにおおいかぶるように倒れた。
「お、おいハーヴェイ」
「サイコーっす!一生ついていきますよ、先輩」
新人傭兵の一日が、今日も始まる。
*
(……やっちゃった)
ケントは、小さな後悔とわずかな自己嫌悪を抱えながら、まるで猛暑の中を気だるく歩くように外を歩いていた。
そんなケントの心とは相反するように、清々(すがすが)しいまでに日差しが照らしている。
そしてケントの前をニコニコとご機嫌に歩くハーヴェイ。
「フーンフンフフーン」
(はー……案外、俺も欲望に忠実な人間だったんだな──ハーヴェイのも平気で飲んじゃうなんて……マラークが聞いたらなんていうか)
一日で相棒と後輩の男根を咥え、その精液を飲んでしまう変態的な自分。
しかし何より驚いているのが、自分にそんな一面が存在していた事──にも関わらずわずかに存在するそんな自身への自己肯定。
それは、元の世界で大人びた自分を演じていた反動か、傭兵団の人間と生活をし、ケントの性格が少しずつ変わっていったからなのか。
(欲望に忠実な人間に囲まれてると、影響って出るものなのかなー。アイツらの股間の匂いも昨日から 何か変なんだよな……異様にいい匂いっていうか──脳に届くように逆らえないんだよな)
*
「今日は大してやることもなくてね、手をかりるのは1人だけでいいよ」
「え?」
村の中心部で、ケントとハーヴェイは村人のロクシーと話していた。
村仕事を手伝おうとロクシーの元に来たが、村仕事も少ないようだった。
「そうですか……じゃあ俺が──」
「じゃあ俺がやります」
横にいたハーヴェイがケントの言葉を遮るように、手を挙げてその意欲を示した。
「は?」
「ケントさんは訓練でもしてきてください」
「おまえ、なんか変なモノでも食ったのか?」
「食ったのはケントさんっす」
ケントはハーヴェイの腹を殴った。
「ぐぇっ!」
「ロクシーさん、ちょっとごめんなさい」
ケントは自分よりも身長の高いハーヴェイの耳をつかみ、村人のロクシーから距離をとるようにハーヴェイを引っ張った。
ハーヴェイの耳元へとケントは笑顔を近づけ、小声で話す。
(ハーヴェイくーん、あーんまり調子に乗らないようにねぇ)
(いててて……違うんすよ、昨日アレだけ飲んだし、本当は魔法の練習したいんすよね?)
予想外のハーヴェイからの気遣いにケントは、掴んでいたハーヴェイの耳から手を放した。
「おまえ、そのために……?」
「そうっすよぉ!仕事は俺に任せてケントさんは1人で魔法の訓練をしてください」
「そっか……ありがとなハーヴェイ」
今度はハーヴェイがケントの耳に近づき、手で口元を隠すように小さな声でささやいた。
「……なので戻ったらサービスよろしくっす、変態な先輩」
*
「──すみませんロクシーさん、ハーヴェイをよろしくお願いします」
「はいよ、じゃあ今日もハーヴェイくんを借りるねぇ」
「体力があり余ってるみたいなんでこき使ってください」
ハーヴェイが頭の痛みを両手でこらえながら涙を流していたが、まるで自分は無関係かのようにケントはその場を立ち去った。
(ひっでぇ……戻ったらまたいじめてやるっすよ)
──目的地もなく、村の中を歩きながらケントはこれからの事を考えていた。
(魔法の練習……とはいってもな、昨日マラークに戦い方そのものが見当違いって言われたばっかりだし──)
ふと思いついたようにケントはその足を止め、キョロキョロとあたりに誰もいない事を確認すると、ケントはその口で小さく言葉をつぶやいた。
「……ステータス、オープン」
ケントの目の前にゲーム画面のような文字が浮かび上がってきた。
──────────
ケント=イズミ
LV5 職業 見習い傭兵
HP52/52
ATK 10
DFE 8
AGI 10
MAG 82/82
MEN 3
LUCK11
スキル
剣術2
風の矢弾1
炎榴0
精変換
──────────
そこには自身の名前、職業、能力、習得しているスキルなど、さまざまな情報が書かれていた。
ケントが自身の能力を示しているであろうそのステータスの数値を見ていると、MAGと書かれた項目の数値に驚いた。
MAG 82/82
(魔力──82!?昨日の朝は32だったのに?おいおい──これほとんどハーヴェイだろ……アイツ──)
昨日の朝は32だったその数値が、わずか1日で50もの数値が増えていた。
その原因は倉庫でのマラークの精液、そして天幕でのハーヴェイの精液だ。
ケントはたった1日で魔力がとてつもなく上昇している事に、嬉しさとわずかな残念さを交えながらもその画面を見ている。
(それと──MEN…メンタルの数値が3!?昨日よりまた下がってる……?)
ほんの数日前まで──初めてマラークの精液を飲む前までは、MAGと書かれている魔力のステータス値が0だったことに対し、MENと書かれた精神が12というもっとも高い数値だった。
しかし今では魔力のステータス値が異常に高い82になってる事に対し、12もあった精神のステータス値が3と最も低い数値になっていた。
(精神値が9も下がったって事か。このままいけばそのうち0になりそうだな……。これも『精変換』の影響か?けど魔力が尋常じゃないほど上がっていってる事を考えれば、魔法が主体の戦闘スタイルにするべきなのは間違っていない──でも何から手をつければいいんだろう)
ケントは手を握ると、自身の口に当てながら脳内で考え始めた。
この傭兵団はマラークが言った通り前衛が圧倒的に多い。
というかサンダーライト以外の人たちが戦ってる姿をあまり見ていないせいで、戦う事の基本がそういうものだと思ってた。
マラークの言う前衛に向いてない理由は、俺が生き物を殺す事に慣れていないからだろう──それって慣れるのか?
モンスター相手は慣れる事はできるのかもしれない──でも傭兵という仕事を続けている限り、人間を殺すと判断をすべき場面が必ず来る。
俺は……多分ためらうし、それが油断となって味方に迷惑をかけるのも容易に想像できる。
──でもそれって前衛じゃなくて後衛でも同じじゃないか?
フェイみたいに弓で攻撃しても、副団長みたいに魔法で攻撃してもその前提は変わらない。
ああ、やっぱり俺は1人じゃ何もできないじゃないか。
──1人じゃなにもできない?
(そもそも──なんで俺は1人で完結しようとしてるんだ?)
じっと立ち止まってケントは、突然何かを思いついたように振り返り、走り出した。
村の中を走ってケントが向かった先は傭兵たちが宿舎代わりに使っている民家。
その扉を開け、その中に入ると、木箱の中を見ているレックスと羽ペンを片手に地図を見続けるフェイという傭兵がいた。
「レックス!」
「ケント?どうしたんだそんなに慌てて」
「仕事中にごめん、ちょっと聞きたい事があって……回復魔法って──みたことある?」
「回復魔法?ああ、あるぞ、一応な」
「回復魔法をサンダーライトの人間が誰も使ってないのって、なんか理由があったりする?」
「そうだな、まず回復魔法は俺たちや冒険者のような連中が使う事はほぼないだろう」
「それって……なんで?」
「なんでって……なんでだ?フェイ」
突然の専門外なケントからの質問に、同じように疑問を覚えたレックスは、隣にいたフェイという傭兵に返答を投げた。
オールバックのように青い髪を首後ろで縛っている髪型をしているフェイ。
彼は弓使いではあるが、氷魔法を使った中距離戦も得意としているのもあり、魔法の知識もある傭兵なのだ。
「そうだな、まず回復魔法というのは精神力に依存する所が大きい。精神力というのはある種、信仰心のような側面もあってね。だから教会に属する聖職者や、王に忠誠を誓う聖騎士のように、盲目的ともいえる崇拝的な思考の持ち主じゃないと真価を発揮できない、まぁ信じる者は救われるってやつさ」
「精神力……」
ケントはさっき3と書かれていた自分のステータス値を思い出した。
「もし精神力のない人間が回復魔法を使った場合は?」
「恐らくだけど、魔法そのものは発動する。けど効果は限りなく──ないに等しいだろうね」
「そっか……」
ほんのわずかに見えたような気がした道筋が、あっけなく崩れた。
表情がほんの少しだけ落ち込んだケントにフェイが話を続ける。
「ケントは回復魔法師にでもなりたかったのか?」
「あ、いや。前衛以外の可能性を探ってみようかなって、魔法の可能性をいろいろ考えてたんだ」
「昨日マラークに言われた事か、あんまり気にするなよケント」
「気にしてないよ、でも試してみたいんだ」
「ケントはちゃんと考えてると思うよレックス。ケントが回復魔法にたどり着いたのも、この前衛が多い傭兵団では、威力の高い魔法が使えない事を想定したんだろう」
(マラークが言ってた事と同じ事を言ってる、さすがウチの冷静担当のフェイだ)
「とはいえ、これから回復魔法に目をつけたにしても、そもそも教える人間がいないしな──あるは支援魔法か……」
フェイの独り言に近いようなその支援魔法という言葉が、ケントの耳に印象的に残った。
「支援魔法?」
「ああ、いわゆるエンチャンターといわれる、味方に支援魔法をかけて戦うタイプなんだけど……いや、これも現実的じゃないな」
「なんで?」
「普通、一般的な攻撃魔法って、発動させるだけの魔力があればいいだろ?でも支援魔法はそれだけじゃない、維持にかかる魔力が継続的に必要なんだ。並みの魔法の使い手が支援魔法をかけても、数秒で魔力が尽きて無力になる。そんな現実的じゃない魔法にリソースをはくなら、他の魔法に魔力を費やしたほうがよっぽど現実的なんだよ」
「それって逆に言えば、魔力さえあれば強力な支援魔法をかけ続けられるって事だよね?」
「ああ、そりゃそうだけど、そんなエンチャンター見た事はないし、やっぱり現実的じゃ……」
「フェイは支援魔法の使い方はわかる?」
「俺はわからないな……あ、でも支援魔法を学んだ事があるって、そういえば前に世間話をしてて聞いたことあるな」
「だれが?」
「村のロクシーさんの奥さん」
「──へ?」
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