戦国魔法奇譚

結城健三

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岩村城無情

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瘴気の雲が厚く覆い尽くす曇天の空を、赤と黒の巨大なバハムートが翼を羽ばたかせ飛ぶ
それに並走して2匹のバハムートを視界に捉え続ける サンドマンの眼
比較できる物が無いために、その大きさも速度も想像することになるが
その飛行する姿から、あまりにも禍々しく、圧倒的なまでの生命力を感じる事が
この映像からでも容易に想像することができた

「赤いバハムートがフォゴ、黒いバハムートがナーダと言うそうです」

「自分達に名前を付けるほどの知能があると言うのか!?」

「ルイ、ネボアもナーダも会話が出来るのですから、侮ってはいけません」

「エヴァ、どのくらいの速度で飛んでいると思う?」

「そうですね、最高速度はわかりませんが、今まで飛んでいる姿を見た限りでは
巡航速度で200kmまでは届かないと思うのですが。。。」


ブルートが顎に手を当てて、考え込む素振りを見せている
「そうなると、ここまで1時間足らずで到着する事になるが、奴らの言った時間よりも
2時間も早く来る事になるな」

「所詮、魔獣だ時間も適当なんだろう!?」

「そうだろうか?あの黒いバハムート、ナーダから感じられた知性はもしかしたら人間
以上にも感じられたがな。。。」

「嫌な。。。感じが。。。するな。。。」

「迎え撃つ準備をしたほうがいいだろ!?」

「そうなんだが。。。本当に、ここに向かっているのだろうか?千代、サンドマンの視線を地表に向ける事は出来ないだろうか?」

「はい ブルート先生、サンドマンに聞いてみます」
ほぼ空と2匹のバハムートしか映っていない映像から、進路を特定するのは困難であった

「ちょっと良いでしょうか? あそこに見える稜線は、御嶽山から西のここを目指しているのではなく 
南に向かっている様に見えますが。。。」
真田幸隆が遠慮がちに、会話に入ってくる

「幸隆よ 本当なのか? わしにはまったくわからんが?」

「何度も行軍で見ていますので、間違いありません あの遠くに見えているる稜線は甲斐駒ヶ岳
木曽の辺りを飛んでいるものと思われます」
全員の視線が壁面の映像に釘付けになる

「確かに、そう言われてみれば。。。見覚えがあるな!」

「木曽の辺りと言うと、どこに向かっているんだ!?」

「俺は秋山虎繁殿との行軍で、あの峰を越えたぞ!」

「「「「「「「「「「「「岩村城!!!!?????」」」」」」」」」」」」

「「助けに行かなければ!!」」

「エヴァ!ルイ!落ち着くんだ!!」
今にも駆け出しそうな勢いのエヴァとルイを制する ブルート

「ブルート!なぜ止めるんだ!? 早く行かないと皆殺しになるぞ!!」

「まだ岩村城だと確定したわけではないし 例え岩村城だとしてもルイ、お前はバハムートよりも早く飛べるのか? 間に合うはずが無いし、ここを手薄にする訳にもいかないだろう!?」

「避難してくれていることを願うばかりです。。。」


壁面の映像を固唾を呑んで見守る
重苦しい空気が、大食堂内に満ち溢れ ときおり誰かが吐く溜息が、やけに大きく感じられる
どれほどの時間が経過したのだろうか?

2匹のバハムートがゆっくりと下降をはじめ 黒いバハムート·ナーダの顎が落ち 
雷撃を纏った竜の息吹が吸い込まれるように見覚えのある山城に直撃する
天守より火が上がり、2発目の息吹きが二の丸を直撃する 音声の無い映像のみが、どこか現実感を伴わず
燃え上がる城郭と逃げ惑う人々を映し出す

「秋山~逃げるんじゃああああぁぁぁ!!!!」
武田信玄が叫ぶ

「岩村城には、僕の弟である御坊丸が!!!!」
信忠が悲痛な悲鳴を上げる

本丸を挟むように降り立つ フォゴとナーダ
恐怖で立ちすくむ女を片手で掴み上げ、腹に齧り付き
はらわたを引きずり出す 足元をすり抜けようと駆ける男を尻尾で弾き飛ばし
石垣に叩きつけると頭部が柘榴《ざくろ》のように潰れ、石垣にしみを残す
刀を持った侍達が、フォゴを取り囲むと四方から一斉に切り掛かるが、赤き竜の覇気で一瞬で燃え上がりながら弾け飛ぶ男達 遠巻きに見守っていた者たちまでが、倒れ伏し卒倒しているところを次々と頭を踏みつけられ脳漿を地面に染み込ませる 

音声の無いはずの映像から人々の悲鳴、無念の呻きが聞こえ
その壁面から人のはらわたのむせる様な血の匂いが立ち昇る気がした


「くっそーー!!こいつ等なんて事を!!」

「やめろー!やめてくれっーーー!!!」

「逃げるんだーー!頼む!!逃げてくれーーー!!!」
悲鳴と怒声が乱れ飛ぶ 大食堂内

目を見開き、強く唇を噛みしめ画面を凝視する 武田信玄
「ここへ来る前に腹を満たしていると言うのかっ!!
人間も腹を満たすために生き物の命を頂くが、こ奴らのは虐殺ではないか!!!」
噛みしめた唇から血を滴らせ、押し殺した怒声を吐く

「満腹丸君の所へ行ってきます!おりんちゃん一緒に来てください!!」
おりんの手を取り階下の練兵場へと駆け出す エヴァとおりん


天守閣で雷撃の衝撃で気を失っていた秋山虎繁が目を覚ます
「いったい何が起こったというのか? お前達!目を覚ますのだ!!煙に巻かれるぞ!! 起きろっ!!!」
燃え上がり、今にも屋根が崩れ落ちそうな天守閣から2人の従者を引きずり階下へと逃れる 

「おつやと御坊丸を避難させておいて、本当によかった。。。死に場所は、ここと決めているが、この命簡単にはくれてやるわけにはいかんぞ!!」
居室に飛び込み、床の間の鎧に立て掛けられた長槍を手に取ると階段を駆け下り
中庭へと飛び出す 秋山虎繁
そこには、目を覆いたくなる光景が。。。 腕が頭が足が、あちらこちらに散らばり
腕を引きちぎられた男の頭に喰らいつく黒い竜 咀嚼しながら頭を上げ 虎繁を見る
“グルルルッ”と喉を鳴らし 何やら値踏みでもするように目を細める ナーダ
武田信玄より下賜された愛槍をナーダに向け正眼に構える 秋山虎繁


「虎繁!!逃げるんじゃ!!そんな所で死なせる為にお前を行かせたのではないぞ!!
逃げろ!!!」
凄惨な中庭が映し出された画面に向かい叫ぶ 武田信玄


最下層 練兵場
北西の隅に繭を張る、満腹丸の元へ駆け寄る エヴァ
「満腹丸君 起きて下さい」
「。。。。。。。。。。。。。。。」
「満腹丸君!私です 起きて下さい!」
「天女様?。。。ネボアを消化するまで、まだ時間が掛かります」
「はい 解っています ネボアと話をしたいのですが」
「ネボアと話を? ちょっと待って下さい」
巨大な繭の正面に内側から黄色い光が灯り 焼け切れるように円状の穴が空き
徐々にその穴が大きくなっていく
「天女様 その穴から手を入れて、僕の背中に触れるとネボアと話が出来ると思います」
「ありがとう満腹丸君 よく聞いて下さい 今、岩村城が2匹のバハムートに襲われ
沢山の人が惨たらしく殺されています その虐殺を止める事と満腹丸君の解呪を条件に
ネボアを開放しようと思うのですが?」
「天女様!僕の解呪は後回しでもいいです すぐに止めさせて下さい!」
「ありがとうございます満腹丸君 必ず貴方も助けますから!」
正面に開かれた穴から腕を差し入れ、満腹丸の背中に触れる エヴァ
「ネボア聞きなさい! 聞こえますか?」
“天女と呼ばれる女か?”
脳内に直接ネボアの声が響く
「貴方の兄弟達が、人間の城を襲っています 今すぐ辞めさせなさい」
“何を言っている? 我の兄弟達も腹が減れば人間を襲う 餓死しろというのか?”
「今そのことについて議論する気はありません 貴方はこのままでは、あと数日で満腹丸君の体内で消化され消えて無くなることを理解していますか?」
“まったく驚くべき能力だな、我が抗う術が見つからないのだからな しかし我の兄弟達が救いに来ると信じているぞ”
「そこで貴方に交換条件です 貴方を兄弟に引き渡す代わりに、この満腹丸君の解呪と虐殺を今すぐにやめさせなさい」
“ふむ。。。断ったら?”
「この場で貴方の息の根を止めます 10秒で決めて下さい」
“どうやら、本気で言っているようだな。。。”
「あと5秒です」
“わかった その条件を飲もう フォゴ、ナーダよ遊びは止めて、我を迎えに来てくれ”
「満腹丸君の解呪は?」
“すでに済んでおる”
「おりんちゃん、満腹丸君を見て下さい」
「はい天女様、確かに解呪されています」
「では満腹丸君 ネボアをこの封印結界の中に移しますね」
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