戦国魔法奇譚

結城健三

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京都演舞

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《ほう あの娘の力は、これほどか。。。》

《侮ってはいけません!あの妖狐にも劣らぬ力の持ち主です!!》
夜叉の個体内で囁きあう 崇徳院とネボア

そう話している間にも、容赦なく圧縮され、手足があり得ない方向に曲がり
ボキボキッと骨の砕ける音が脳内に響く

《逃れないので?》

《ふむ 数百年ぶりの痛みを楽しんでいるのだが、ちと楽しみすぎたようだなどのように、逃れれば良い?》

《考えていないので!?》
慌てに慌てたネボアが、本能的に遠く離れた御嶽山に居る、2匹の兄弟竜に助けを求める
彼らに出来る事など、何も無いのに

エヴァが、夜叉に向けて突き出していた右手の平を、ゆっくりと握りしめる
球状の封印が、その中心に向かい収束し、夜叉が圧死すると思われたその時
エヴァの右手が跳ね上がり  夜叉から発せられた ドス黒い波動により、まったく抗うことも出来ずに 
球状の封印が弾け飛ぶ
己の張った 封印が、弾け飛んだことに目を丸くする エヴァ

「油断していたつもりは、無いのですが。。。ちょっと驚きました」

《崇徳院は、霧の魔獣ネボアを取り込んでいるからね 厄介だよ》


《ほ~う ネボアやるではないか!》

《いや。。。驚きました 遠く離れた兄弟の力を使う事が、出来ました》

《それは、頼もしいな!》

《崇徳院様、ちょっと試したい事があります しばらくこの身体の主導をお貸し願えますか?》

《そうだな 今の礼だ、暴れるが良いぞ!》
封印から逃れた夜叉は、手足をだらんっと垂らしたまま かくんっと顎が落ち
開かれた口から 妖狐に向け、ドス黒い息吹を放つ 
唸りをあげながら、大気を切り裂く波動

「なぜ竜の波動!?」
エヴァが叫びながら 妖狐の全面に、波動を逸らすように斜めに結界障壁を展開する
パリンッと音を立てて砕け散る結界 上空に逸らされ雲の中へと消えていく波動

「なぜ竜の波動を撃てるのでしょう?」

《ネボアを取り込んでいるからね 考えたくはないが、ネボアも竜の力を使えるのかもしれないね》

「お玉様、行きます!」
空中に数百枚もの足場となる結界を投げ 羽衣を翻し 妖狐の背を蹴る エヴァ
結界を足場に舞うように風刃を放ちながら 夜叉へと向かって行くエヴァ
細く鋭い豪炎を吐き 風刃を滅していく 夜叉
8本の尾を鞭のようにしならせ、突風に風刃を乗せ放つ 妖狐
回復した両の手を突き出し、半透明な盾を創り出し体の前面を覆い尽くす 夜叉
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! 弾け落ちる 風刃
妖狐が8尾を広げ、稲妻を呼ぶ  夜叉の上空にある結界を蹴り 独鈷杵を握りしめ
何十本もの稲妻を避けながら、夜叉に向かい頭から突っ込んでいく エヴァ

「青龍!力を貸しなさい!! やあああぁぁぁぁぁっ!!!」
独鈷杵の固く鋭い部分を、夜叉の創り出した盾の中央に突き立てる
バリンッ!!! 砕け散る 盾
自分の左側に結界で、壁を作り 疾風を掛けながら、思いっきり壁を蹴る エヴァ
目にも止まらぬ速度で、独鈷杵に妖狐の稲妻を載せ、夜叉の脳天へと独鈷杵突き立てる
ドガッ!!! こちらも目にも止まらぬ速度で嵐山の森林の中へと吸い込まれていく夜叉
バサッ!バサッ!バサッ!! 数本の枝を折りながら、地面に叩きつけられる 夜叉

《ほ~う あれを受けても無傷か?》

《はっ兄弟の強度に助けられました》

《それにしても、貴様も余も実体を持った戦いには、不慣れなようじゃな》

《お恥ずかしい。。。しかしこれほど楽しいとは、思いませんでした》

《楽しみ中に悪いが、主導権を返してもらうぞ 約束通り妖狐を滅した後は、この体は
好きにするが良い》

《はっ ありがとうございます》

「お玉様! 止めを刺してきます ここで待っていて下さい!!」
自然落下に羽衣の加速を乗せ、嵐山の森林へと飛び込んでいく エヴァ

「えっ!?」エヴァの頬を冷たい霊気が、掠めた気がした
嫌な予感に上空を仰ぎ見ると、妖狐の鼻先に手を当てている 夜叉が見える

「えっ! 瞬間移動をしたの!? お玉様っ逃げてっ!!!!!!」

落下している自分の正面に結界を創り出し それに激突することで急制動とし
それを足場に、羽衣に風魔法を纏わせ 100m以上も上空に居る 妖狐と夜叉へと向かい
結界を蹴る エヴァ


ここで待っていろと嵐山に降下して行く 天女を目で見送り
視線を戻した先に、夜叉の手の平が、自分の鼻先に触れようとしていた

《皇后よ これまでだ!》

《あんたもね!》
そう言い、ニヤッと笑った 妖狐の鼻先に、夜叉の手の平が触れた

《“我の血を以て この妖狐の生命の鼓動を止め給え ナウマク・サマンダ・ボザナン・オン・マリシェイ・ソワカ ナウマク・サマンダ・ボザナン・オン・マリシェイ・ソワカ ナウマク・サマンダ・ボザナン・オン・マリシェイ・ソワカ”》
夜叉の手の平から、黒い霧が噴き出し 妖狐の全身を包む
見る間に、妖狐の光り輝いていた金色の体毛が、灰色に染まり 
8本の尾は、力なく垂れその瞳から生気が失われていく

《これが余の最呪の呪文だ!地獄に落ちるがいい!!》
ところが、さらに激しく、夜叉の手の平から黒い霧が、吹き出し続け その手を振り解こうと
もがく夜叉 体中の皮膚がぼろぼろっと剥がれ落ち 抜け落ちた髪が風に乗り舞飛ぶ

《なぜだ!なぜ離れん!!??》
呪い返しにより、強制的に負の呪力を引き抜かれていく夜叉の体から急速に生気が抜けていく
夜叉の眼窩が落ち窪んでいき、体中の血液が抜かれたかのように枯れ果てて逝く

《呪い返しさ。。。一緒に地獄へ行こうじゃないか。。。》
わずかに開かれた眼で、夜叉を見る 妖狐
その刹那、妖狐の鼻先を掠め、夜叉の手首を切断しながら エヴァの放った風刃が妖狐と
夜叉を別ける 力無く落下していく2体 駆け上って来たエヴァは、妖狐の体を受け止め
結界の上に座り込み、枯れ果てた妖狐を胸に抱き 回復魔法を掛け続ける

《あたしに魔法は効かないって。。。言ったじゃないか。。。悲しむんじゃないよ
半分霊体だからね。。。数年で戻ってくるさ ルイによろしく言っておくれ。。。
短い間だけど。。。楽しかったって。。。》

「お玉様~~~!!!!!」
強く抱きしめた妖狐の遺骸に、エヴァの涙が染みをつくっていく
妖狐の全身の力が抜け、最後の命の灯火が消えようとしていた その時
エヴァの記憶が呼び覚まされる 胸元に手を入れ 殺生石の欠片を見つめる

「これは、400年もの間 お玉様の妖力を吸い続けて
変異したはず これを媒介にすれば、治癒魔法が効くかも」
握りしめた殺生石を妖狐の胸に当て、慎重に治癒魔法を流していく トックンッ。。。。
トックンッ。。。。。。。。。。。。トックンッ。。。。。。。。。。。
今にも消え入りそうだった 妖狐の鼓動が弱々しくはあるが、確実に鼓動を刻み始める
しかし美しかった毛並みは艶を失ったまま 目を覚ます様子もない

「これが呪いか。。。? 除霊をしなければいけない 誰? 誰が出来る?」
エヴァの居た世界には、呪いという魔法もスキルもなくアンデッドの使う【腐蝕】に症状が酷似しているが
微妙に、今の妖狐の状態とは、違和感を感じる

「おりんちゃん! おりんちゃんなら解呪出来るかもしれない!!」
結界の上に立ち上がると、妖狐を胸に抱き、殺生石を胸に当てたまま、伝書鳩を飛ばすために下鴨神社を目指し走り出す エヴァ


嵐山の森に落下し、背の高い杉の枝にぼろ切れのように引っ掛かっている 夜叉

《崇徳院様!崇徳院様!!》
ネボアが必死に呼びかけるが、崇徳院の返事は無い

《なぜ この体から出られない! 早くこの場を離れなくては、あの女が!天女が来る!!》
半狂乱になりながら、兄弟竜に助けを求めるネボア


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