戦国魔法奇譚

結城健三

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メテオ·ストライク

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「うん? 雲のさらに上から大きな石。。。?」
武田信勝が腕組みをして、首をひねる

「それは、大きな石を、お空に投げて、敵に命中させるわけですね!?」

「「「「「茶々、それは無いな!」」」」」

「あっ!わかりました!!星を落とすんですよ!!」
真田幸村が、どうでしょう?とみんなの顔を見渡す

「「「「「どうやって??」」」」」

「土属性を持っている皆で、空に大きな石を作るのは、出来そうじゃない?」
千代の発言に皆が首を捻りながらも、頷く

「「「「それなら出来そうだけど。。。」」」」

「それを火竜に落としたところで、仕留められそうもないよね。。。?」

「確かにそうだけど、避けることが出来ない程の速度で落としたらどうだろう?」
織田信忠が年長者らしく、みんなの意見をまとめてみる

「でもそれだけじゃあ、倒せそうな気がしませんね」
井伊直政が冷静に分析をしたようだ

「じゃあ その大きな石を火竜の苦手な水や氷で覆ったらどうだろう?」

「政宗!それは名案だな!!」

「それだと信忠君、石ではなくて岩の方が良いのではないでしょうか? 衝撃で砕けて
岩の内部にまで氷属性を付与しておけば 飛び散った岩で、さらに大きな損傷を与えられるのでは?」
北条氏直の意見に全員が、真剣に考え込む  喧々諤々《けんけんがくがく》 夜遅くまで、意見を出し合う 

茶々が、眠たそうに目を擦り、大きく欠伸をした事を、きっかけに信忠が、締めに入る
「夜も遅いし、話し合った事を、おさらいしよう 土属性を持つ信勝、政宗、満腹丸が作った岩を
風属性の茶々、千代、そして僕が打ち上げ、軌道を修正しながら
さらに加速させる 同時に土属性の3人は、岩を巨大化させていく そして水属性の幸村、氏直、直政が
氷魔法を付与して火竜にぶつける という事だな、それぞれ頭に留置いておいてくれ また明晩に話そう」
織田信忠が話をまとめると、今夜は解散となり、それぞれが就寝につく


そして翌日、夕食後に早めに部屋へと集まり、昨夜の続きを話し始める
「昨夜の秘密会議の後に、ずっと考えていたんだが、まず一番の問題は、岩を打ち上げる事だと思うんだ 
そんな大きな岩を雲よりもさらに高く打ち上げる事なんか、出来ないだろう?」
打ち上げを担当する、茶々と千代が首をひねる

「そこで俺が、精霊ノームを使って、今日試しに小石を打ち上げてみたんだ
そうしたら、このくらいの小石なら雲まで届いたんだ」
そう言い、親指と人差し指で直径3cmほどの輪を作る

「これに茶々と千代で風魔法をあてて加速させながら、信勝、政宗、満腹丸の土魔法で
その小石に岩をどんどん貼り付けていって欲しいんだ それと同時に幸村、氏直、直政の3人が氷魔法を付与していく、特に幸村の氷の精霊フラウには期待しているぞ 軌道の修整は、僕のノームと風魔法に任せてくれたらいい」

「なんだか そうやって聞くと出来そうな気がしてきたね!」
茶々が嬉しそうにはしゃぐ

「僕も今日、小石に岩を融合させて巨大化させる練習をしていたのですが、思ったよりも上手くできました 上空でもそれが可能なのか、一度試さねばなりませんね」
伊達政宗がみんなの顔を見渡す

「確かにそうだな、一度試せば問題点が浮かび上がるかもしれないな じゃあ明日の昼食の後
休憩の時間に集まろう みんなもそれでいいか?」

「「「「「「「「はいっ!了解です!!!」」」」」」」」

「じゃあみんな、頭の中で何度も練習しておくんだ とても大事な修練になるからな」


翌日、急いで昼食を摂ると 天武の面々が揃ってエヴァ達が食事をしているテーブルへと行き 
見て欲しい術があると伝える
食後に大垣城の、中庭へと集まるが 何事が始まるのかと手の空いている者たちまで
続々と集まり 中庭が埋め尽くされる

「えっと。。。? 何を見せてもらえるのでしょう??」

「天女様!茶々達みんなで小石を、お空にぎゅーーーんっと上げて、びゅーーーんっと
敵を倒しますから 見ていて下さいね!」

「それは、つまりみんなで攻撃魔法を考えたという事だな? 良いだろう、見せてもらうからやってごらん」
ブルートが茶々の頭を撫でる

「攻撃魔法なら、的が必要なのではないか? 俺がなってやるか??天女様の加護を頂いているから遠慮は要らんぞ」

「慶次郎先生、細かい調整の自信がありませんので 今日は、遠慮しておきます」
織田信忠が頭を下げる

「皆でやるのでしたら、私も仲間に入れてほしかったです。。。」
ちょっと涙目の お雪
「お雪さんは、先生なので。。。ごめんなさい」

「皆が。。。待ってる。。。がんばれ。。。」
久しぶりに口を開く アラン

「じゃあ みんないくぞ!!」
織田信忠が天に向け、両手の平を翳す

「土の聖霊ノームよ、汝の作りし石を、この空の彼方に!力をお貸しください!!」
信忠の両の手の平から、拳よりも一回り小さな石が撃ち出される
茶々と千代の二人が、風魔法を唱えると、中庭にいる者の裾が捲れ上がるほどの風が
撃ち出された石に、さらなる推進力を与えようと、渦を巻きながら石の後を追う
まるで重力を感じさせない速度で、グングンと上昇していく
巻き上げられていく風に乗った砂が、石へとまとわりつき 信勝、政宗、満腹丸の土魔法で
どんどんと巨大化し、雲にも届きそうな距離にも関わらず、肉眼で確認できるほどの大きさへと変貌し
青空を氷魔法の影響で白い糸を引きながら、速度を落とす事なく、雲を突き抜ける
すでに石と呼べる大きさでは無く、巨岩と呼ぶに相応しい 質量を感じさせる
雲を突き抜けてから数秒 中庭に居る全員が、空を見上げあんぐりと口を開く
天武の面々は、自分の仕事に夢中で事態を把握できていない

「土の聖霊ノームよ、汝の分身である撃ち上げし石に、さらなる質量を!!
そして私の作る風の流れに乗り、さらなる速度を!!」
信忠がノームに語りかけ、風魔法を行使する
そこに幸村、氏直、直政の氷魔法が、土魔法で質量を増していく岩と岩との間に凝縮された
氷の層を作り、どんどんとその厚みを増していく

「氷の精霊フラウよ、我が願いを叶え下さい あの力なき石に何者をも凍りつかせる
不可避の氷の加護を与え給え」
真田幸村の全身が一瞬青白く光り、青白い筋を残して天空へと吸い込まれていく
雲間に消えてから、何秒経過したのだろうか?
中庭の観衆が、この魔法は不発だったのでは?と首を傾げ始めた頃
雲を切り裂くように、顔を出した青白い冷気をたたえた巨岩。。。
見ている者たちの目が飛び出るほどに見開かれ、顎があんぐりと落ちる
目測でおよそ。。。直径200m。。。

「みんな!すぐに魔法を止めてください!! 風魔法を使える人は、押し返して!!!」
エヴァの叫びに茶々に千代、信忠、直政が必死に風魔法を当てて押し返す

「メテオ·ストライク!? これは、まずいだろ」
伝説級の魔法を目の前に青ざめる ブルート

「信忠、あれをどこに落とすつもりなんだ??」

「ブルート先生! 伊吹山に落とすつもりだったんですが。。。」

「琵琶湖が、もう一つ出来てしまうな なんとか琵琶湖に落ちるように修正するしかないな」
城内から見ている者たちには、まるで自分の上に落ちてくるような錯覚を受け 騒然とする

「やってみますが!さらに西に10km以上は無理かも知れません。。。」

「無理でも、やらなくてはなりません」
そう言い駆け出す エヴァ


羽衣を、羽ばたかせるように駆けながら 指示を出す エヴァ
「お雪ちゃん!精霊ヴァルキュリアの加護【鼓舞】をみんなに!!」

「はい 天女様!ヴァルキュリアよ願いを聞いて下さい ここに集いし魔力に脈動を!
奮い立たせよ!!」
魔力を持つ者たちの魔力量が上昇し、行使する魔法の質までもが変化する

「茶々ちゃん!千代ちゃん!信忠君!3人で竜巻を作って下さい、巨岩の軌道を西へ逸らせます」
大垣城の西側に巨大な竜巻が発生し、巨岩に向け伸びていく
「信勝君!氏直君!その竜巻に火球を撃ち続けてください そして政宗君!炎の精霊エフリートに
竜巻に炎の加護をお願いして下さい!! 上昇する気流が出来て、落下速度が鈍るはずです」

「はい!天女様 炎の精霊エフリートよ、我の魔力を喰らい、すべてを燃やし尽くす獄炎の熱波を顕現させよ!!」
伊達政宗の体から、赤い光が解き放たれ、竜巻へと向かう すると大きく渦を巻く竜巻上部に
飲み込まれ ぼっ!!と言う炸裂音を発し、数本の火柱が立ち昇る
その竜巻が、氷の巨岩を、わずかに押し上げジュッ!ジュッ!と体積を削っていく
地上には大粒の雨が降り注ぎ、たちまちの内に泥濘を作る

「満腹丸君、直政君その場で、土魔法で、出来るだけ大きな石の塊を作っておいて下さい 
忠勝殿と慶次郎殿は、私が合図をしたら4人で、その石の塊を撃ち出して下さい 幸村君は、待機です」

「「「「「はい天女様!!」」」」」
満腹丸と直政が、両の手を翳すと何もない空間に丸い石が浮かび上がり、徐々に厚みを増していく 
その後ろに待機する忠勝と慶次郎に真田幸村

「アランとブルートは、私に着いて来て下さい!!」
空中に結界魔法で次々と足場を作り出し、上へ上へと飛ぶように登って行く

「偉いことになったな、子供達の魔力がこれ程の物とは。。。正直、驚いたよ」
ブルートがエヴァの後ろを飛びながら、話し掛ける

「私も驚いています、なぜこんな事を思いついたのかも」

「すまん。。。俺のせいだ、だいぶ前にだが、最強の攻撃魔法はなんだと聞かれて
伝説級魔法メテオス·トライクだと教えてしまったんだ まさかこんな形で再現するとは
思いもしなかったが。。。」
バツが悪そうに、うつむくブルート

「こんな形で、再現するとは、思いませんよね。。。絶対に被害を出さずに、なんとかしなければ
いけませんね あの子達の将来のためにも。。。」
そう話しながらも、一歩一歩結界魔法で作った階段を登って行く
炎の奔流と化した、竜巻の熱がちりっちりっと伝わってくる 耐熱強化を3人に掛け
地上の満腹丸達が、作り上げている石を見ると直径10mにも届こうかという大きさだ
風魔法に乗せ、各々に指示を出す

「満腹丸君、直政君、忠勝殿、慶次郎殿 その石をアラン目掛けて、思いっきり撃ち出してください!」
なんの戸惑いもなく、持てる力の全てでアランの背中に向けて巨石を撃ち出す4人

「幸村君!鉄の精霊フェローに語りかけて、その石を、鉄の塊にしてもらって下さい」
一瞬で鈍い光を放つ、鉄塊へと化けた巨石がアランの、背中に風を切りながら迫る

「アラン!貴方の大槌でメテオの中心へと弾き飛ばして下さい!!私とブルートで風の道を作り誘導します」
アランが大槌の柄を極限まで伸ばし、身を屈めた頭上を鉄塊が通過すると同時に大槌を振りかぶり渾身の力で叩き、弾き出す
唸りを上げながら、風の道に乗りメテオへと突き進む巨大な鉄球
炎の竜巻に煽られながら、西へ西へと流されていたメテオの中心に向けて、吸い込まれるように消えていく鉄球
ドッガアアアアァァァァンンンッッッ!!!!!!耳をつんざく爆音が響き
上昇するかのように軌道が上を向き、巨大すぎる花火のように爆散するメテオ
その瞬間に湧き上がる絶叫!咆哮!歓声!人々の声が大垣城を包み込む
粉々に砕けた青い破片が琵琶湖に降り注ぎ 湖面を凍らせる

大垣城の中庭に舞い降りた エヴァ、アラン、ブルート
地面に額を擦りつけ土下座する天武の子供達

「貴方達は、何をしているのですか?」 優しく聞くエヴァ

「はい まさかこのような大変な事になるとは思わず 軽率でした」

「「「「「「「「ごめんなさい!!!!!」」」」」」」」

「貴方達には、なんの非もありませんよ ちゃんと私達に断ってから術を行使したのですから 
詳細まで聞くのを怠った私達にも責任があります」

「それでも一歩間違えば、大変な被害を出していたかも。。。」
織田信忠が力無く応える

「みんなの力で、それを回避できたのですから 良しとしましょう
それよりも破片が降り注いだ、琵琶湖の漁師や琵琶湖の東側の住民や農地に被害が無かったか
手分けして調査をしなければなりませんね すぐに向かいますよ」

「「「「「「「「「はい天女様!!!!」」」」」」」」」

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