戦国魔法奇譚

結城健三

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エヴァ説教をする

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先ほどから、織田信長より預かり、山県昌景の手にある太刀をチラチラと覗き見る ルイ

「どうしたルイ? 何か気になることでもあるのか?」
ルイの方に太刀を差し出し、手に取るように促す 山県昌景

「いや この世界にも魔剣って、あるのだな 初めて見たよ」
手に取り 鞘からは抜かずにしげしげと眺める

「魔剣? この剣が、そうなのか?」

「ああ 化け物が宿っている 正真正銘の魔剣だ 忠勝の[蜻蛉切り]も近いが あれは伝説級でこれは神級だな」

「よく分からんが。。。それは、何が違うのだ?わしの太刀も業物だが、何が違うというのだ?」

「そうだな、もちろん刀鍛冶の腕も使われている鋼も並では無いのだが、それ以外の要因なんだよ 例えば山県様の刀で神を切ったとしよう すると その刀は、どうなると思う?
切られた神の無念や沢山の人々の畏敬の念を受けてただの金属では無くなるんだよ」

「なるほどのう よく分からんが宿るという事じゃな 確かに鬼を切ったという伝説の刀が何本か存在するが。。。 これなのか?」
ルイの手から太刀を取り戻し 織田信長を見る



「己のつまらぬ意地のために家康を手に掛けた事 腹の底から悔やんでいる あやつの幼き頃より可愛がり
独り立ちをしてからは、何かと手を貸してきたつもりだ それが正月の家臣のいる場で信玄公と手を取れと言われて。。。つい 頭に血が登ってしまった」
押し殺すような声で吐き出す 信長

「やってしまった事を後悔しても 家康殿は戻っては来ぬ この件や比叡山、将軍義昭公を蔑ろにして来た事 
家臣の忠義が揺れておること、お主ほどの者ならば気付かぬ筈がなかろう? 
いずれ近しい者に寝首を搔かれておったと思うぞ」

「わしは、気付いておったのか? 気付かぬふりをしていたのかもしれん。。。」

「さて この場を、どう収めるつもりじゃ? とことん殺し合うか? お主の首1つで収めてみるか?」
ベヒーモスの瞼がピクリッと動く その場に居た者 全ての背筋に冷たい物が走る
と同時にルイが、地面に手をつき唱える【土牢】ベヒーモス周辺の土が盛り上がり 土柱を囲うように格子状の壁が出来上がり ベヒーモスを土で出来た巨大な牢屋に捕らえる グルルルルルッ イビキの様なくぐもった鼻息を漏らし 土埃を立てる ベヒーモス  目を丸くして 後退る、織田信長

「この竜は、真に生きているのじゃな。。。それにも驚いたが、その者が使った術は何なのだ!?」

「天より、わしの元へと遣わされた天女様の付き人でルイじゃ 龍神殺しのルイとも言われておる」

「噂には、聞いていたが。。。この者が。。。それで、天女様と言われるお方は、どのような方なのだ?」

すると何処からともなく現れた 徳本先生が口を開く
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに

「長く黒いつややかな髪 くすみの一つもない清らかで透明感のある肌
 覇王のようでもあり慈母神のようでもある圧倒無比な存在感 
 天上天下唯我独尊 それが我等が天女様に御座る」
鼻孔を膨らませ、一息に口上を述べる 徳本

「呼ばれましたか?」

「「「「「天女様!!!」」」」」

緋袴を翻し 颯爽と現れるエヴァ 
その天女の後ろを浮遊しながらついて来る、大きな氷塊 

「お館様、こちらが私の大切な仲間であるブルートとアランです よろしくお願いしますね」
そう言いながら、髪の毛をボサボサに伸ばした 寸足らずな百姓の服を着た長身の男と
フワフワと浮遊する氷塊を指差す

「ブルートです! 貴方が親方様ですね エヴァとルイが、大変お世話になりました 本当に本当にありがとうございました」武田信玄の右手を両手で掴み 今にも泣き出しそうに顔をクシャクシャにしながら 握った手をブンブンと上下に振りまくる

「いや 天女殿に世話になったのは、わしのほうじゃ してアラン殿は。。。どこじゃ?」
いつの間にかルイが、覆い被さり中を覗き込んでいる 人の丈ほどもある氷塊を指差す ブルート

「アラン! よかった。。。本当に生きていたんだな!!あの時に死んじまったと思ったよ。。。」
安心したのか ぺたりっと地面に座り込み 涙ぐむ ルイ 

「ブルートも独りでアランを守って、ベヒーモスまで縛り続けて。。。ごめんな気づかなくて」
皆に釣られて 氷塊を覗き込む 織田信長

「「「「上半身だけの大男!!??」」」」

「生きていますよ 2週間ほどで再生出来ると思うのですが この辺の造形がごにょごにょごにょ」
ブルートに後ろから口を塞がれるエヴァ 

「な、何をするのですか!」 この男、天女様に馴れ馴れし過ぎると思っている 徳本とその他数十名。。。

ー『俺は、一体何を相手に戦おうとしていたんだ!? 本物の竜に、天女に、龍神殺しに、上半身だけの大男に、謎の男。。。夢だな うん!きっと悪い夢を見ているんだ!!ー』信長が現実逃避に没入仕掛けたとき

「貴方が織田信長ですね! 実に不快極まり無いですね!!」
エヴァが表情も変えずに、言い放つ
すると、隣に立つ山県昌景の持っている太刀をスルリと抜き 舞うように信長との距離を詰めると
あまりにも美しい流れるような動作で上段から信長の頭頂部に向け、一刀両断にせんと太刀を振り下ろす
ぎゃっ!!そんな声が聞こえた気がした 刃先を地面にめり込ませたまま動かないエヴァの背後に両断された
赤いマントがパサリッと落ちる

双眸を見開きながら、己の額に手をやり その手の平を見つめる 織田信長
はっと我に返り 駆け寄る 明智光秀と柴田勝家 「殿!!」

「嫌なものを斬りました」

「わしは、何ともないが。。。何が起きたのじゃ?」
信長の表情が、憑き物でも落ちたような どこか穏やかな面構えに変わっている

「貴方、そのマントを、どこで手に入れたのですか?」
両断されたマントを足の爪先でツンツンとしながら聴く

「それは、数年前にポルトガルの宣教師だという男が献上品だと持ってきた物だ 黒人の宣教師なので珍しくてのう よく覚えておる」

「それは、呪われたマントですよ どこかの邪教によって沢山の生贄の血を吸わされた品ですね しかもとても強力な 推測ですけど、貴方を取り込んで、この国に邪教を広める足掛かりにしたかったのではないですか?」
するとマントから、赤い靄《もや》のようなものが立ち昇り、霧散していく

「そして、この太刀ですけど 出自はご存知ですね?」

「ああ それは[童子切安綱]だ、かの[酒呑童子]を切った刀だな」
やはりそうだったのかと顔を見合わせるルイと山県昌景

「とても強い怨念の込められた太刀ですが あのマントを媒介にして目覚めてしまったようです 貴方が自制が効かなくなった一端がこの太刀にあるんですよ というわけで、この太刀は没収です 魔剣と化しています 普通の人間では、扱いきれません」
そう言うと 剥き身のまま[童子切安綱]を、ルイに投げる
手にした[童子切安綱]を太陽に向け掲げ 目を細める ルイ
まるで語りかけるかのように、僅かに自分の魔力を流してみる

刀身がドクンッと脈打ち ルイの腕に融和をするかの様に、刀身にいく筋もの血管が浮き出てルイの魔力を吸い取ろうとでもするのかのように徐々に徐々に黒く染まっていく

「お前、酒呑童子って言うのか?酒?? 酒はやれないけど、もっと良いものをやるぞ!」
そう言い、さらに魔力を流すとドックン ドックン ドクンッ!! 大きく脈打ち 漆黒に染まる刀身

「待ってろ もっと美味いものを切ってやるからな」
山県昌景より鞘を受け取り [童子切安綱]を収める


「忠勝殿、そして皆さん ご覧いただきましたように この騒動の一因には、この邪教のマントとこの太刀があります 所有する者の人格を蝕んでいくほどの強力な呪いを掛けられたマントに鬼の宿った太刀を手にした事により
今回のような暴挙に出たと考えられます もしも放置していたら 巨大な力で、この国を間違えた方向に導いていたかもしれません おそらくその前に自ら身を滅ぼしていたでしょうが。。。」
思い当たる節があるのか 顔を見合わせ頷き合う 織田の家臣達

「そのような品を おのれ! あの宣教師め!!」

「黙りなさい!!」声を張り上げ 一喝するエヴァ 初めて聞いたエヴァの大声に背筋を伸ばす一同

「貴方の心の弱さと未熟さを見抜いて、その弱さにつけ込んで その宣教師なる者もマントを託したのですよ!
人というのは、弱いものなのです その弱さに目を背けて強くなろうとする すると痛みのわからない
鈍感な人間になるのです 自分の痛みに鈍感になると人の痛みにも鈍感になるのです
貴方は、自分が強くなったと錯覚をしてしまった 錯覚をした人間は、他者を攻撃する。。。
痛みがわかりませんから 痛みに鈍感になり優しさを失う 弱いままで良かったのです 弱いままで家臣たちと手を取り合い 民に優しい国を作れば。。。 誰よりも強い国を作れたのに 貴方は、皆の大切な者の命を奪いました その罪を償いなさい」しーんと静まり返る 一同

「わしは、どこで間違えたのだろう?」そう呟く 織田信長に明智光秀が寄り添う

「殿 まだやり直せます」

マントから霧散したかに見えた 赤い霧が空中で渦を巻き 矢を形作る 見えない弓から放たれるように
ベヒーモスに向けて一気に加速を始める“Bahamut”そう叫び 土牢に囚われたベヒーモスの眉間を貫く

一瞬の出来事だった
眉間を貫かれたベヒーモスの体表が灼熱の真紅へと変わり 背中からバリッバリッと破裂音をたて2枚の翼が生える
その翼をバサッとはためかせると土牢が崩れ落ち ベヒーモスを中心に高温の核が爆散する

「障壁!!」 「氷壁!!」エヴァの障壁がベヒーモスも包み込み ブルートの氷壁が周囲の人間を高熱から守る

「逃げろ~!!」ルイが叫びながら ベヒーモスよりさらに高く飛翔し 脳天に[童子切安綱]を突き立てようと
太刀を逆手に持ち 加速を増しながら落下していく それにタイミングを合わせ障壁を解除したエヴァが
ベヒーモスを地面に縫い付けようと【重力魔法】を唱える
ズシンッと腹を地面につけたベヒーモスだが、その重力に抗い首を跳ね上げる
その脳天に着地すると同時に[童子切安綱]を尽き立てる ルイ
刃先が数十センチ喰いこんだ所で 首を捩り 自分の頭に向け尾を払う ベヒーモス
その尾を太刀で受け その力に逆らう事なく氷壁へと飛んでいき空中で反転をすると 氷壁を足場にして
両脚の筋力をバネにして、さらに加速を加え ベヒーモスへと飛んでいく ルイ
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