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第2章 魔導帝国の陰謀

千里眼の老婆

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 黒の国、ヴェールゴール。連合国一人口の少ないこの国には、太陽と月と星以外の光源がほとんど存在しない。何故なら、この国の国民には夜目が効く者が多く、ほとんどの民が明かりを必要としていないからである。
 ほぼすべての国民が隠密稼業に従事しているこの国では、昼間に人影を見ることはあまりない。代わりに、国民たちは陽が沈んでから再び昇るまでの間に活動することが多かった。
 その日の夜半、そんな黒の国のとある街に、赤の王が一人で訪れていた。といっても、今回はいつものような無断出奔ではなく、宰相から正式に許可を得た上での外出である。
 古い顔なじみに会いに行くと言って赤の国を出た王は、しかし先程から同じような場所をぐるぐると回っていた。
 黒の国では、金の国のように建物が整然と並んではおらず、石造りの建物たちは不規則に密集している。そのせいで道が細く複雑に入り組んでおり、初めて訪れる者を迷わせるような造りになっているのだが、王もまた、迷い人の一人なのだろうか。いや、そうではない。王の足取りに迷いはなく、彼は明確な意図を以て歩を進めていた。
(この道を右回りに三周した後に、次はあそこの角を曲がり、左に二周)
 頭の中で道筋を思い出しながら、王が歩く。そうして街の一角を回り続けて暫くしたところで、王はようやくその歩みを止めた。そして、先に道が続いてる目の前の空間に手をかざし、小さく呟く。
「オープン セサミ」
 すると、王が手をかざした場所を起点に、まるで皮が剥がれていくように空間が捲れ、複雑な模様が彫られた一枚の扉が出現した。そして、王がドアノッカーに触れる前に、王を招き入れるように扉がひとりでに開いていく。
 これは、空間魔法の一種であった。決められた場所を決められた順に決められた回数だけ回り、最後にある言葉を唱えることで扉が開くように設定された、比較的高度な魔法である。そして、その扉の先こそ、王が目的とする場所だった。
 手順に従いこの空間魔法を解除したのは王だったが、別にこれは王が施した魔法ではない。赤の王は、こういった緻密で複雑な魔法は大の苦手なのだ。この空間魔法は、扉の先にいる者が、自身が認めた訪問者以外の侵入を防ぐために施したものだった。
「お邪魔する」
 そう断って扉をくぐると、扉は開いたときと同じように勝手に閉まってしまった。それをちらりと見てから視線を前に戻せば、男の視界に、沢山の物が乱雑に置かれている部屋が広がった。物が多いせいか手狭に感じられるそこには、分厚い布がかけられた低いテーブルがあり、それを挟んで向かいの床に、背の曲がった老婆が座っている。
「久しいな、ご老人」
 王が老婆に向かって軽く会釈をすると、老婆は皺だらけの顔を顰めて返した。
「儂と会うというのに、随分とやぼったいものを張り付けているねぇ」
「やぼったいもの? ……ああ、目くらましのことだろうか」
 そう言った王が苦笑する。
「これは申し訳ない。一応これでも有名人でな。こうでもしなければ、目立ってしまって困るのだ」
「そうやって誤魔化したところで、お前さんはどうせ目立ってしまってどうしようもない人間だよ」
 呆れた声で言った老婆が鬱陶しそうに手を振ると、男を覆っていた目くらましの薄衣が見る見るうちに剥がれていき、赤銅の髪と金の瞳が露わになる。
「こら、何をする。これでは帰るときに難儀してしまう」
「うるさいねぇ。いつものように王獣にでも乗って帰りな。道中の食料くらい用意してあるんだろう?」
「まあ、それはそうなのだが……」
 ついでに薄紅の国でも冷やかして帰ろうかなぁと思っていた王だったのだが、どうやらその考えを見透かしたらしい老婆は、呆れ返った表情をした。
「またあの犬っころに怒られたいのかい?」
 老婆の言う犬っころというのは、グランデル王国のレクシリア宰相のことである。
「今回は公式に許可を得ての遠出だ。道中ちょっとしたトラブルに巻き込まれて帰りが数日遅れてしまったとでも言っておけば……」
「なんとかなるのかい?」
「いや、嘘を見抜かれて大目玉だな」
 そう言って笑った王に、老婆がやれやれと溜息をつく。
「まあそんなことは良いんだよ。取り敢えずお座り。儂に用があってきたのだろう?……大方、あの眼帯の坊やのことかね」
「さすがに耳が早い。キョウヤをご存知か。それでは、現状の帝国の動きも把握しているのだろうな」
 老婆の向かいに置かれた座布団に腰を下ろした王が、すっと真顔になる。
 王がこの老婆に出会ったのは、かれこれ十五年以上前のことである。自身を千里眼の婆と名乗るこの老婆は、その名の通り、千里を見渡す目を持っているらしい。はたしてそれが本当に千里先を見ているのか、はたまたもっと遠くにも及んでいるのかは王も知らなかったが、少なくとも王がこうして訪れるとき、老婆は王の欲しい答えを持っていた。
 今回も王は、天ヶ谷鏡哉の素性について老婆に尋ねようとやってきたのだ。円卓の十二国一の情報通である黄の王すらもエインストラについて有力な情報を持っていなかったため、残る手段がこれしかなかったのである。
 王自身としては、この老婆の力を借りることはあまり好んでいなかった。別に、老婆を好いていないだとか、そういうことではない。ただ漠然と、この老婆は人ではない何かなのだろうと感じていたので、そういう類のものの力を借りるのが憚られただけである。
 人には人の領分というものがある。それを侵すのも侵されるのも、本来の在り方から外れる行為だと、王はそう考えていた。
 それを証拠に、王がこの老婆の力を実際に借りるのは、これが二度目である。何度か相談に赴くことはあったが、基本的に過去の一回を除けば、結局王は己の手で全てを解決していた。
 だが、今はそんなことを言っていられない状況だ。そう判断しての訪問だったのだが、どうやら老婆は全てお見通しのようである。
「それでは単刀直入に伺おう。キョウヤはエインストラなのだろうか。そして、エインストラとは何者なのだろう」
「……訊くのは良いが、お前さん、それを円卓会議で話すつもりかい? 前にも言ったが、儂はひっそりと暮らしたいんだ。お前さんは儂の力を知っても利用しないから良いが、果たして他の王もそうだろうかね」
「……状況が状況だけに、諸王への報告は免れられないだろう。だが、円卓の王は皆王として優秀だ。貴女の力をむやみやたらに利用しようなどと考えるような愚か者はいない。もし万が一そうなったならば、そのときは必ず私が貴女をお守りしよう。だからどうか、お力添え頂きたい」
 そう断言した王に、老婆はふっと表情を緩め、微笑んだ。
「知っておるとも。少し意地悪を言ってみただけだよ。……それじゃあまずは、お前さんが一番気になっていることに答えようじゃないか」
 そう言って、老婆は机の上に置かれていたカップを口元に運んだ。
「あの坊やだけれど、恐らくは、エインストラであるとも言えるし、ないとも言える存在なんだろうね」
 ずず、と茶を啜ってから言われた言葉に、王が首を傾げる。
「つまり、どういうことだ?」
「お前さんも薄々気づいているんじゃあないのかい? あれはね、一種の先祖返りだと思うよ。大方、先祖返りが起こることで右目だけがエインストラとして発現したんだろう。恐らく、あの子は遠い先祖にエインストラを持つだけのただの人間さ。だから、あの子自身に次元を越える能力などある筈もないと、まあ、儂はそう思うね」
 そう言われたが、曖昧な表現で濁しているところを見ると、老婆自身確たる証拠があって言っている言葉ではないようだった。
「……仮にその言葉が真実で、キョウヤが純粋なエインストラではなかったとしても、エインストラの血が混じっていることにはなる」
 王の言葉に、老婆が目を細める。
「その通りだ。だから、お前さんたちからしたら厄介だろうね。儂も何もかもが判る訳じゃあないが、エインストラの血を使えば次元に干渉しやすいのは事実さ。仮にあの子が先祖返りだとして、薄れ切ったエインストラの血でどれだけのことができるかは知らないけれど、もしかするともしかするかもしれないからねぇ。それに、命の危機に瀕した生き物というのは、時に想像を凌駕するほどの何かを見せることもある。あの子を極限状態まで追い詰めれば、一度くらいはエインストラとしての力を発揮するかもしれない。……まあ、それも本当にあの子が先祖返りだったら、の話だけれどね」
 老婆はそう言ったが、彼女がこうして話すということは、あの子供がエインストラの血を引いている可能性は高いのだろう。そして、その血が次元に干渉する手助けになる可能性も高いということだ。それどころか、場合によってはエインストラとして覚醒してしまう可能性すらあるらしい。
「……エインストラとは、それほどまでに強大な力を持つ生き物なのだろうか」
 王としてはそれなりの回答を覚悟しての問いだったのだが、しかし老婆はやはり呆れたような顔をした。
「馬鹿を言うんじゃあないよ。あれにできることなんぞ、次元を越えることと、あとはせいぜい、万物の真の姿を見抜くことくらいさ。あれの役目は、神に地上の有り様を正確に伝えることだけだからね。例えば単純な力比べをするのなら、お前さんらの方が遥かに強い。特にこの地の人間は精霊に愛されているからねぇ。とてもじゃないが、エインストラでは太刀打ちできないよ」
「……万物の真の姿を見抜く、か」
 呟き、王は僅かに目を細めた。
 もし少年のあの目がエインストラとしてのものだったとしたら、だからこそあの異形の瞳は、王の本質を見抜いたというのだろうか。あの子は、自身すらも知らない王の核の部分を見抜いたというのだろうか。
「何か心当たりでもおありかい?」
「……いや、なに、もしそれが真実ならば、それはとても尊く運命的なことだなと思っただけだ」
 どこか優し気な声で言った王に、老婆は奇妙な顔をした。
「……お前さんが運命だなどと抜かすとは、やれやれ、これは世界の破滅も近いかねぇ」
「縁起でもないことを言わんでくれ。ただでさえ、そんなことは有り得ないとは言い切れなくなってきたところなのだ。とは言え、この地が神の選定を受けて誕生した地であることは事実だ。その地の守護を我々が任されている以上、我々が何かに負けるということはないだろう。すなわち、帝国が我々の手に負えないような脅威の召喚に成功する確率は、限りなく低いと考えられる。それこそ、神が読み違えでもしない限りは有りえないのではないだろうか」
 万が一を想定して各国の王を筆頭にリアンジュナイル大陸全体の警戒レベルを上げてはいるが、赤の王を含めた諸王たちは、ドラゴンの召喚が現実的だとは思っていなかった。この地が神にとっての要の地である以上、絶対にこの地が滅ぶことは有り得ないのだ。だからこそ、仮に帝国がドラゴン召喚の手筈を整えたとしても、実際に召喚されることは有り得ない。何故ならば、あんなものは一度召喚されてしまえばもう人の手ではどうにもならないからだ。だからこそ、途中経過がどうあれ最終的に召喚は失敗に終わるだろう。それがリアンジュナイルの民の尽力によるものか、はたまた天災によるものかまでは予測できないが、そうでなければこの地が滅んでしまうのだから、そうなる筈なのである。
 赤の王を以てしてもそう断ぜざるを得ないほどに、彼らの認識している神という存在は強大な何かであった。
 確かな事実に基づいて発言した王に、しかし老婆は難しい表情を浮かべた。
「……ご老人?」
 訝し気な顔をした王に、老婆が一度目を閉じて大きく息を吐く。そして彼女は、眉根を寄せたまま王を見た。
「儂はお前さんを気に入っているが、だからと言って儂が知っている僅かなことの全てを教える訳にはいかない。だから、お前さんに渡せる情報はほんの一握りだ。良いかい?」
 念を押すような言葉に、王が頷く。それを確認してから、老婆は再び口を開いた。
「ここ暫くの間、南東に良くないものが住み着いている。あれは人の手には負えないよ」
「…………なるほど。心得よう」
 一瞬だけ表情を強張らせた王は、次いで深々と頭を下げた。
 他でもない、これ以上ないほどに心を砕いてくれたのであろう老婆に、感謝の気持ちを表明したのである。
 老婆は確かに王を気に入ってくれているが、恐らく彼女には彼女の立場や事情がある。だからこそ、王を含むこの地の人間への過度な干渉は避けているのだろう。だが、たった今王に差し出された言葉には、彼女が引いている一線を越えてしまうに十分すぎるだろうほどの情報が含まれていたのだ。
 暫く、という単語に込められた意味は、恐らく二つある。一つは、十年前に急に帝国の魔導が発展したことと関わりがあると伝えるため。もう一つは、そんなにも長くの間、良くないものとやらが帝国に存在し続けられたという事実を知らせるためだ。そして極めつけは、人の手には負えないという一言である。
 つまり、老婆の言葉に含まれた意図を推測すると、
(十年ほど前から帝国に加担している何者かが、帝国の魔導を発展させた。そしてその何者かは、人の手には負えぬ力を持つ者。それこそ、ドラゴンに匹敵するか、それ以上か……。どちらにせよ、守護装置である我々の手に負えない生き物が十年もの間関わっていたというのに、神が干渉してくる様子はなく、事態はどんどん悪化しているということになる。では、神は何をしているのか。我々が思っているほど万能ではないか、そもそも所詮は防衛装置に過ぎない我々を守る気などないか、……もしくは、干渉できない事情があるか……。最初の可能性は低いと思うが、今の段階でそこまでの判断はつかない。だが、少なくともこれで我々の前提は崩れたな。神の決定は絶対ではない。……いや、待て。寧ろこれは、神が下した絶対の決定を覆し得る生き物が存在する、と考えるべきか? ……であれば、良くないものというのは……)
 そこまで思案したところで、王は深く息を吐き出した。
 考えるのはやめだ。老婆がその生き物を人の手に負えないものだと言うのであれば、それはその言葉の通りの意味である。王がここで思案に暮れたところで、事態が好転することはないだろう。
「ここは逆に、十年も時間があったというのに大した動きがなかったことを喜ぶべきか」
 ふっと微笑んでそう言った王に、老婆は何も言わなかった。だが王には、その表情が少しだけ緩んだように見えた。
(恐らくは、向こうにも動けぬ事情がある筈だ。そうでなければ、リアンジュナイルの制圧にこうも時間がかかることはないだろう。その事情とやらが判るのが一番なのだが、……その辺りは本丸に潜入中の黒の王に任せるべき、か)
「さて、霧は晴れたかい?」
 老婆の言葉に、王は苦笑した。
「これでご老人の知っていることの一握りだというのだから、困ってしまうな。どうやら、事態は我々が思っている以上に切迫しているらしい」
「それが判っただけでも、来たかいがあったというものじゃあないか」
「まったくもって仰る通りだ。ご尽力、感謝する」
 そう言ってからもう一度深く頭を下げ、王は立ち上がった。
「おや、もう行くのかい? 久々に会ったのだから、もう少しゆっくりして行けば良いというのに」
「お誘いは大変嬉しいが、そうはいかない。急ぎ、このお教え頂いた情報を連合国で共有せねばならんのでな。残念なことに薄紅の国で遊ぶ時間もなさそうだ」
「そう急ぐことでもないんじゃあないかい? 急いてどうなるものでもないよ」
「いや、実は近々キョウヤがグランデルに来ることになっていてな。なんとしてでも、それまでに情報共有くらいは済ませておきたいのだ。そうしないと、心置きなくキョウヤとの逢瀬を満喫することができん」
 大真面目な顔で言ってのけた王に、老婆が今日一番の呆れた顔をする。
「わざわざ自分の国に招いてデートとは、楽しそうで何よりだねぇ」
「いやいや、別にデートではないぞ。うちの魔術師が、キョウヤに魔法やら魔術やらの指南をすると言って張り切っていてな。どうやら、キョウヤの魔法などに対する知識が著しく不足しているのを案じているようだ。実際、仕組みを知らないよりは知っている方が、対峙したときに多少は対応できるだろう。という訳で、キョウヤ専用の魔法魔術講座のようなものを開くことになっているのだ」
 王はそう主張したが、老婆はやはり呆れた表情を浮かべたままだった。
「まあそんな訳なので、私はこれで失礼する」
 そう言ってさっさと身を翻してしまった王の背に、老婆が声を投げた。
「こらお待ち。まったくせっかちな男だねぇ。最後にひとつだけ話を聞いてお行きよ」
 その言葉に、扉のドアノブに手を掛けたまま、王が振り返る。まだ何か用かとでも言うように軽く首を傾げてみせた王を見つめ、老婆は深々とした溜息を吐いた。
「お前さん、自覚はおありかい?」
「自覚、とは?」
 全く心当たりがないといった風な王に、老婆は再び小さく息を吐き出した。
「鈍感なのは相変わらずだね。……まったく、目障りなくらいにきらきらぴかぴかと光り輝きよって。鬱陶しいことこの上ないよ。その様は一体いつからだい?」
「いつ、と言われてもな。……そんなにきらきらぴかぴかしているのか? 光源になった覚えはないのだが」
「頭の悪い返しはおやめ。腹の立つ男だね。……儂は確かに言った筈だよ? お前さんのそれは壊れた蛇口のようなものだ。一度緩んでしまえば、もう二度と締まることはない。だから精々緩まぬように気を張りなさい、と」
 老婆の言葉に、王が困った表情を浮かべる。
「相変わらず婉曲的な物言いをする。確かにそう言われた覚えはあるが、ご老人の言葉選びはいまいち判然とせんのだ。蛇口というのが何のか、私には検討もつかん。尤も、過干渉を防ぐための手段だと言うのならば、どうこう言えたものではないが」
「よく判っているじゃあないか。それじゃあこれは、そんな察しの良いお前さんへのご褒美だ」
 そう言って一度言葉を切った老婆は、王の金の瞳を見つめて目を細めた。
「良いかい。何もかも手遅れだ。お前さんの蛇口はもう緩んでしまった。状況が悪化することはあっても好転することはないだろう。だから、後はもう、これ以上緩むことがないように手を尽くすしかないよ。そうすれば、……まあ、四十くらいまでは生きられるんじゃあないかね」
 老婆の言葉に、王が僅かに目を見開いた。
「……前に聞いていた話と違うぞ。あのときは七十までならなんとかなるだろうと言っていたではないか」
 リアンジュナイル大陸の人間の平均寿命は百歳程度なので、それでも相対的には短命な方だ。だが、今老婆が告げた寿命は、それを遥かに下回る。これはさすがの王も予期していない言葉だったようで、彼は真剣な表情で老婆を見つめた。
「そんなことを言われてもねぇ。こうも馬鹿みたいにきらきらと輝きを放っていたら、そりゃ自分まで燃やし尽くしてしまうよ。お前さん、そんなに早く死にたかったのかい?」
「馬鹿なことを言わないでくれ。そんな訳がないだろう。……しかし、私はそんなにも輝いているのか? 自分では全く判らないのだが」
「判る者には判るんだよ。まったく、本当に呆れた王様だね」
 そう言った老婆の声には、ほんの僅かな憐憫のようなものが含まれていた。それに気づいた王は、しかし老婆の言葉を噛み締めることはせず、何かを思案するように目を伏せた。
「……そうか。では、光り輝いている私は、きっと美しいのだろうな」
 そして、老婆の視線の先、輝ける太陽にも似た炎の王は、蕩け出すような甘く優しい笑みを浮かべるのだった。
「ますます早死にになるのはいただけないが、それでも、私がこれまでよりも一層美しくあるというのならば、それは間違いなく、幸福そのものだ」
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