変わらないもの。

カワシマン

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前編

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「ほんまにごめん!終わったらすぐ連絡する」

何度も謝ったのち、そう最後に付け加えて通話終了をタップする。
体の芯まで襲ってくる寒さが、ことの重大さを煽っている気がした。

「何やってんねんおれ、、」

そうつぶやきながら、スマホで予約したお店に電話を掛ける。

「もしもし?今日18時から予約している、、」
 


終わった。予約時刻を遅らせることはおろか、早めることもできないレベルで埋まっているとのことらしい。

そりゃそうよな。クリスマス御用達の三ツ星レストランに当日空きなんてあるわけないことはサルでもわかる。しかし、数か月前から前もって彼女と一緒に探して見つけたお店なので、予約を全うできないのは遺憾すぎるし、何より楽しみにしていた彼女に申し訳ない。

すると、彼女への懺悔の気持ちを遮るかのように上司から早く帰社するよう連絡がきたので、仕方なく体の向きを変える。幸いにも残りの仕事はオンラインでプレゼンを聞くだけなので、会議中に空きがある店をリサーチしようと意気込み、わずかな希望をもってオフィスに戻っていった。


 
会議は順調に進み、出席者の表情が開始前より穏やかになっていくのが画面越しでも見てとれる。が、対して私は終始穏やかでない。むしろ一人だけ他社から邪魔しに来たスパイなのかと間違われるほど表情がどんどん曇っていっている。

そう、まったくと言っていいほど予約空きのあるお店が見つからないのである。

クリスマスは彼女と契りを交えた、いわゆる記念日というやつ。それが今日、破局日になってしまいかねない状況に陥っている。そんな不安を抱えながら、会議は締めに入る。

 
上半身がついてこれないくらい足をかき回して全力で彼女との待ち合わせ場所に向かって走る。どんな言い訳をしようか、いやしないで素直に謝るべきか、そんなことを考えながらとにかく走り続ける。無我夢中すぎて途中信号無視して車に引かれそうにもなった。


ついに横断歩道越しに彼女を見つける。

挨拶をすると彼女も返してくれた。

しかし、返してくれた喜びをとんでもなく大きな不安が余裕で上回る。

彼女は横断歩道越しに寂しそうな顔をしていた。
道路越しの最悪な雰囲気とは対照的に、歩道信号が明るく緑色に光る。

「ほんまにごめん」

今日は謝ってばっかやな、、そんなことを心の中で思う。
「仕事おつかれ様」
「ありがとう」

不機嫌なはずなのに、無理してそんな言葉をかけてくれる。
「ほんまに、ごめん、、」
「いいよ」
「どうしよっか」

もう予約の空きはどこもない、なんて言えるわけもない。

「お店、、、探してみる?」

そう口を開いたのは彼女だった。
 
予約していたレストランの空きがないことは伝えていたが、この辺どこのお店も空いていなかったことはまだ彼女に伝えてない。でも雰囲気的にそれを伝えたら終わると思って、奇跡的に空いている店があることを信じて彼女に続いて足を進める。

希望は儚く消え去った。

最初から結果なんて分かっていたのに。怖くて言えなかった。イエスが生まれた日だというのに二人雰囲気は全然おめでたくない。
 
冷たい雪が降り積もっていく中、2人はなんの当てもなく足を進める。

せっかくの記念日兼クリスマスという大切な日に、なぜ追加で残業があるのかと心の中で嘆く。しかし、よく考えてみれば前回会議を延期してもらったのも俺の都合なので、結局自業自得ではないかと再び心の中で嘆く。

彼女は今、何を考えているのだろう。不機嫌な様子だが、よく見ると申し訳なさそうにしているとも言える。まあ彼女に非なんか全くないのでそう見えてるだけだろうと一人で納得してまた前を向く。
 
「寒いね」

静寂を嫌うかのように、そう彼女がつぶやく。

「うん」

いつもならここで手を握るはずだが、それができない自分がもどかしい。

やっぱりもう一回謝ろう。

「あのさ」

そう先に口を開いたのは彼女だった。2人とも足を止める。

何を言われるのか、考えれば考えるほど、鼓動が早くなっていくのが分かる。

「うん」


「ごめんね」

彼女は何を謝っているのだろう。

と思いつつも、今回の件で彼女に非は全くないので謝る理由は最悪なものが一つだけ想像ついてしまう。



「 ——— 実はさ。」
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