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よん。

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「すまんな、ここちょっと今から使うから、あ、清水もすまんな」
 
え・・・・・・?
 
「あ、わかりました!」
 
 
おおーーーーーーーーー!!!!!
 
まさかのチャンス到来ではないか!
 
「失礼しますっ!!!」
 
人が変わったかのように元気な挨拶をする。
 
いつもなら、なにするんすかと理由を聞きそうだがそんなことはどうだっていい。千載一遇の願ってもないチャンスを生かすことにだけ集中しよう。
 
 
扉を閉める前に、自分自身の緊張を和らげるためにわざとらしく挨拶し、二人で教室を後にする。
 
迷わず、校門への道筋に足を向ける。そして足を進める。
 
ところが、隣に彼女がいないことに気づく。
 
 
「あれ・・・・・?」

 
拍子抜けした声を漏らす。
 
 
「大丈夫なん・・・・?」
 
「えっ・・・・ん?」
 
 
「だって、トイレ行きたいって・・・・」
 
不思議そうな表情で彼女はきょとんとしている。
 
「あっ! えっと・・うん、大丈夫!!なんか治ったわ!笑」
 
「え?笑」
 
「うん、なんか立ち上がったら、平気になった!笑」
 
思いっきり立ちながら黒板を消していたおれは、自信気にいって足を進め始める。
 
 
「え・・・・? そうなん?笑 まあ、それなら・・・いいんやけど・・」
 
彼女は不可解な顔をしながらも、いつでも論破可能なおれに対してこれ以上ツッコむことをせずについてくる。
 
たしかに彼女がまってくれる可能性もなくはないが、このチャンスを絶対に逃したくないからこそ存在する一切のリスクを消し去りたかった。
 
 
夢にも思わなかった。おれは今、彼女と並んで廊下を進んでいる。
 
 
しかし、これはあくまで「下駄箱に一緒に向かっている」だけで、一緒に帰っているとは言えない。下駄箱、遅くとも校門にたどりつくまでには、必ず決着をつけなければならない。
 
 
「ふう・・・・。」
 
 
だがしかし、何を話せばいいのか全くわからない。昨日ユーチューブでみた「女子にしてはいけない行動13選」の知識がかえって裏手に出ているとか、一緒に帰るまでの会話の流れを模索しているとかみたいな理由では、おそらくない。
 
 
———————— ただただ純粋に、言葉が出てこない。
 
日本語禁止でもされてるんかというほどに。
 
終始前を向き続けていたが、一瞬だけ横をチラ見する。
 
改めて一緒にいることを再認識し、心拍数がさらに上がり始める。
 
おれははっきり言って女子と話すことが苦手な訳ではない。てかむしろ得意な部類なのに、どういうわけか彼女を前にすると戦闘力が0になってしまう。
 
 
「今日、暑いね・・・・・」
 
10月下旬なのにも関わらず、流石に耐えられなかったおれは謎のタイミングで沈黙打破の最終手段を使う。
 
「ね~、ほんまに・・・蒸し暑いって感じよね~」
 
優しすぎる彼女は、意味不明な発言にも応えてくれる。そして、ニコッとおれの目を見て笑う。
 
「うんっ!」
 
本能的に耐えられずに目を逸らす。心拍数がついにレッドゾーンに到達し、鼓動の音が分かりやすく聞こえる。
 
そこそこの音量でイヤホンしながら電車に乗ってる時に、流石に周りに聞こえてるんじゃないのかと不安になってくる状況とすごい似てる。
 
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
 
最後の手段を使ってしまい、もうなす術もなくなってしまった。本来めちゃくちゃ嬉しいはずなのにこの状況に心身ともに耐えられなくなる。
 
 
———————— もう、限界だ・・・・やばい・・・・。
 
 
「おお、たくみやん!」
 
「え?!」
さっきまでうざかったやつの声が天使のごとく前方から聞こえる。
 
「おお、やぎ!!!どしたん?」
 
オーバーヒートしかけていたこともあり、空吹かすかのごとく大きな声で答える。
 
「おお、なんや、お前元気やん笑よかった笑、お、清水も一緒か、ういっす」
 
「やぎくん!うん!笑」
 
唯一おれが、こいつに尊敬の念を抱いてる能力をさらっと見せつけられる。
 
「ふたりは~~~、もう帰り?」
 
「うん・・・まあ、せやな!」
 
まだその域に達することができていない状況なので、曖昧な返事をする。
 
だがしかし、ここで疑問が生まれる。
 
(こいつなんでわざわざ向こうから来たんだ? 帰り逆やろ・・・)
 
すると、丁度血流がよくなっていた分頭が冴えていたこともあり、すぐにことのやばさに気づく。
 
奇跡に奇跡がつながり、やっとの思いでこじつけたこの幸せが、一気にぶち壊される気がして、冷や汗が止まらなくなる。
 
やべえぞこれ・・・・。
 
「ん・・・・てかっ、やぎはなにしとん?!!」
 
言葉の意味なんてまるでない、むしろどうでもいい。ただ、「味方」には分かってほしい意味を込めた暗号を送る気持ちで訴えかける。
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