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しおりを挟むシャルルはこの学園の一番の華である。男女多数の取り巻きを従え、シャルルが廊下を歩けば人は端に寄り、シャルルが食堂に行けば誰かが勝手にその日食べたいものを持ってきてくれる。
周りの生徒はその光景を流石シャルル=テレーズだなあと感心したり、憧れたり、嫉妬したり、ドン引きしたり反応は様々だ。
けれどシャルルの挙動も言動もいつも一つとして欠かさず誰かの目に晒されており、シャルルに何か異変があると、その噂は爆速で学園中に広まってしまう。
今回のように。
何かあった時にシャルルに質問をするのは、いつしかアーロインの役目になっていた。特に今日のようにチャールズが城に戻って不在の時は。
「シャルルさま」
お前聞いてこい、と背中を押してきた生徒の視線を痛いほど浴びながら、アーロインは今日も今日とて麗しいシャルルに声を掛ける。紫水晶のような澄んだ瞳に見つめられるだけでぐらりと来るのだから、よくもまぁチャールズはあんなに平気な顔をしていられるのだと不思議に思う。
「ご機嫌よう、アーロイン」
「本日もとびきり美しくて何よりです、シャルル様。……その指輪もとてもお綺麗で」
シャルル=テレーズが指輪を嵌めているぞ!
今日はその噂で盛り切りで、周りの人間はみなシャルルとアーロインの会話に集中して聞き耳を立てていた。
「あら、よく気づいたわね」
シャルルが左手を掲げる。その薬指にきらりとシルバーの細いリングが光った。
「いただいたの、素敵でしょう」
「え、チャールズ殿下からですか?」
咄嗟に口から言葉が飛び出してしまったアーロインに、シャルルは訝し気な目を向ける。
「チャールズが渡してくるわけないでしょう。あれはセンスの欠片もない人間よ」
じゃあ誰から、と聞くのが正しかったのだが、チャールズの友であるアーロインは、チャールズの不名誉を払拭しないわけにはいかなかった。
「いや、殿下はセンスいいですよ。昔からシャルル様に散々ケチ付けられたのでまともになった、って仰ってました」
「城で全肯定されて生きてきたのよ、わたくしが何を言ったってそう変わらないでしょう」
いいや、貴方の一言は強烈なので、とはさすがのアーロインでも言えない。そのまま話は如何に貴族の男のセンスがダサいのかという流れに変わってしまい、チャールズだけではなくアーロインや聞き耳を立てていた生徒までもが大怪我を負って話は終わった。
そこで流れた噂がこうだ。
「シャルル=テレーズは、センスのいい平民からもらった指輪をつけている」
アーロインはその後、シャルルに呼び出された。
「ねぇちょっと。なんであんな噂が流れてるの?」
「……シャルル様が貴族のセンスに文句を言ったからです」
「まぁ、センスが悪い人間がわたくしの噂を流せばこんなものね。流石よ」
しかしシャルルの指には未だに指輪が輝いていて、外す様子はない。
「本当は誰からもらったんですか?」
「大した話じゃないの、わたくしのお兄様からよ」
シャルルはため息をはいて、手をひらひらと揺らして見せた。
「……ですよねぇ」
恋愛絡みではないという確信はあった。なにせシャルル=テレーズがそんなネタを見せびらかす人間だとは思えないからだ。きっと全てを隠し通し、婚約も決まった後でようやく知ることができる人間が殆どだろう。貴族としての責務を果たす覚悟のあるシャルルなら、平民なんてもってのほか。
なら同性の友人か家族からのプレゼントぐらいだろう。
「でなければ、肌身離さずつけもしないわ」
シャルルは美しく笑う。クオーツの瞳をゆるりと細めて。
そして今度は「シャルル=テレーズは兄想い」という噂が流れるのだから、常に話題に事欠かさない。
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