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しおりを挟む悪魔が、主である魔王に反旗を翻した。その知らせは魔王軍の降伏の知らせと共に、アイリーンたちの耳に入った。
「……悪魔に嫁ぐなんて、まさか。陛下の宣言も無効でしょう?……そうよね?」
アイリーンの一筋の希望は叶わず、魔界と人間界の間で結ばれた休戦協定の中に、各国の使者がいる前で大口を叩いた国王の世迷言が組み込まれてしまったのである。種族の違いは元より、互いに流した血も失った命も多すぎる。魔王一人死んだ程度では、争いは止まらない。必要なのは形式上の繋がりで、王女アイリーンが魔王の首を飛ばしたリシャールに嫁ぐことは両者にとって都合がよかった。
こうして正式に、アイリーンが、世界の命運を背負うことになってしまった。アイリーンの意志など最初からどこにもない。もちろん拒否権など更にない。
指示されるがまま、結婚の誓約書に人差し指から血を垂らした。隣に空いたスペースに、悪魔の血が染み込むのだろう。……悪魔の血も赤いのだろうか。青?それとも黒?悪魔に心臓はあるのだろうか?こころは?
魔王を殺したのだ、並大抵の悪魔でないことは間違いがない。
嗚呼、神様。貴方様のお前で、わたくしは結婚の誓いを上げたかったわ。悪魔は神なんて嫌いだろうから、魔界に行けば何に祈ればいいのかしら。
一体どうしてこうなってしまったのだろう。そっとハンカチで人差し指を抑えながら、じ、と自分の赤い王族の血を見つめた。
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