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しおりを挟む結局べろべろに酔っぱらったのはイシュアとリースだけで、アデレードとオリバーはぴんぴんしていた。
店側が当然馬車を呼んでくれているのだが、流石に酔っ払いを一人で帰らせるわけにはいかないと送ってくれるらしい。
アデレードは友人であるリースを送るので、イシュアはオリバーと帰るのかな、とオリバーの手を借りようとする。けれどイシュアのコートを渡してきたのはアデレードだった。
「え、僕がリース様を送るんですか?」
「そう。俺がイシュアさんを送る」
なんで?と首を傾げたオリバーに、イシュアも同意した。
「オリバー、ランス紹介してあげる」
「え、ほんとですか!」
「そう。あいつ、話し相手少ないし、おまえ、よく喋るから」
酔っていても、リースはランスのことを考えているらしい。そしてアデレードがリースを送ろうとしているところまでは思考が回らないらしい。
オリバーはリースの言葉に乗り気になってしまい、そそくさとリースの腕を引っ張っている。なんだかオリバーに見捨てられた気になりながら、イシュアよりも頭ひとつ…いや二つ分は高いかもしれないアデレードを見上げる。
「……ひとりで、帰れるけど、」
「心配だから、送りますよ」
おずおずと申し出た言葉はばっさりと切り捨てられ、そのままイシュアはアデレードと馬車に乗ってしまった。
よく喋るオリバーとリースと別れてしまえば、車内はとても静かだった。がらがら、車輪が道を回る音だけが響いている。そのせいで、自分の心臓の音がアデレードに聞こえてしまわないか不安だった。
こんなことなら、もっと意識がなくなるほど飲めばよかった。頭はふわふわして足取りもおぼつかないのに、アデレードが横にいることを意識してしまう。
アデレードに仕事を教えていた頃は何を話していたのだっけ。会話は弾み、ずっと楽しかった気がする。けれど今のアデレードは黙ったまま口を開かない。
「……けっこん、するんだ」
ぽろり、と考えていたことがそのまま口から出た。
「まだ全然決まってないですけどね」
「そうなんだ。あいては、どんな?」
「仕事ができて、優しくて、穏やかな人がいいのかなあって思ってます」
どこかで似たようなことを聞いたことある気がしたが、へえ、と頷く。可愛い女の人なんだなあと思った。
「いいなあ」
「結婚?」
「そう。ぼくも、かわいいおんなのひとと結婚したい」
こんな馬鹿みたいな淡い気持ちなんてさっさと捨てて。アデレードと結婚する女の人はさぞかし幸せ者だろう。こんなにかっこよくて、甘くて、大人びていて、男らしくて。抱きしめてもらえれば、どれだけ満たされるのだろう、なんてことを考える。
「好きな人いるんですか?」
「……まあ」
「リースですか?」
へ?とようやく窓の外を見ていた視線をアデレードに向けた。人好きのする笑みは浮かんでおらず、真剣な顔だった。
「……なんで?」
「リースの近くにいて、リースを好きにならない人間を見たことがありません」
「え、あでれーどもリースがすきなの?」
「いや、俺は違いますけど」
「じゃあ、僕も違うけど」
なぜか、疑いの目を向けられている。違うのに、とは思うけれど、頭が回らず、言葉が出て来ない。
「俺は女が好きでしたし。でもイシュアさんが恋人作らないのは、リースが好きだからかなって。学生時代も、リースを特別扱いしてたから」
あれを特別扱いというのだろうか。巻き込まれていただけなのだが。
確かにリースは大事な後輩だし、いい仕事仲間でもある。けれどあれと付き合えるのは並大抵の人間では無理だと、恐ろしくも感じている。
アデレードはイシュアをそんな目で見ていたのか、と少し悲しくなった。いや、かなりショックを受けている。イシュアが好きなのはアデレードなのに。
「ちがうよ」
ちいさく笑った。
「じゃあ、誰が好きなんですか?」
「……いわない」
首を振ったのに、それでもアデレードは食い下がってくる。何でこんなにしつこいんだろう。どんな人かだけでもいいから、と言われて、つい「かっこいい人」とこぼしてしまった。直後、あ、と後悔する。かっこいいなんて、簡単に性別が特定できる。これでは好きな相手は男だと明言したようなものだ。
「まさか、陛下?」
「いやいやいや」
あまりの不敬に、酔いが少し冷めた。
「確かにリースは中性的で綺麗なヤツだが、陛下は男らしい美形だろう」
「ジェイドは違うって、さすがに」
やっとリースとジェイドの恋人説が破れたばかりなのに、イシュアで新たな説を作らないでほしい。
「……ならレーヴェ様か?オリバーはないだろ、流石に」
オリバーでもないしレーヴェでもない。
どうしてアデレードはこんなにイシュアの相手を知りたがるのだろうか。絶対言えるわけないのに。
「じゃあレーヴェでいいよ」
「は?」
投げやりに適当なことを言えば、アデレードの顔色が変わった。眉間にくっきりと皺が寄って、不機嫌を露にしている。
イシュアはもう何もかも分からなくて、元から決まっていた失恋も果たしたことだし、笑みを深くしたまま絶対誰にも言わないでねと口止めをする。
やけくそだった。
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