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ケイトとリリア
しおりを挟むケイトは華やかで美しい顔をしているだけではなく、高飛車な性格には芯が通っていて、全校生徒の憧れでもある。口がきつく泣かされた生徒も数知れないが、それ以上に有り余るケイトのカリスマが人々を魅了する。
リリアも魅了されたうちの一人だった。
あの出会いのときから、ケイトは鮮烈だった。
入寮の日、無駄に広い学園内で迷ってしまい、指定された時間に間に合わず走っていると、角を曲がったところにいた人に驚いて、ぎょっと目を見開いた。それだけでは済まされず、目が飛び出たほど高い新品のローファーを履いている足を盛大にくじいた。
『……礼儀がなってないようね』
そこに立っていたのがケイトだった。
明らかに身分の高い令嬢相手に尻もちをついて、あー、終わった、とその時のリリアは思った。せっかくここまで上り詰めたのに、まさか初日で脱落?皿が割れる音が鳴り響く日も、商人に売られかけた日も、どれだけ体調が悪くたって粗悪な教師に大金を持っていかれたって、涙を堪えて勉強したのに。砂で汚れたこの制服も、どれだけ高かったと思ってるの。一体、どんな叱責を受けるのか。叱責で済むならまだいい。苦情を入れられて除籍処分になったらどうしよう。
ケイトは不機嫌そうに眉を顰めてリリアを見つめている。
『早く立ちなさい』
もちろん手が差し出されることもなく、痛む足でよろよろとリリアは立ち上がった。
『おまえ。走るなんてはしたない』
『……申し訳、ありません』
『どうして真っすぐ立てないの?わたくしを誰だと思っていて?』
初対面なのに知るわけがないだろう。親のおかげで好き勝手生きれる御令嬢が、どうしてそんなに偉そうに威張り散らせるのか。泥水を啜ってここまできたリリアには、一生分からない。苛、とした。どのみち上に報告されるなら、好きなこと言ってやる。
『知りません。それに、足を挫いて立てないだけです』
令嬢が顔を歪ませ、甲高く怒鳴る……と思っていたリリアの予想に反して。ケイトはきょとんとヘーゼルの目を丸くした。あどけないその表情に、驚いたのはリリアの方だ。
『……あら、そうなの?』
細くて長い指が、近くにある棟を指す。
『おまえ、運がいいわね。医務室は直ぐそこよ。人を呼ばなくても歩けるわね?そしてわたくしはケイト=バロック。ここでは、目上の人間に先に名乗らせるのはとても無礼なことだけれど、いいわ。早く手当してもらいなさい』
それだけ言えば満足したのか。盾巻きの髪を揺らして、ケイトは去っていく。リリアは足の痛みも忘れ、呆然とその後ろ姿を見つめることしかできなかった。
それから、ケイトに興味を持ったリリアは、ケイトを攻略しようと頑張った。貴族の世界しか知らないケイトだが、リリアを異物として排除することなく、自然に受け入れようとする。
これまで他人を蹴落として生き残ってきたリリアにとって、ケイトはまるで蜜のように甘い人だった。その真っすぐな心も、高貴な瞳も、全部ほしい。
リリアは欲しいと思ったものは全部自分の手で掴んできた。だから、ケイトも手に入れる。婚約者がいようが何だろうが関係ない。
ケイトが好きだと言ううさぎのように愛らしく、素朴に振舞ってわらう。
「おい、ケイトにそれ以上近づいたらどうなるか分かってるな?」
なんて、リオンに言われたって気にしない。指くわえて見てなさい、このボンボンめ。
あんたより、ケイト様は私の方が好きみたいよ。
苦労なんてしたことがない人間に負ける気なんてしなかったのだけれど。
「ねえ、リオン様がーーー」
「あのね、リオン様が」
「リオン様が、」
ケイトの会話に度々リオンの話が出てくるのだから、気が気ではない。
リリアは絶対、ケイトを攻略してみせる。ぎゅ、と片手を握って、決意を新たに、野ウサギのような愛らしい笑みを浮かべた。
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