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ケイトとリオン
しおりを挟む「わたくし、これからリリィとランチを取るの。手短になさって」
つん、とケイト=バロックは顔を付き上げて、縦ロールにセットした白銀の髪を背に払う。対峙するは、見目麗しい顔をしっかりと歪めたリオン=ウェイルズ。一応、ケイトの婚約者である。リオンを前にすればどんな女も顔を赤らめて恥じらうというのに、プライドが高く物怖じしないケイトがしおらしい態度を見せたことは一度もない。
ケイトはリリィという少女と食事を取るために食堂へ出向こうとしたのに、わざわざ別のクラスから押しかけて来たリオンに呼び出され足止めを食らっていた。気難しいケイトの気分は地を這っている。
「きみは、あの庶民の女に騙されている」
「……まあ、なんですって?わたくしのリリィに向かっていま、庶民の女と仰いました?」
ヘーゼル色の美しい瞳が、きっと男を睨み上げる。その迫力は、まるで女王の如く。不機嫌そうなリオンの氷の美貌に一切臆することなく、軽蔑の目を向ける。ケイトは気に入らない者に対して、容赦なんてしない。それが例え、婚約者殿であろうとも。
「だから本当にあの性悪女に騙されてるんだ、きみは」
「このわたくしが騙されている、と?冗談はいやよ。あのリリィが人を騙せるものですか」
「だいたいきみは彼女を何もできない子ウサギのように扱うが、この学園に特待生で入る根性がある女だぞ!きみが言う“天真爛漫で可憐なリリィ” なんてただの幻想だ!現実を見ろ!きみより性格が悪いぞ、あいつは」
「……リオン様。本当に、わたくし怒りますわよ?これ以上話しても無駄ね。いいこと、次わたくしに同じ話をすればどうなるか分かっていて?婚約者殿だからって許さなくてよ」
ぺちん、と扇子で掌を叩いて、絶対零度の瞳のまま、学園で一番美しい礼を取る。そしてそのまま踵を返して、リオンの元を去った。
残されたリオンはため息を吐いて、顔を覆う。
「……勘弁してくれ。話が通じない」
脳裏に浮かぶのは、上手いことケイトに取り入ってその寵愛をほしいままにしているリリアという編入性の姿だった。貴族ばかりが通うこの学園に、成績ひとつで編入してみせた庶民。別に、リアンは庶民だから悪いと言っているのではない。
『あら、リアン様御機嫌よう。今度ケイト様のお家にお呼ばれしているんですよ。本当、楽しみ。お可愛いケイト様と夜もご一緒できるなんて。うっかり手が出てしまったらどうしましょう』
リアンはなぜか、特待生に婚約者を奪われる危機に瀕しているのだ。氷の美貌がみっともなく頭を抱える。本当、勘弁してくれ。
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