神様に愛されるということ

かゐこ

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貴船と八瀬の買い物に付いて行く、という形でなんとか繁華街の方面へは行けそうだ。

「八瀬、市場ってどんなとこなの?北の者たちが東の市場に行ってもいいの?」

「ああ、京都はご存じの通り所属する領地に関してはうるさいんですが、各地に点在する市場だけは特別なんですよ。」

「どこの長にも属さない、そんなはぐれ者の妖達が商売をやっていて、そこはどんな勢力であっても手出ししてはならないと定められてるんですよー」

貴船が横から口をはさむ。

「ある程度高位の者じゃないといけないんですけどね、単に買い物だけじゃなくて他の地域の連中と交流したり、情報収集したりもできる場所でもあるんです。北にも市はありますけど、やっぱり1番規模の大きいのは東ですね!」

ーほうほう、なんかそれは楽しそう!
脱走する目的を忘れて、私は2人の話に聞き入っていた。

「今回は優陽様のお着物も仕立てに行きましょう」

「ええ、ほんと?いいの?」

「…あぁ、値段は気にしないでいいから好きなのをあつらえて来い。」

鬼道丸はそう言うと、声を潜めて貴船と八瀬に話しかけた。

「…おい、市の飲み街で…他の連中らの情報を探ってこい。特に…南だ。あいつらの事だ、優陽が北から出てくるのを待ち構えてるに違いない。」

「「…承知しました」」


その頃、京都の四条通を少し入った路地に、2人の人影が降り立った。1人は頭に鉄輪を嵌めた、長い黒髪の女。そしてもう1人は…白の小袖と緋色の袴を身につけた少女ーそう、優陽が伏見稲荷大社で会った神使見習いの深草だった。

「うわああ…!!ここが東の領地ですね!!私初めて来ました!!」

深草は興奮した様子で辺りをキョロキョロと見回した。

落ち着かない様子の深草を横目で見ながら、呆れた様に黒髪の女が口を開いた。

「…深草、あんた今回の目的わかってんのかい」

「!!もちろんですよ墨染様!玉藻様の神通力で、優陽様が鬼道丸の管轄で無い土地にやってくることが分かったから、私達がその奪還に大抜擢されたんですよね!」

ふん、と鼻息も荒くまくしたてる。

墨染と呼ばれた女は無造作に長い髪をかきあげた。

「ほんなら聞くけど私はともかくなんで本来ならここに来ることも出来ない低級のあんたがわざわざ玉藻様から力を受けてまで来たんだと思う?」

「え、それはやっぱり私めが玉藻様から信頼を得てる!とかじゃないんですかね…」

最後の方は自信なさげに深草は答えた。

「あ、でもこの玉藻様の御加護はすごいですよね!なんかほんとに元気100倍って感じしますし。」

深草は得意気に首から組紐で下げられた御札を手に取った。見ると術式の様なものが書かれていて、深草の顔には歌舞伎の隈取りのような朱が差していた。

「…あのさ、あんたそれが本当に加護かなんかだと思ってんの?」

「え?」

「あんたが今回の件で召喚されたのは、単に優陽様と接触したことのある奴が他にいなかったからさ。つまり優陽様の気配を辿るためだけの駒。
ーそれにその札。それは加護の護符じゃなくて玉藻様の強大な霊力を付けてる者に憑依させる物。…言ってる意味わかる?」

「…あ…う、嘘…」

「強過ぎる霊力が無理やり憑依するとその媒体は朽ちてしまうのは常識。そしてそれは媒体が妖の類でも同じこと…。
ー深草、あんた捨てられたね。」

「…っ!!…」

みるみるうちに血の気を失い、朱だけが反対にギラギラと輝く顔で深草は言葉を失った。

「…まぁ見たところ持ってあと2日かそれ以下か。私もさっさと終わらせたいから早く行くよ。」

墨染はそう吐き捨てると、糸の切れた操り人形のようになった深草をグイグイ引っ張って路地の闇に消えていった。
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