17 / 18
17
しおりを挟む
貴船と八瀬の買い物に付いて行く、という形でなんとか繁華街の方面へは行けそうだ。
「八瀬、市場ってどんなとこなの?北の者たちが東の市場に行ってもいいの?」
「ああ、京都はご存じの通り所属する領地に関してはうるさいんですが、各地に点在する市場だけは特別なんですよ。」
「どこの長にも属さない、そんなはぐれ者の妖達が商売をやっていて、そこはどんな勢力であっても手出ししてはならないと定められてるんですよー」
貴船が横から口をはさむ。
「ある程度高位の者じゃないといけないんですけどね、単に買い物だけじゃなくて他の地域の連中と交流したり、情報収集したりもできる場所でもあるんです。北にも市はありますけど、やっぱり1番規模の大きいのは東ですね!」
ーほうほう、なんかそれは楽しそう!
脱走する目的を忘れて、私は2人の話に聞き入っていた。
「今回は優陽様のお着物も仕立てに行きましょう」
「ええ、ほんと?いいの?」
「…あぁ、値段は気にしないでいいから好きなのをあつらえて来い。」
鬼道丸はそう言うと、声を潜めて貴船と八瀬に話しかけた。
「…おい、市の飲み街で…他の連中らの情報を探ってこい。特に…南だ。あいつらの事だ、優陽が北から出てくるのを待ち構えてるに違いない。」
「「…承知しました」」
その頃、京都の四条通を少し入った路地に、2人の人影が降り立った。1人は頭に鉄輪を嵌めた、長い黒髪の女。そしてもう1人は…白の小袖と緋色の袴を身につけた少女ーそう、優陽が伏見稲荷大社で会った神使見習いの深草だった。
「うわああ…!!ここが東の領地ですね!!私初めて来ました!!」
深草は興奮した様子で辺りをキョロキョロと見回した。
落ち着かない様子の深草を横目で見ながら、呆れた様に黒髪の女が口を開いた。
「…深草、あんた今回の目的わかってんのかい」
「!!もちろんですよ墨染様!玉藻様の神通力で、優陽様が鬼道丸の管轄で無い土地にやってくることが分かったから、私達がその奪還に大抜擢されたんですよね!」
ふん、と鼻息も荒くまくしたてる。
墨染と呼ばれた女は無造作に長い髪をかきあげた。
「ほんなら聞くけど私はともかくなんで本来ならここに来ることも出来ない低級のあんたがわざわざ玉藻様から力を受けてまで来たんだと思う?」
「え、それはやっぱり私めが玉藻様から信頼を得てる!とかじゃないんですかね…」
最後の方は自信なさげに深草は答えた。
「あ、でもこの玉藻様の御加護はすごいですよね!なんかほんとに元気100倍って感じしますし。」
深草は得意気に首から組紐で下げられた御札を手に取った。見ると術式の様なものが書かれていて、深草の顔には歌舞伎の隈取りのような朱が差していた。
「…あのさ、あんたそれが本当に加護かなんかだと思ってんの?」
「え?」
「あんたが今回の件で召喚されたのは、単に優陽様と接触したことのある奴が他にいなかったからさ。つまり優陽様の気配を辿るためだけの駒。
ーそれにその札。それは加護の護符じゃなくて玉藻様の強大な霊力を付けてる者に憑依させる物。…言ってる意味わかる?」
「…あ…う、嘘…」
「強過ぎる霊力が無理やり憑依するとその媒体は朽ちてしまうのは常識。そしてそれは媒体が妖の類でも同じこと…。
ー深草、あんた捨てられたね。」
「…っ!!…」
みるみるうちに血の気を失い、朱だけが反対にギラギラと輝く顔で深草は言葉を失った。
「…まぁ見たところ持ってあと2日かそれ以下か。私もさっさと終わらせたいから早く行くよ。」
墨染はそう吐き捨てると、糸の切れた操り人形のようになった深草をグイグイ引っ張って路地の闇に消えていった。
「八瀬、市場ってどんなとこなの?北の者たちが東の市場に行ってもいいの?」
「ああ、京都はご存じの通り所属する領地に関してはうるさいんですが、各地に点在する市場だけは特別なんですよ。」
「どこの長にも属さない、そんなはぐれ者の妖達が商売をやっていて、そこはどんな勢力であっても手出ししてはならないと定められてるんですよー」
貴船が横から口をはさむ。
「ある程度高位の者じゃないといけないんですけどね、単に買い物だけじゃなくて他の地域の連中と交流したり、情報収集したりもできる場所でもあるんです。北にも市はありますけど、やっぱり1番規模の大きいのは東ですね!」
ーほうほう、なんかそれは楽しそう!
脱走する目的を忘れて、私は2人の話に聞き入っていた。
「今回は優陽様のお着物も仕立てに行きましょう」
「ええ、ほんと?いいの?」
「…あぁ、値段は気にしないでいいから好きなのをあつらえて来い。」
鬼道丸はそう言うと、声を潜めて貴船と八瀬に話しかけた。
「…おい、市の飲み街で…他の連中らの情報を探ってこい。特に…南だ。あいつらの事だ、優陽が北から出てくるのを待ち構えてるに違いない。」
「「…承知しました」」
その頃、京都の四条通を少し入った路地に、2人の人影が降り立った。1人は頭に鉄輪を嵌めた、長い黒髪の女。そしてもう1人は…白の小袖と緋色の袴を身につけた少女ーそう、優陽が伏見稲荷大社で会った神使見習いの深草だった。
「うわああ…!!ここが東の領地ですね!!私初めて来ました!!」
深草は興奮した様子で辺りをキョロキョロと見回した。
落ち着かない様子の深草を横目で見ながら、呆れた様に黒髪の女が口を開いた。
「…深草、あんた今回の目的わかってんのかい」
「!!もちろんですよ墨染様!玉藻様の神通力で、優陽様が鬼道丸の管轄で無い土地にやってくることが分かったから、私達がその奪還に大抜擢されたんですよね!」
ふん、と鼻息も荒くまくしたてる。
墨染と呼ばれた女は無造作に長い髪をかきあげた。
「ほんなら聞くけど私はともかくなんで本来ならここに来ることも出来ない低級のあんたがわざわざ玉藻様から力を受けてまで来たんだと思う?」
「え、それはやっぱり私めが玉藻様から信頼を得てる!とかじゃないんですかね…」
最後の方は自信なさげに深草は答えた。
「あ、でもこの玉藻様の御加護はすごいですよね!なんかほんとに元気100倍って感じしますし。」
深草は得意気に首から組紐で下げられた御札を手に取った。見ると術式の様なものが書かれていて、深草の顔には歌舞伎の隈取りのような朱が差していた。
「…あのさ、あんたそれが本当に加護かなんかだと思ってんの?」
「え?」
「あんたが今回の件で召喚されたのは、単に優陽様と接触したことのある奴が他にいなかったからさ。つまり優陽様の気配を辿るためだけの駒。
ーそれにその札。それは加護の護符じゃなくて玉藻様の強大な霊力を付けてる者に憑依させる物。…言ってる意味わかる?」
「…あ…う、嘘…」
「強過ぎる霊力が無理やり憑依するとその媒体は朽ちてしまうのは常識。そしてそれは媒体が妖の類でも同じこと…。
ー深草、あんた捨てられたね。」
「…っ!!…」
みるみるうちに血の気を失い、朱だけが反対にギラギラと輝く顔で深草は言葉を失った。
「…まぁ見たところ持ってあと2日かそれ以下か。私もさっさと終わらせたいから早く行くよ。」
墨染はそう吐き捨てると、糸の切れた操り人形のようになった深草をグイグイ引っ張って路地の闇に消えていった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜
瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。
ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。
何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話
小説家になろう様でも掲載しております。
(更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる