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二章
21/謎ゲーの謎解き
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勤務三日目。
朝一番でスマホを見たがメールはなかった。
バグの出現はなかったのだろう、何事もなければそれでいい。
朝から交通機関の乱れはなく普段通りに出勤した。
所の入り口まで来ると、今度は命ではなく犬威が玄関前でうなだれて座っている。
蓮美が近づくと彼の方から声を掛けてきた。
「おはよう、朝霧君……」
元気がなさそうだった。
「おはようございます、こんな所でどうしたんですか?」
「所に入ると命が嫌がるかと、始業まで時間を潰そうかと思ってね」
昨日のやりとりを引きずっているのだろう。
「あんな風に言い返す事なんて初めてでね、ずっと子供のままだと思っていた。でも、妻に話したら喜んでいたよ。むしろ泣いた俺の方が怒られてしまってね」
ハハハと自嘲気味に笑う。
寂しそうな犬威の表情にやるせなさが募った。
「私は命君にお節介が過ぎるでしょうか……」
「いいや、それは違うっ」
彼は慌てたように立ち上がる。
「君は成長を促してくれたんだ、いつまでもあいつを子供扱いしていた俺が悪いのは分かっている。朝霧君が所に来てくれた事を俺は本当に良かったと思っているんだ」
この言葉は何よりの励みだった。
命とのコミュニケーションをもっと慎重にするべきか考えあぐねていたが、今のままでも間違ってはいないのだと確信に変わる。
「これからものあいつの力になってやってほしい、頼む」
「……はい」
犬威はもうしばらくここにいるよと座り直したが、布を巻いた長い棒が足元に置かれていた。
なんだろうなと思いつつ職員室に向かうと、命が校庭を見つめて立っている。
そして蓮美に振り向き言い放った。
「あなたのキャラは味噌ですねっ!」
来るなり事件の犯人はあなたですね的な演出をされたが、なんの事を言っているのかわからない。
「味噌?」
「僕が入れておいたゲームの選択キャラです……」
「あ……」
カバンに忍ばされた怪しい謎ゲーだ。
すっかり忘れていた。
「あ、うん、ありがとう」
「もしかしてプレイしてくれなかったんですか……?」
「ううん、試してみたけど忙しかったからそんなに進めてなくて」
目が泳ぐ。
訳わからんかったんで途中でやめましたと言ってしまいそうで。
一つ気になるのは。
「なんでゲームのキャラが味噌って思うの?」
そこだけは気になる。
なぜ言い当てたのかそこだけはっきりさせておきたい。
「僕の頭脳であるAIが蓮美さんの傾向を分析した結果です……」
「……そうなんだ」
先日、バグと戦うは命は頼もしいと思った。
果敢に立ち向かう、勇ましいその姿に。
だけど彼の内面を理解するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「本日の降水確率は0パーセントの快晴ですっ!」
外出が楽しみなのだろう。
満面のニンマリ顔で叫ぶ。
あまりに嬉しそうなので、自分のアバターが味噌だったモヤモヤがどこかへ行ってしまった。
あの謎ゲーは友情の証として受け止めておこう。
彼の初めての友達になれた日の思い出として。
朝一番でスマホを見たがメールはなかった。
バグの出現はなかったのだろう、何事もなければそれでいい。
朝から交通機関の乱れはなく普段通りに出勤した。
所の入り口まで来ると、今度は命ではなく犬威が玄関前でうなだれて座っている。
蓮美が近づくと彼の方から声を掛けてきた。
「おはよう、朝霧君……」
元気がなさそうだった。
「おはようございます、こんな所でどうしたんですか?」
「所に入ると命が嫌がるかと、始業まで時間を潰そうかと思ってね」
昨日のやりとりを引きずっているのだろう。
「あんな風に言い返す事なんて初めてでね、ずっと子供のままだと思っていた。でも、妻に話したら喜んでいたよ。むしろ泣いた俺の方が怒られてしまってね」
ハハハと自嘲気味に笑う。
寂しそうな犬威の表情にやるせなさが募った。
「私は命君にお節介が過ぎるでしょうか……」
「いいや、それは違うっ」
彼は慌てたように立ち上がる。
「君は成長を促してくれたんだ、いつまでもあいつを子供扱いしていた俺が悪いのは分かっている。朝霧君が所に来てくれた事を俺は本当に良かったと思っているんだ」
この言葉は何よりの励みだった。
命とのコミュニケーションをもっと慎重にするべきか考えあぐねていたが、今のままでも間違ってはいないのだと確信に変わる。
「これからものあいつの力になってやってほしい、頼む」
「……はい」
犬威はもうしばらくここにいるよと座り直したが、布を巻いた長い棒が足元に置かれていた。
なんだろうなと思いつつ職員室に向かうと、命が校庭を見つめて立っている。
そして蓮美に振り向き言い放った。
「あなたのキャラは味噌ですねっ!」
来るなり事件の犯人はあなたですね的な演出をされたが、なんの事を言っているのかわからない。
「味噌?」
「僕が入れておいたゲームの選択キャラです……」
「あ……」
カバンに忍ばされた怪しい謎ゲーだ。
すっかり忘れていた。
「あ、うん、ありがとう」
「もしかしてプレイしてくれなかったんですか……?」
「ううん、試してみたけど忙しかったからそんなに進めてなくて」
目が泳ぐ。
訳わからんかったんで途中でやめましたと言ってしまいそうで。
一つ気になるのは。
「なんでゲームのキャラが味噌って思うの?」
そこだけは気になる。
なぜ言い当てたのかそこだけはっきりさせておきたい。
「僕の頭脳であるAIが蓮美さんの傾向を分析した結果です……」
「……そうなんだ」
先日、バグと戦うは命は頼もしいと思った。
果敢に立ち向かう、勇ましいその姿に。
だけど彼の内面を理解するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「本日の降水確率は0パーセントの快晴ですっ!」
外出が楽しみなのだろう。
満面のニンマリ顔で叫ぶ。
あまりに嬉しそうなので、自分のアバターが味噌だったモヤモヤがどこかへ行ってしまった。
あの謎ゲーは友情の証として受け止めておこう。
彼の初めての友達になれた日の思い出として。
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