僕らの世界一過酷な子育て

永川さき

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交尾と産卵

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 僕は誇り高い皇帝ペンギンのサミュエル。
 極寒の地、南極の周辺の海をテリトリーとしている大きな群れの中の一匹だ。

 僕にはとっても格好いいパートナーがいる。
 それがジャックだ。
 群れの中でもモテモテな彼だけど、その隣を誰かに渡したことはない。
 皇帝ペンギンは繁殖シーズンによってパートナーを変えるのが普通だけど、僕たちはずっと番関係のままだし、繁殖シーズン以外でもラブラブなんだ。
 周りの奴らは呆れているけど、そんなのは関係ない。
 だって、海にぷかぷか浮かんでいる氷山よりもずーっとジャックのことが好きだからね!

 さて、今年も春になり繁殖シーズンになった。
 僕たち雄の群れは南極大陸に上陸し、天敵がいない二百キロ内陸まで一列で行進しコロニーまでたどり着いた。
 自由に泳げる海も好きだけど、天敵がいなくて足元が安定している陸も好きだ。
 久々の陸地を満喫していると一列になったときに離れてしまっていたジャックが僕を見つけてやってきてくれた。

「お疲れさま」
「サミュエルもな。それより、今晩からどうだ?」
「もっ……もう? だって女の人たちは三週間後にしかこないじゃん」
「俺たちはオス同士だから何回も交尾しないと卵ができない。だから去年もいっぱいしただろう?」
「そうだけど……」

 オスでも卵が産めるのは突然変異で生まれた僕を含める十四匹の個体だけだ。
 ジャックの言うように、僕たちはオス同士であるが故に何度も交尾をしないと卵ができない。
 確かに去年もコロニーに着いてすぐに交尾を始めた。
 だけど、今日やっとコロニーに着いたんだから明日からでもいいんじゃないかと思っていた。

 ジャックが迷っている僕の背をフリッパーで突くと、それで僕の後ろを指した。
 後ろを振り向くと、群れの中にいた僕と同じ卵を産めるチャーリーがお調子者のハリソンと早速愛を交わしていた。
 血を残すためには必要な行為で、それはもちろんジャックが相手なら僕も大好きだ。
 誰も彼もが交尾をしているところを見ると恥ずかしいけど、その光景に煽られてすっかりその気になった。
 
 今はとにかく早くジャックと繋がりたい!

「ジャックぅ……♡」

 僕は氷の大地に腹ばいになって総排泄腔を曝け出した。
 それはとても小さな穴で、交尾だけでなく排便や産卵もここからなんだ。
 ね、便利でしょ?

「サミュエル」

 僕がフリフリと尻尾を振ると、ジャックの性欲スイッチがぱちっと入った。
 彼は僕の体の上に乗り上げた。
 丸々と肥えた僕らはボールみたいで、ジャックは僕の上でじっとするのは大変そうだけど、バランスを取りながらフリッパーでぎゅっと抱きしめてくれた。
 それだけで僕はポワポワする。
 首を上げて嘴を真上に上げると、ジャックがカツカツとぶつけて震わせあった。
 これが僕らのキスだ。

 でも、肝心の接合はとっても難しいんだ。
 失敗することが多く、人間には『ちょっと残念な交尾』だなんて言われてるけど本当に失礼しちゃう。
 失敗も含めての愛を交わし合う行為なんだからね!

 気が済むまでキスをすると、ジャックは僕に乗ったまま体を起こす。
 さっきも言った通り、繁殖に備えて僕らは丸々と肥えている。
 その上に立つのはとっても大変なんだ。
 そして立てたはいいけれど、そこから小さな総排泄腔同士をぴたりと合わせなきゃいけない。

 中が疼いてフリフリと動いてしまう僕のお尻をジャックが全体重で押さえつけてきた。
 そして、固定された僕の総排泄腔に彼のを合わせようと微調整をかけるけど、南極に吹き付ける強い風のせいもあって中々接合できない。
 擦れ合う体がとってももどかしい。

「ひっ……あんっ♡ ジャック……ジャックの精子、ほしいよぉ♡♡♡」
「待てって、おいこら動くな! 俺だって早くお前の中に精子注ぎ込みたいんだよ!」
「ああんッ……だってぇ♡ 早く熱いの欲しくて仕方がないの♡♡ 焦らさないでよぉ♡♡♡」
「焦らしてねぇよ、クソッ! 俺だってなぁ!!!」

 ジャックが叫ぶと、僕の総排泄腔のすぐ近くに彼のものが押し当てられた。
 あとちょっとだ。
 僕はフリリッとお尻をずらすとピッタリと熱いそこと重ねることができた!
 その瞬間、ビュクッとジャックの精子が勢いよく僕の中に注ぎ込まれた。

「あっああ♡ きてる♡ ジャックのせーし、いっぱい♡♡♡ 熱いッ……気持ちいいのぉ♡♡♡」
「ああっサミュエル……!」

 僕とジャックはぶるりと全身を震わせて好きな人と繋がれる喜びと快感に酔いしれた。
 ジャックは精子を出し切ると、また僕の上に覆い被さってキスをしてくれた。
 甘くて焦ったい僕らの交尾は休憩を挟みつつ、群れの女の人たちがコロニーに到着してみんなの交尾が始まり、それが終わるまで続いた。
 群れの大半の女の人たちが孕んだことが確定した頃、僕のお腹の中にも新しい命が宿ったとわかった。
 そうして、今年の交尾は幕を閉じたんだ。

 それから一週間後の正午すぎ。
 僕は産気付いた。

「ジャック♡ 卵、出てくるぅ♡」
「俺がいる。リラックスだぞ」
「うん♡」

 小さな総排泄腔から十二センチの卵を出すのはとっても苦しい。
 そこからは先っちょが頭を出していて、僕がいきむとちょっとずつ外に出て行く。
 その度に総排泄腔が押し広げられ、縁が捲れて中の肉が顔を出す。
 タイミングが悪くブリザードに吹かれるともの凄く痛いんだ……。
 でも、ジャックが自分の体で風除けになってくれていてないよりはマシだし、フリッパーをパタパタして僕を元気付けてくれる。
 それに、早く卵に会いたい。

「ふっううううう……♡」
「頑張れ、あと半分だ!」

 僕がいきむとヌルッと半分まで卵が出てきた。
 直径が一番大きいところで突っかかっているみたいだけど、この感覚的にあと一度いきめば全部出てくるはず。

「はっはっはっ……♡ ふっんぁああああ♡♡♡」

 プリッ、コロンと卵が僕の足元に産まれ落ちた。
 楕円形の真っ白な卵は僕とジャックの愛の結晶だ。

「産まれたぁ♡」
「ああ、サミュエル。頑張ったな。ありがとう」

 ジャックは嘴をカタカタと震わせて僕にスリスリと体を擦り付けた。
 
 
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