140字三題噺BL

永川さき

文字の大きさ
上 下
15 / 15

2024年9月

しおりを挟む
9月2日 痛み 月明かり カクテル
1 閑静な住宅街の一角にある洋館。地下へと続く階段を降りると、月明かりが差し込むバーがある。俺が彼と作った秘密基地だ。二人分のカクテルを作り、カウンターに並べる。一人で飲む酒は寂しい。思い出のカクテルを飲んでも、胸の痛みは治ってくれない。「なんでだよ」嘆きは夜の空気に溶けていった。

2 月明かりを溶かして混ぜたようなカクテル。ブルーパールというらしいそれは刺激的な味だった。「きっつ」痛みにも似た感覚が舌に残る。カクテルを提供した当の本人は、悶える僕を笑っている。いいさ、よく覚えていろよ。今夜は徹底的に責め立てて啼かせてやる。泣いて縋って懇願したって知るもんか!



9月5日 閉じこめる 抱きしめる ニヤリ
1 親友だと思っていた奴は悪魔だった。俺の魂を狙って近づいた。ニヤリと酷薄な笑みを浮かべる悪魔は、俺を不思議な空間に閉じこめた。走っても走っても、どこにも辿り着けない。呆然とする俺の背中を、悪魔は抱きしめる。「諦めて堕ちてこい」耳元で囁かれる甘言に首を振った俺を、奴は嘲笑った。

2 彼の部屋で、彼の服に埋もれながら一人で致していたことがバレた。彼は服を引っ掛けたまま逃げようとする俺を抱きしめ、腕の中に閉じこめた。「そんな可愛いことしちゃって、無事に帰れると思ってんの?」ああ、思っていたさ。さっきまではな!恐る恐る顔を上げれば、ニヤリと笑った彼と目が合った。



9月7日 化粧 あの日 あえて
1 和平のために、俺の意思に関係なく結ばれた婚姻。式に合わせて作られた真っ白な敵国の民族衣装。式のために、あえて濃く施された化粧。聖堂で待つのは憎い相手。そして、いつか結婚しようと約束した幼馴染。あの日、花園で交わした約束は守れないまま、俺は愛しい人の前で、別の人と誓いのキスをする。

2 あの日は文化祭だった。俺のクラスはメイド喫茶をすることになっていたが、メイド役の女子生徒が風邪で休んでしまった。細身の俺はあえて立候補し、薄く化粧をしてメイドに変身した。彼に意識して欲しかったから。「うわ懐かしい」「だろ?」思い出のメイド服は今も現役。俺は今夜も寝られないだろう。



9月8日 あの日 逃げられない 窓
1 あの日、あの場所で、あいつと出会ったのが運の尽き。まさか一年後に窓のない部屋に軟禁されるなんて。出入口は生体認証の鍵で閉ざされて逃げられない。かと言って何かされるわけでもない。あいつが何をしたいのかわからなかった。でも、たった今、それがわかった。「抱くよ」視線の意味も、その心も。

2 窓から差し込む月明かり。遠い昔、あの日と同じ状況。でも、今度こそ逃げられない。「好きなのは俺だけ?」ベッドに押し倒され、腕で囲まれ懇願するような顔で問われる。関係が壊れるのが怖くて逃げ続けていた。でも、そろそろ年貢の納め時らしい。「俺も好きだ」重なった唇は火傷するように熱かった。



9月17日 よかったね 離さない 憐憫
1 「絶対に離さない」赤く痛々しい噛み跡が散らばる体を力の限り抱き締める。腕の中の彼に、抵抗する力は残っていない。これは俺が望んだこと。なのに、心はちっとも満たされない。どうして、何故。「そう。よかったね」掠れた声が鼓膜を震わせる。彼の顔を覗き込めば、憐憫の眼差しが俺を貫いてきた。

2 駆け落ちなんて今時流行らない。でも、俺たちはやっと解放された。「逃げ切れてよかったね」「ああ。もう二度と離さない」頼るものは何もない。でも、二人でいれば、きっとなんでもできる。鎖から解き放たれた俺たちに憐憫はいらない。道なき道を、俺たちは支え合いながら進んでいく。永遠に、幸せに。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

処理中です...