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望まぬ再会
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がちゃりと音を立てて鍵を開ける。
社宅は築三十年であちこちにガタはあるものの、生活に支障をきたすようなことはない。
借り上げるにあたってリノベーションもしてあり、室内は綺麗だ。
俺は住み慣れた自分の部屋に足を踏み入れた。
はずだった。
「は?」
そこはもぬけの殻だった。
しばらく呆然と立ち尽くした後、俺は震える身体を叱咤して部屋の中へ入って行く。
タチの悪い泥棒に目でもつけられていたのか。
通帳もパスポートもないとなると、完全に詰む。
リビングを突っ切って寝室に駆け込むと、そこも当然のことながら何もなかった。
「うそ、だろ……」
目の前が真っ黒になる。
これからどうやって生きていけばいい?
やっとフランスでの生活にも慣れてきたのに、また日本に戻るのか?
嫌だ、絶対に。
一生、死ぬまで逃げてやると決めたんだ。
でも、どうやって?
途方に暮れている俺の耳に、カツン、カツンとゆっくりとした歩調の靴音が入ってきた。
怖くて振り向くことが出来ない。
一体誰だ。
泥棒か、それとも……。
それは段々と近づいてきて、最後は俺の背後でぴたりと止まった。
「俺から逃げられるとでも思ったのか、春樹?」
その声を聞いた瞬間、どっと汗が溢れ出した。
口の中がカラカラに渇いて、息が苦しい。
五年ぶりに聞く声は不遜で、傲慢さが増しているような気がした。
この世で一番、一生会いたくない相手が後ろにいる。
それだけで体は氷のように固まった。
振り向くことも、ましてや逃げ出すことも出来ず、俺は彼の次の言葉を待った。
「まさか、俺を忘れたわけじゃないだろ?」
艶を含んだその声に雁字搦めになる
彼は、貴明は俺の肩を掴んで無理矢理自分の方に振り向かせた。
鋭い眼光に射すくめられ、目が反らせない。
「たかあき……っ」
絞り出した声は情けないが震えていた。
だって仕方ないだろう。
あんなことをされて、普通でいれるわけがない。
逃げたいのに、身体は震えるばかりで動いてはくれなかった。
「やっと捕まえた」
貴明はにやりと凶悪な笑みを浮かべて俺の唇に噛みついた。
ガリっと音がして痛みと血の味が広がる。
貴明は痛みでびくりと跳ねた俺の身体を壁に押さえつけ、舌をねじ込んできた。
「やっ……いや、だっ……んうっ……ふ……っ」
やっと動かせた身体を捩って腕を突っ張って足で蹴ったはずなのに、貴明の身体はびくともしなかった。
それどころかギリギリと音がなりそうなほど腕を掴んで離さない。
たまに上手く体が動いて壁から離れても、次の瞬間にはガツンと勢いよく壁に押し付けられている。
その攻防を何度かしている間も口は貴明の唇で塞がれていて、次第に俺は酸欠でクラクラしてきた。
視界がぼやけて、体に力が入らない。
貴明はそれに気付いてふっと笑うとますますキスを深くした。
俺はせめてもの抵抗で貴明の舌を噛んだが、ただ血の味が広がるだけで何の意味がなかった。
そうして貪られて、俺の視界はブラックアウトした。
社宅は築三十年であちこちにガタはあるものの、生活に支障をきたすようなことはない。
借り上げるにあたってリノベーションもしてあり、室内は綺麗だ。
俺は住み慣れた自分の部屋に足を踏み入れた。
はずだった。
「は?」
そこはもぬけの殻だった。
しばらく呆然と立ち尽くした後、俺は震える身体を叱咤して部屋の中へ入って行く。
タチの悪い泥棒に目でもつけられていたのか。
通帳もパスポートもないとなると、完全に詰む。
リビングを突っ切って寝室に駆け込むと、そこも当然のことながら何もなかった。
「うそ、だろ……」
目の前が真っ黒になる。
これからどうやって生きていけばいい?
やっとフランスでの生活にも慣れてきたのに、また日本に戻るのか?
嫌だ、絶対に。
一生、死ぬまで逃げてやると決めたんだ。
でも、どうやって?
途方に暮れている俺の耳に、カツン、カツンとゆっくりとした歩調の靴音が入ってきた。
怖くて振り向くことが出来ない。
一体誰だ。
泥棒か、それとも……。
それは段々と近づいてきて、最後は俺の背後でぴたりと止まった。
「俺から逃げられるとでも思ったのか、春樹?」
その声を聞いた瞬間、どっと汗が溢れ出した。
口の中がカラカラに渇いて、息が苦しい。
五年ぶりに聞く声は不遜で、傲慢さが増しているような気がした。
この世で一番、一生会いたくない相手が後ろにいる。
それだけで体は氷のように固まった。
振り向くことも、ましてや逃げ出すことも出来ず、俺は彼の次の言葉を待った。
「まさか、俺を忘れたわけじゃないだろ?」
艶を含んだその声に雁字搦めになる
彼は、貴明は俺の肩を掴んで無理矢理自分の方に振り向かせた。
鋭い眼光に射すくめられ、目が反らせない。
「たかあき……っ」
絞り出した声は情けないが震えていた。
だって仕方ないだろう。
あんなことをされて、普通でいれるわけがない。
逃げたいのに、身体は震えるばかりで動いてはくれなかった。
「やっと捕まえた」
貴明はにやりと凶悪な笑みを浮かべて俺の唇に噛みついた。
ガリっと音がして痛みと血の味が広がる。
貴明は痛みでびくりと跳ねた俺の身体を壁に押さえつけ、舌をねじ込んできた。
「やっ……いや、だっ……んうっ……ふ……っ」
やっと動かせた身体を捩って腕を突っ張って足で蹴ったはずなのに、貴明の身体はびくともしなかった。
それどころかギリギリと音がなりそうなほど腕を掴んで離さない。
たまに上手く体が動いて壁から離れても、次の瞬間にはガツンと勢いよく壁に押し付けられている。
その攻防を何度かしている間も口は貴明の唇で塞がれていて、次第に俺は酸欠でクラクラしてきた。
視界がぼやけて、体に力が入らない。
貴明はそれに気付いてふっと笑うとますますキスを深くした。
俺はせめてもの抵抗で貴明の舌を噛んだが、ただ血の味が広がるだけで何の意味がなかった。
そうして貪られて、俺の視界はブラックアウトした。
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