逃げたカナリアが唄うには

永川さき

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好きなのに

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 兄弟となった俺たちの距離はそれまでと変わることはなかった。
 違いがあるとすれば、四六時中同じ空間に居ることと、叔父夫婦と従兄弟の康明との交流の輪の中に春樹が加わったことだった。
 
 叔父はセキュリティ会社を経営していた。
 一般的な警備業はもちろん、ネットワークセキュリティ業、果ては探偵業も請け負う何でも屋のような会社だった。
 たった一代で全国展開までさせた手腕は尊敬に値する。
 両親も尊敬するが、仕事の面で言えば叔父の方が上手だった。
 
 康明は俺たちと同い年で、叔父の軽薄さとは反対に真面目な性格をしていた。
 一方で、俺は叔父を尊敬するあまり叔父の持つ軽薄さと粘着質にも取れる計算高さを兼ね備えた面倒な性格になった。
 春樹は変わらず純真無垢な、けれど芯を持った強い性格になった。
 
 三者三様の性格だが不思議と気が合い、高校も同じところへ進学した。
 大人に近づいた分、下世話な猥談をすることも増えた。
 俺が春樹への独占欲が情欲を含んだものと自覚したのはこの頃だった。
 
 男同士だとか兄弟だとか、そんなものは些細なことだった。
 一人で処理をするときも、浮かぶのは快楽に濡れた春樹の顔と淫らな肢体だった。
 啼いて、善がらせて、奥の奥まで貪る。
 そして、誰の目にも触れさせず自分だけの春樹にする。
 頭の中で何度、春樹を犯したことか。
 
 俺はそれを現実にするため、変に思われない程度にさり気なくアプローチを始めた。
 手を握り、腰を抱き、春樹にしか見せない笑顔を向けた。
 だが、鈍感な春樹はそれらの行為に含む気持ちに気付かない。
 
 俺は康明にも協力してもらい、二人になれる時間を増やし、大胆に抱きついたり尻を撫でたりすることもした。
 けれど、春樹はよくある冗談として笑って受け流した。

 意識されないまま、大学受験を控えた高校三年生になった春。
 春樹は就職することを選んだ。
 就職し、家を出るとこまで考えていたのだ。
 それは、血縁のない俺たちが養育することに対する引け目からくる選択だった。
 
 俺たち家族は必死に説得し、大学受験を勧めた。
 俺は春樹から離れたくない一心で、情報に疎い春樹を誘導し、同じ大学に進学するよう仕向けた。
 成績が良い春樹は進学するにあたってなんの問題もなく、大学進学は思い通りに進み、春樹は俺と同じ大学生となった。
 ついでに康明も一緒だ。
 
 俺は幼い頃から叔父のように会社を興したいという夢を叶えるべく学業に邁進し、様々な伝手を手に入れ、大学在学中に総合コンサルティング会社を経営し始めた。
 学業との両立も、春樹との未来を思うと頑張れた。

 それなのに。
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