俺をよく知るあなたを知りたい

ちとせあき

文字の大きさ
上 下
10 / 14
本編

変化した関係

しおりを挟む

⚠️軽くですが動物の死骸描写があります。苦手な人は次の話に進んでください。



お菓子にしては重い音が玄関で聞こえて思わず振り返る。楠原さんが影になって見えないけど白い袋は何かに汚れていて、やっぱり昨日の嵐で濡れてしまったかと残念に思った。
「昨日の嵐すごかったですよね。手が滑りました?」
楠原さんの前に落ちるビニール袋を拾おうと半開きのドアを開けようとするが、僕は楠原さんに行く手を塞がれる。その手の主を見れば、信じられないようなものを見た時のように大きく目を見開いていた。
僕がストーカーさんに何をもらっているかなんて何度も話しているから当然知っているはずなのに、何をそんなに驚くことがあるんだろう。
僕が口を開く前に楠原さんがはっとしたように僕を見る。いつも冷静で時に意地悪な楠原さんらしくない焦った表情に不安が押し寄せた。
「これは、ストーカーさんじゃありません。」
落ちたビニール袋を目の前にして言いきる彼を疑問に思って首をかしげる。僕とストーカーさんがやり取りしているコンビニのビニール袋があるのに何を言っているのか。
「いいですか。この中身はお菓子なんかじゃない。」
楠原さんが玄関の先を見せないように立ちふさがる。僕はまだ理解ができなくて首をかしげたままだ。
「どういうことですか?そこにビニール袋、あるじゃないですか。」
まさか僕とストーカーさんの関係性を終わらせるためにそんなことを言っているんじゃないか。僕の置いた覚えの無いあのビニール袋がある時点で、ストーカーさんがここに来たことは間違いがない。なのに中身がないなんてあり得ないじゃないか。
「ストーカーさんではない。…多分、松野さんにはもう一人ストーカーがいます。」
楠原さんは玄関前のビニール袋を見もせずに、ひたすらに僕に言い聞かす。
必死な楠原さんを見て少し笑ってしまった。僕のような平凡かもしくはそれ以外かの人生を歩んできた人間にそう容易くストーカーが出来るわけがない。ストーカーさんの存在は本来は僕に関係ないことなんだ。そんなもの二人もいてたまるか。
「僕のストーカーはストーカーさんだけですよ。」
「違う。これは、明らかに悪意を持っている。」
玄関を閉めてしまったのでもうビニール袋は見えない。
ドアが閉まって外気が無くなったことで、自分の心臓の音がはっきり聞こえる。少し早くなった鼓動は、楠原さんにも聞こえるだろうか。
「…あの袋の中身は、お菓子なんかじゃない。小動物の殺傷死骸です。」
僕の呼吸が止まって、さらに部屋が静かになる。死骸?そんなもの、人生で一度も見たこともない。それに、ビニール袋にそんな物騒なものが入っているとは到底思えなかった。
「見せて、見せてください。」
絞り出した僕の言葉に楠原さんは首を横に降るが構わず僕は玄関を開ける。
ストーカーさんが動物を殺して僕のもとに運ぶなんて考えられない。楠原さんが袋の中身を見せないのは、きっと何かの間違いか僕をからかっているかの二択だ。
落ちたビニール袋の汚れは、よく見たら赤く黒ずんでいた。中を覗いて僕は吐き気がした。
生き絶えた小さな命は僕には重く、楠原さんに支えてもらえなかったら床に倒れていたと思う。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい

のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。 【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

アルファ王子ライアンの憂鬱 〜敵国王子に食べられそう。ビクンビクンに俺は負けない〜

五右衛門
BL
 俺はライアン・リバー。通称「紅蓮のアルファ王子」。アルファとして最強の力を誇る……はずなんだけど、今、俺は十八歳にして人生最大の危機に直面している。何って?  そりゃ、「ベータになりかける時期」がやってきたんだよ!  この世界では、アルファは一度だけ「ベータになっちゃえばいいじゃん」という不思議な声に心を引っ張られる時期がある。それに抗えなければ、ベータに転落してしまうんだ。だから俺は、そんな声に負けるわけにはいかない!   ……と、言いたいところだけど、実際はベータの誘惑が強すぎて、部屋で一人必死に耐えてるんだよ。布団握りしめて、まるでトイレで踏ん張るみたいに全身ビクンビクンさせながらな!  で、そこに現れるのが、俺の幼馴染であり敵国の王子、ソラ・マクレガー。こいつは魔法の天才で、平気で転移魔法で俺の部屋にやってきやがる。しかも、「ベータになっちゃいなよ」って囁いてきたりするんだ。お前味方じゃねぇのかよ! そういや敵国だったな! こっちはそれどころじゃねえんだぞ!  人生かけて耐えてるってのに、紅茶飲みながら悠長に見物してんじゃねぇ!  俺のツッコミは加速するけど、誘惑はもっと加速してくる。これ、マジでヤバいって!  果たして俺はアルファのままでいられるのか、それともベータになっちゃうのか!?

処理中です...