俺をよく知るあなたを知りたい

ちとせあき

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本編

ストーカーさん

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休日は平日より一時間遅くアラームをセットしている。とはいっても、一応セットしているだけで毎回この時間に起きるわけではない。だらだらして結局、一日中布団の上で過ごすことだって珍しくはなかった。
そんなだらしのない僕は隣に寝ている人を起こさないように静かに背伸びをした。
今日は休日だし、雷に怯える僕を哀れに思って僕の部屋に泊まってくれた楠原さんの分も朝食を作って後はのんびりしよう。その前に玄関によってストーカーさんからの手紙を回収だけでもしておこう。これからの行動を考えていたら大きなあくびが出る。
昨日の嵐の中、もし手紙を置いたのなら中はぐちゃぐちゃかもしれない。そういえば朝のレジ袋は前夜が雨でも濡れていたことはなかった。もしかしたらストーカーさんはとても近所に住んでいて、早朝ランニングがてらここに寄っているのかもしれない。
ランニングしてるとは手紙に書いていなかったが、手紙の内容的に丁寧な暮らしをしているストーカーさんは健康志向で、朝のランニングをする余裕のある生活もしていそうだ。
布団から出ようとすると、隣の布団がモゾモゾと動いていた。眉毛を中央に寄せて睨むように僕を見ている楠原さんと目が合う。どうやら彼は朝がとても苦手みたいだ。
「おはようございます。朝ごはん作ってきます。もう少し寝てますか?」
まだ寝ぼけているのか、目を開けたり閉じたりしているので返事を待つ。
「…起きるよ。」
そう言うと片腕を下に着けて上半身を持ち上げた。膝はついてるみたいだけど、腕立てみたいな形になって少しの間動かない。
「楠原さん?」
「うん。起きる。」
僕より頼りない楠原さんを見るのは初めてだ。少しウキウキして楠原さんの膨らんでいる背中を撫でる。
「ん…。ごめんね。朝弱くて。」
楠原さんは手を出して僕の手を優しく振り払った。少し残念な気がしたけど、手を払われたならしょうがない。多分だけど、楠原さんは人に体を触られるのが嫌いなんだと自己完結する。気を取り直して完全に立ち上がり自分の布団を畳む。楠原さんはそれに続くように几帳面に自分の布団を畳んでいた。
寝室の扉を開けると楠原さんもついてくる。まるで親鳥と小鳥みたいだ。くすくすと笑いながらストーカーさんの手紙を回収しようと玄関に向かうと楠原さんが不思議そうに僕の肩を掴んだ。
「キッチンは逆ですよ?」
「玄関にストーカーさんからの手紙があると思うので取りに行くんです。」
楠原さんは僕の言葉を聞き、まだ頭が働いていないのか少し考える素振りを見せた。きっとまだ僕がストーカーさんと仲良くしていることが心配なんだろう。
「私が取りに行きます。松野さんは朝食作っておいて。」
僕の向いている向きをキッチンにして、楠原さんは玄関の扉を開けに行った。自分への贈り物を他の人に取りに行ってもらうのは気が引けるけど、楠原さんならいいかもしれない。
それくらい彼を信用しているし、好意を抱いていた。今日はどんな朝ごはんを作ろうかと鼻歌交じりにキッチンに向かって一歩踏み出した。
そのままキッチンに向かおうとした僕の耳に『ボトンッ』と何か重いものが落ちた音が響いたのは、偶然の産物なのか運命のいたずらなのかは未だに分からない。
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