俺をよく知るあなたを知りたい

ちとせあき

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本編

お友達

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僕の心の変化を知ってか知らずか、この頃からストーカーさんからの袋が不定期になっていた。手紙も入っていないことが多くなり僕は焦った。前はともかく、今は向けられていた好意に頷けそうにもないのにストーカーさんからの好意が無くなりそうになれば泣きそうになるのだから、僕は自分勝手な人間だ。
「ストーカーさんは僕に飽きたんでしょうか。」
僕の肉じゃがを食べて微笑んでいるお隣さんについ不安を漏らしてしまった。
「…そんなこと無いと思いますけど、松野さんはストーカー行為が無くなったら嬉しくないんですか?」
「そうですね。僕にとってストーカーさんは、友達みたいなものなんです。恥ずかしながら、僕は友達とかできたことないので嬉しかったんです。お菓子を貰ったり手紙を交換するの。」
「なら俺ともしてください。」
「は?」
お隣さんの急な言葉に俯いていた顔を思いきりあげる。やっぱりそこにはいつもにこやかな笑顔のお隣さん。
「いいでしょ?それに、俺なら手紙なんかじゃなくて直接話ができる。」
だからストーカーなんていらないよね?
「そんな、お隣さんにそこまでして頂くわけには…」
「楠原だよ。楠原稔。これから友達になるんだから、名前で呼んでください。」
「ぼ、ぼくと?」
「はい。最も、俺はもう友達だと思ってたけどね。丁度いい機会だから敬語も外すよ。」
お隣さん、もとい楠原さんは持っていた箸をおいて右手を出した。慌ててその手を取ればいつもより意地悪そうな笑みを浮かべる。
「改めて、これからよろしくね。松野さん。」
こうして僕は意中の相手とお友達になれた。
きっかけを作ってくれたストーカーさんには感謝しなければならない。今日の手紙の内容も決まった嬉しさもあって、僕は満面の笑みを浮かべた。


楠原さんはこれからはお昼も一緒に食べようと言ってくれた。今まではたまに先輩と一緒に食べることはあっても大体一人で食べていたので、嬉しくなって何度も頷いてしまった。
僕と楠原さんは、朝も一緒に会社へ行くし、お昼にご飯を食べて一緒に帰宅し、さらに夜ご飯も共にする。これだけ濃厚に人と関わったことがないので浮かれてしまう。
いや、それだけが理由ではない。
楠原さんは優しい。ストーカーなんて、外から聞けば面倒なことに関わっている隣人を放っておけないし、毎日ご飯を美味しいと言って食べてくれ皿洗いもしてくれる。
人に優しくされたら好きになってしまうのは、僕の今までの人間関係が希薄だったからだろうか。

「今日は何を作ってくれた?」
友達になってから敬語を外した楠原さんは相変わらず格好いい。でも、以前のように隣にいて卑屈にはならなかった。今日は午後から酷い雨で、楠原さんが持ってきた傘に僕も入っている。僕は天気予報を見逃したせいで傘を忘れていた。
「鍋がいいかなって。最近寒いですし。」
季節は11月。もうマフラーや手袋を使う季節だ。
「具材はもう切ってあるので入れるだけですよ。」
「また敬語。友達なんだから外していいのに。」
そう膨れる楠原さんがおかしくって笑う。イケメンでも拗ねることあるんだ。
楠原さんの知らない一面を知れば知るほど好きになる。
「だって、楠原さん、僕より年上でしょ?」
「悪かったね。三歳もおじさんで。」
「拗ねないでくださいよ。今日は牛肉買っちゃいましたから、好きなだけ食べてください。」
牛肉を買えたのは食費を楠原さんと折半するようになってからだ。使えるお金が増えるのもそうだけど、沢山の種類の野菜をいくらでも使える環境は安い日にまとめ買いとか格安品を迷いなく買えたりするのでたまの贅沢もできるようになった。そのせいで僕は最近太った気がする。
楠原さんと話しているとあっという間に玄関についた。今日は袋はないみたいだ。
がっかりしていると隣から肩を叩かれる。
先輩と同じくストーカー反対派の楠原さんは苦笑いしながら僕を見ていた。言いたいことはわかってる。ストーカーなんて危ない人はいなくなった方が安心だって。
でも、ストーカーさんは僕の環境を変えてくれた謂わば恩人だ。
その人を危険な人だと警戒するのが、僕にはどうしてもできなかった。
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