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本編
好きなお菓子と栄養剤が一本
しおりを挟む仕事終わりにエレベーターで上階へ上がる。
日々のストレスを和らげるためにコンビニで買っていた好きなお菓子やドリンクはめっきり買わなくなった。
(あ、今日もある。)
俺の部屋の笠掛に置いてあるビニール袋。差出人は分からないが、ここのところ毎日置いてある。
(今日のお菓子は、チョコとグミだ。)
気になっていた新作のグミだ。欲しかったものを入れてくれて、なんだか嬉しくなる。
「ただいま。」
暖まった心も冷えきった部屋に入れば凍っていった。
俺に返事をくれる人はいつだっていない。
さて、袋の中身は何が入っているのか。
いつも通りお菓子と好きな栄養剤が一本。
差出人に心当たりはない。
でも俺は気にせず中身を食べている。
いつの間にか置かれるようになったビニール袋は毎日中身が入れ替わる。初めは気味が悪かったが、中身が違うことに気が付いて袋を回収してみればやっぱり次の日には違う袋が置かれていた。
俺は25歳にして初めてのストーカーに悩まされている。
いや、悩まされていたが正しいかもしれない。
今じゃ受け入れてお菓子もありがたく貰っている。酔っぱらった時に食べてしまったけど何もなかったからもう開き直った。第一、本当に俺のストーカーなのかも怪しい。
25歳友なし親なし天涯孤独の冴えない低収入サラリーマンに一体誰がストーキングするのか。
甚だ疑問である。
それに、今ではその袋の存在が癒しを感じていて、俺のことを待ってくれている人がいるみたいで、嬉しさと感動もある。
本当にこの人が俺のことをストーキングしてるならだが。
「それで?その後どうよ。」
職場の先輩である根本さんが自作の卵焼きを頬張りながら聞いてくるが、何を言っているか分からなかった。
「何がですか?」
「はあ…。ストーカーだよ。もう収まったのか?」
そういえば以前、先輩にストーカー被害を報告していたんだった。
「あー、まだ続いてます。」
「気を付けろよ?ちゃんと警察行くんだぞ。被害の写真も取って。大体お前は警戒心が無さすぎるんだ。」
俺が報告を怠ったばかりに、根本さんのお節介体質が出てしまった。口を挟むと長引くだけなので社食を味わいながら適度に頷づいておいた。
「本当にお前って奴は…。後で大事になって後悔するぞ。知らない奴には気を付けろ。わかったな。」
「はい。気を付けます。」
結局、先輩のお節介というかお説教は昼休みが終わりデスクに戻るまで続いた。
定時で帰るとマンションのエレベーターに先客がいた。丁度俺の真下の部屋に住むご家族の父親だ。
「お疲れ様です。」
「あ、お疲れ様です…。」
エレベーターは人を乗せているようで、まだ上を目指して動いていた。
そういえば、このご家族の娘さんは美人だったな。もしかして俺はこの人の娘さんと間違えられてストーキングされてるんじゃないか。
「あの、お訪ねしたいんですが。最近お菓子の入ったビニール袋なんかが家の前に落ちていたりしませんか?」
「え?ビニール袋ですか?いえ、特に無かったと思いますけど…。」
「そ、そうですよね、あはは…」
勢いで聞いてしまったが、会話が終わった途端に恥ずかしくなる。挨拶以外交わしたことがないのに変な質問をしてしまった。
俺はなんだかこの空間が気まずくて、エレベーター点検の際しか使ったことのない階段で家まで帰った。
そして例のごとく、ストーカーさんから今日頂いたのはポテチとグミと栄養剤が一本だった。
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