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まさか......でしょ?
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ボーゲさんの言葉に何やらギクッ......とした表情のルノア。ぐびっといつの間にかオーダーした果実酒をあおる。蒸留酒の強いやつ、生でぐいっといって咳き込んでる......バカ。
「とりあえず、次はイツキちゃんいってよ」
サイラがボーゲさんと手を握ったまま言う。
「えっと......」
頭をポリポリ。ちびっとシードルで舌を湿らせて......。
「俺は、今の名前はイツキ・カーラント。前世の名前は海藤斎。仕事は普通の会社員。死因は心筋梗塞。......いわゆる過労死、かな。この世界に生まれ変わったのは、『男になりたい』と思ってたから......だと思う。ネコ大好きだったし」
私なんてつまんない、ごく普通の、どこにでもいる社畜でございますよ、はい。
「イツキちゃんはね、キャリアウーマンだったんだ。ワーカホリックでいつも帰りも遅くてさ。男っ気ゼロ。『絶対、出世するんだーっ』て叫んでた。......働き過ぎて死ぬなんてらしすぎて笑えないよ」
サイラ、補足しなくていいから。
「好きな人とかいなかったんですか?」
ボーゲさん、あるあるな突っ込みありがとう。
ルノア、何マジな顔してこっち見てんのよ、前世の話よ、前世。あいつを思い出すからやめてくれない?
「......まぁ、いなかったな」
しょうがないじゃん、縁が無かったんだから。
「え、そうなの?」
と不思議そうなサイラ。
「あんたさぁ......酔っ払った時とか必ず送ってきてくれた人、いたじゃん。風邪引きで休んでた時とか、ドアノブに薬とかスポーツドリンク入ったコンビニ袋下げて帰った人」
確かにあいつにはよく送ってもらったけど.....コンビニ袋?.......そう言えばあったかも。
「え、あれはあんたじゃなかったの?」
私はてっきり隣のサイラ、つまりは西原美幸が気を効かせて置いてくれてるのかと思っていた。うちのアパートの壁、薄かったからさ。
「私はドアノブじゃなくて、直接差し入れ届けてたじゃん。お粥とか栄養ドリンク」
そう言われれば確かに、何回かもらった。まあサイラが締切前にはお握りとか届けたし、ご飯も作ってあげたから、お互いさまなんだけど。
夜中に、ーお腹空いた~!ーってラインしてくるのはあんたくらいだわ。しかも隣の部屋に。
「あの人、どしたの?」
突っ込むな、サイラ。
「まぁ、いいやつだったとは思う。けど、ゲイだったからね、彼も。今でもあっちで頑張ってると思うよ」
「そっか~」
カチンとサイラがグラスを当てて微笑う。
「でも社畜ちゃん、どこまで出世できたん?」
「課長代理。......昇進かかったプレゼンの前日に会社で倒れて、おしまい」
「それは悔しいねぇ。未練だねぇ......」
私の溜め息にサイラが相槌を打ってくれる。
「今となっちゃ仕方ないけど、あの企画どうしたかな......みんなで頑張ったやつだから通したかったんだよね」
チーム一丸になって、あいつにも知恵借りて、一緒に残ってアドバイスとかしてもらって、やっと完成させた。なのに、出世よりあの企画を通せなかったのが、悔しい。
「通したかったな......あいつのためにも」
やだ、涙出てきた。ぐいっと手で拭って、酒をあおる。と、ルノアがボソッと呟いた。
「通ったよ」
ーえ?.....ー
思わず向き直った私に、ルノアが至って真剣な顔で言った。
「俺が通した」
ーはいぃ?なんですと?!ー
ルノアが大きく溜め息をついて、私の顔をじっと見る。
「イツキ......俺だよ。白須 稔。お前の同期だった男だ。......まったく鈍いのは前世から全然変わんねぇな、お前」
ーええぇーっ!ー
う、嘘......。そりゃ、確かになんとなく似てる気はしたけど...。途端に顔に血が集まるのがわかる。
いや、その前にあいつがなんで......。
「ち、ちょっと、あんたなんで死んでんの?!
冗談じゃないわよ!」
「大丈夫だ。ちゃんとあの企画は実現化に向けて始動したから。お前の部下の米田がプロジェクト・リーダーで進めてるはずだ」
「よかった。.......って、いや、そうじゃなくて、あんたが何故この世界にいるのよ?!」
頭がクラクラしてきた。マズイ飲み過ぎた。
「お前に会いたかったんだよ」
あかん......ルノア、それは禁句。
あわあわと口を開こうとして、熱い何かに塞がれて......私の意識は飛んだ。
「とりあえず、次はイツキちゃんいってよ」
サイラがボーゲさんと手を握ったまま言う。
「えっと......」
頭をポリポリ。ちびっとシードルで舌を湿らせて......。
「俺は、今の名前はイツキ・カーラント。前世の名前は海藤斎。仕事は普通の会社員。死因は心筋梗塞。......いわゆる過労死、かな。この世界に生まれ変わったのは、『男になりたい』と思ってたから......だと思う。ネコ大好きだったし」
私なんてつまんない、ごく普通の、どこにでもいる社畜でございますよ、はい。
「イツキちゃんはね、キャリアウーマンだったんだ。ワーカホリックでいつも帰りも遅くてさ。男っ気ゼロ。『絶対、出世するんだーっ』て叫んでた。......働き過ぎて死ぬなんてらしすぎて笑えないよ」
サイラ、補足しなくていいから。
「好きな人とかいなかったんですか?」
ボーゲさん、あるあるな突っ込みありがとう。
ルノア、何マジな顔してこっち見てんのよ、前世の話よ、前世。あいつを思い出すからやめてくれない?
「......まぁ、いなかったな」
しょうがないじゃん、縁が無かったんだから。
「え、そうなの?」
と不思議そうなサイラ。
「あんたさぁ......酔っ払った時とか必ず送ってきてくれた人、いたじゃん。風邪引きで休んでた時とか、ドアノブに薬とかスポーツドリンク入ったコンビニ袋下げて帰った人」
確かにあいつにはよく送ってもらったけど.....コンビニ袋?.......そう言えばあったかも。
「え、あれはあんたじゃなかったの?」
私はてっきり隣のサイラ、つまりは西原美幸が気を効かせて置いてくれてるのかと思っていた。うちのアパートの壁、薄かったからさ。
「私はドアノブじゃなくて、直接差し入れ届けてたじゃん。お粥とか栄養ドリンク」
そう言われれば確かに、何回かもらった。まあサイラが締切前にはお握りとか届けたし、ご飯も作ってあげたから、お互いさまなんだけど。
夜中に、ーお腹空いた~!ーってラインしてくるのはあんたくらいだわ。しかも隣の部屋に。
「あの人、どしたの?」
突っ込むな、サイラ。
「まぁ、いいやつだったとは思う。けど、ゲイだったからね、彼も。今でもあっちで頑張ってると思うよ」
「そっか~」
カチンとサイラがグラスを当てて微笑う。
「でも社畜ちゃん、どこまで出世できたん?」
「課長代理。......昇進かかったプレゼンの前日に会社で倒れて、おしまい」
「それは悔しいねぇ。未練だねぇ......」
私の溜め息にサイラが相槌を打ってくれる。
「今となっちゃ仕方ないけど、あの企画どうしたかな......みんなで頑張ったやつだから通したかったんだよね」
チーム一丸になって、あいつにも知恵借りて、一緒に残ってアドバイスとかしてもらって、やっと完成させた。なのに、出世よりあの企画を通せなかったのが、悔しい。
「通したかったな......あいつのためにも」
やだ、涙出てきた。ぐいっと手で拭って、酒をあおる。と、ルノアがボソッと呟いた。
「通ったよ」
ーえ?.....ー
思わず向き直った私に、ルノアが至って真剣な顔で言った。
「俺が通した」
ーはいぃ?なんですと?!ー
ルノアが大きく溜め息をついて、私の顔をじっと見る。
「イツキ......俺だよ。白須 稔。お前の同期だった男だ。......まったく鈍いのは前世から全然変わんねぇな、お前」
ーええぇーっ!ー
う、嘘......。そりゃ、確かになんとなく似てる気はしたけど...。途端に顔に血が集まるのがわかる。
いや、その前にあいつがなんで......。
「ち、ちょっと、あんたなんで死んでんの?!
冗談じゃないわよ!」
「大丈夫だ。ちゃんとあの企画は実現化に向けて始動したから。お前の部下の米田がプロジェクト・リーダーで進めてるはずだ」
「よかった。.......って、いや、そうじゃなくて、あんたが何故この世界にいるのよ?!」
頭がクラクラしてきた。マズイ飲み過ぎた。
「お前に会いたかったんだよ」
あかん......ルノア、それは禁句。
あわあわと口を開こうとして、熱い何かに塞がれて......私の意識は飛んだ。
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