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ボーゲさんの告白
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渋るルノアとボーゲさんを酒場に引き摺り込んで、まずは乾杯。ラガーの効いたビールのような飲み物を二杯、三杯とあおる。
「この期に及んで隠しても仕方ないから、あらためて自己紹介するね」
と口火を切ったのはサイラ。
「まぁイツキは知ってると思うけど、私はサイラ・ミュートン。前世の名前は西原美幸。地球の日本の東京でイラストレーターしながら、BL漫画描いてた。事故で死んでこの世界に転生したの。イツキ.....社畜ちゃんとは前世でお隣さんだった」
ニカッと笑うサイラは目線で私にほれ......と促す、が先に口を開いたのはなんとボーゲさんだった。
「知ってます......」
えっ?
「美幸さん、オンラインゲームの『Duka』、覚えてますか?」
ボーゲさん、グラスを握りしめて言う。
『Duka』 はその頃流行りのオンラインゲームで、アバター作って見知らぬ同士が交流しながら敵を倒してステージを進めていく最新のRPGで世界的に人気だった。
「『Duka』......覚えてるよ。私、結構ハマってたもん」
「僕、美幸さんとパーティー組んでた『ティナ』です」
えぇーっ!世間、狭っ!
「ティナちゃん、アバターは女の子だったけど.....」
わりと驚きの少ないサイラ。まあゲームの世界では男性が女性のアバターだったりその逆だったりよくある話なんだって。ボーゲさんのアバターは栗毛の控えめな感じの女の子でナイーブな印象だから、わりと元々『盛れない』タイプの真面目な人だと思ったんだって。
「......僕なんです。ダンジョン攻略の時とかすごく助けてもらって......それ以外でもチャットで相談に乗ってもらったり、愚痴聞いてもらったり、すごく嬉しかったです」
さすがのサイラも目をしばたたいてる。
「まぁ男の人かなぁ.......とは思っていたけど、相談の内容がね。ボーゲさんだったの?」
俯いてこっくり頷くボーゲさん。
「でもなんで私ってわかったの?アバターの『ミユキ』って沢山いるじゃん」
苦笑いしながら、でも懐かしそうなサイラ。
「ラノベの話とか流行りのアニメの話もいっぱいしてくれて......漫画描いてるって聞いて、検索してみたんです。一度、勇気を出して日本のコミケに行って......思ったとおりの優しい明るい人で嬉しかった」
あれ?サイラ、あんた陰キャじゃなかったっけ?.....あ、コミケん時は別人だったわね。今もだけど......。
「コミケって、私のブースはBLのブースなのに」
サイラはますます苦笑い。そりゃ一般男子は来ないわな。腐男子は来るらしいけど。
「でも、美幸さんの本が欲しかったんです。美幸さん、笑顔でサイン入れてくれて、握手してくれたじゃないですか」
「覚え、ある?」
とひそひそ声で尋ねる私に、サイラはひとしきり考え込んで、首を傾げながら呟いた。
「う~ん.....春コミケでブース間違えたみたいな外人さんはいたんだけど。私の本が欲しいって言われて売ったことはあるわ、サインもした」
「外人さん?」
「うん。四十歳くらいかな」
「それ、僕です」
えぇ~っ!と叫ぶサイラ。
「え、でもゲームのティナちゃんとは日本語でチャットしてたよ。ハ○ヒ紹介したら、『ラノベは正義だ』って、すごい感動してたし......」
「翻訳ソフト使ってました。ハ○ヒは翻訳されたものが出てたし......」
ボーゲさん、とっても気恥ずかしそうに言う。
「あらためて自己紹介します。.....前世の名前はハンス・ボーゲンレイダー。ドイツ人です。仕事は大学で機械工学教えてました。美幸さんに教えてもらって日本のアニメやラノベが大好きになりました。.....今の名前はボーゲ・ラドー、皆さん知っての通り、しがない武器屋です」
ひえ、大学の先生.....まぁオタクの多そうな職種ですね、ある意味。でも.....ここにいるということは......。
「ボーゲ、いやハンスさん、なんで亡くなったんですか?」
死なないうちにまさか異世界転移......は無いよね。
「正直、よくわからないんですよ。出張中にダイニングで食事をしていたら、突然、爆発音がして、気づいたら.....」
私達は言葉を失った。
ー爆弾テロに巻き込まれたんだー
「そ、それは大変でしたね。ご家族は嘆かれたでしょうね.....奥さんとか」
とりあえずなんか言わなきゃ、な私にボーゲさん小さく首を振った。
「家族は両親はいましたが、後はいません。僕、ゲイだったし...今とあまり変わらない風体だったから」
「確かに、ぽよん.....として可愛いおじさんだったわ」
サイラが慰めるように微笑した。
「でも何故この世界に......?」
じっと聞いていたルノアが初めて口を開いた。
「さぁ.....」
ボーゲさんはちょっと考え込んで言った。
「でも死ぬ時、もっと自分の好きなことをして楽しく生きたかったな......て思いましたね。美幸さんみたいに、好きなことに熱中して見たかった」
そこまで言ったボーゲさんは、あらためてサイラを振り向いて言った。
「美幸さん......いえ、サイラさん、これからも僕と一緒にいてくれませんか?そして人生の楽しみ方を教えてください」
ぎゅっ......とサイラの手を握りしめるボーゲさん。目を見開くサイラ。その瞳がちょっぴり濡れていた。
「何だよ、今さら......オタクなあんたの面倒みれるのはオタ仲間の私くらいのもんだよ」
ギュッとハグし合うサイラとボーゲさん。外人さんとは思わなかったけど、やっぱり前世で縁があったのね。なんかほんわかしちゃう。
固く包容する二人に唖然とするルノア。そのルノアにボーゲさんが、ひそっと言った。
「もしかしたら、僕はあなたも知ってますよ、ルノアさん」
「この期に及んで隠しても仕方ないから、あらためて自己紹介するね」
と口火を切ったのはサイラ。
「まぁイツキは知ってると思うけど、私はサイラ・ミュートン。前世の名前は西原美幸。地球の日本の東京でイラストレーターしながら、BL漫画描いてた。事故で死んでこの世界に転生したの。イツキ.....社畜ちゃんとは前世でお隣さんだった」
ニカッと笑うサイラは目線で私にほれ......と促す、が先に口を開いたのはなんとボーゲさんだった。
「知ってます......」
えっ?
「美幸さん、オンラインゲームの『Duka』、覚えてますか?」
ボーゲさん、グラスを握りしめて言う。
『Duka』 はその頃流行りのオンラインゲームで、アバター作って見知らぬ同士が交流しながら敵を倒してステージを進めていく最新のRPGで世界的に人気だった。
「『Duka』......覚えてるよ。私、結構ハマってたもん」
「僕、美幸さんとパーティー組んでた『ティナ』です」
えぇーっ!世間、狭っ!
「ティナちゃん、アバターは女の子だったけど.....」
わりと驚きの少ないサイラ。まあゲームの世界では男性が女性のアバターだったりその逆だったりよくある話なんだって。ボーゲさんのアバターは栗毛の控えめな感じの女の子でナイーブな印象だから、わりと元々『盛れない』タイプの真面目な人だと思ったんだって。
「......僕なんです。ダンジョン攻略の時とかすごく助けてもらって......それ以外でもチャットで相談に乗ってもらったり、愚痴聞いてもらったり、すごく嬉しかったです」
さすがのサイラも目をしばたたいてる。
「まぁ男の人かなぁ.......とは思っていたけど、相談の内容がね。ボーゲさんだったの?」
俯いてこっくり頷くボーゲさん。
「でもなんで私ってわかったの?アバターの『ミユキ』って沢山いるじゃん」
苦笑いしながら、でも懐かしそうなサイラ。
「ラノベの話とか流行りのアニメの話もいっぱいしてくれて......漫画描いてるって聞いて、検索してみたんです。一度、勇気を出して日本のコミケに行って......思ったとおりの優しい明るい人で嬉しかった」
あれ?サイラ、あんた陰キャじゃなかったっけ?.....あ、コミケん時は別人だったわね。今もだけど......。
「コミケって、私のブースはBLのブースなのに」
サイラはますます苦笑い。そりゃ一般男子は来ないわな。腐男子は来るらしいけど。
「でも、美幸さんの本が欲しかったんです。美幸さん、笑顔でサイン入れてくれて、握手してくれたじゃないですか」
「覚え、ある?」
とひそひそ声で尋ねる私に、サイラはひとしきり考え込んで、首を傾げながら呟いた。
「う~ん.....春コミケでブース間違えたみたいな外人さんはいたんだけど。私の本が欲しいって言われて売ったことはあるわ、サインもした」
「外人さん?」
「うん。四十歳くらいかな」
「それ、僕です」
えぇ~っ!と叫ぶサイラ。
「え、でもゲームのティナちゃんとは日本語でチャットしてたよ。ハ○ヒ紹介したら、『ラノベは正義だ』って、すごい感動してたし......」
「翻訳ソフト使ってました。ハ○ヒは翻訳されたものが出てたし......」
ボーゲさん、とっても気恥ずかしそうに言う。
「あらためて自己紹介します。.....前世の名前はハンス・ボーゲンレイダー。ドイツ人です。仕事は大学で機械工学教えてました。美幸さんに教えてもらって日本のアニメやラノベが大好きになりました。.....今の名前はボーゲ・ラドー、皆さん知っての通り、しがない武器屋です」
ひえ、大学の先生.....まぁオタクの多そうな職種ですね、ある意味。でも.....ここにいるということは......。
「ボーゲ、いやハンスさん、なんで亡くなったんですか?」
死なないうちにまさか異世界転移......は無いよね。
「正直、よくわからないんですよ。出張中にダイニングで食事をしていたら、突然、爆発音がして、気づいたら.....」
私達は言葉を失った。
ー爆弾テロに巻き込まれたんだー
「そ、それは大変でしたね。ご家族は嘆かれたでしょうね.....奥さんとか」
とりあえずなんか言わなきゃ、な私にボーゲさん小さく首を振った。
「家族は両親はいましたが、後はいません。僕、ゲイだったし...今とあまり変わらない風体だったから」
「確かに、ぽよん.....として可愛いおじさんだったわ」
サイラが慰めるように微笑した。
「でも何故この世界に......?」
じっと聞いていたルノアが初めて口を開いた。
「さぁ.....」
ボーゲさんはちょっと考え込んで言った。
「でも死ぬ時、もっと自分の好きなことをして楽しく生きたかったな......て思いましたね。美幸さんみたいに、好きなことに熱中して見たかった」
そこまで言ったボーゲさんは、あらためてサイラを振り向いて言った。
「美幸さん......いえ、サイラさん、これからも僕と一緒にいてくれませんか?そして人生の楽しみ方を教えてください」
ぎゅっ......とサイラの手を握りしめるボーゲさん。目を見開くサイラ。その瞳がちょっぴり濡れていた。
「何だよ、今さら......オタクなあんたの面倒みれるのはオタ仲間の私くらいのもんだよ」
ギュッとハグし合うサイラとボーゲさん。外人さんとは思わなかったけど、やっぱり前世で縁があったのね。なんかほんわかしちゃう。
固く包容する二人に唖然とするルノア。そのルノアにボーゲさんが、ひそっと言った。
「もしかしたら、僕はあなたも知ってますよ、ルノアさん」
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