明日は大事なプレゼンがあるのに異世界転生ってマジですか?

葛城 惶

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出勤です。お仕事です

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 身体の何処にも異常は無いってことで今日から職場復帰。
 てさぁ、何ともないって言ってんのに、母さんに耳引っ張って近所の診療所、連れていかれた。耳だよ、耳。猫なのに。猫耳は大事なんだから~。

 で、ぷりぷりしてたら、梟のお医者さんに笑われた。

「ほっほ~、相変わらず元気だのう。この様子なら心配ないよ。これでも飲ませておきなさい」

 て薬出してくれたの。薬嫌い。だけど微妙にマタタビ混ぜてあって、思わずゴックン。いかんわ~。

 猫にマタタビは定番中の定番。オッサンの酎ハイとか女子高生のスイーツくらいに猫には必須。けど、スイーツと違って酔っぱらうから要注意。
 猫科獣人の中にはマタタビで酔わされてレイプされたり、酷い目に遭った話も事欠かず。だから、今やマタタビは厳しく国で管理されてる。王様ありがとう。

 で、すっきり目覚めた今朝は、白いシャツにスタンドカラーのモスグリーンのパンツスーツできっちり身を包んで、鏡の前で念入りチェック。
 金茶の今の私の瞳と金糸の刺繍ししゅうがイイ感じなのよね。髪もしっかり整えて、サテンの靴もピカピカ。身だしなみ大事。

「行ってきます」

 家を出て大通りを直線に早足で進むと、王様のお城。

「おはようございます」

 門番のシェパードっぽいおじさんに許可証提示。真っ直ぐ背筋を伸ばして、控えの間まで擦れ違う獣人さん達に笑顔で明るくご挨拶。スマイル0円、猫背はNG 。好感度アップしないとね。目指せ正式採用!

「おや早いね。もう大丈夫なのか?」

「大丈夫です。ご心配おかけしました」

 山羊の侍従長さんに四十五度で最敬礼。控えの間の空気を入れ替え、調度を手早く支度する。

「いつも早いねぇ......」

 ベテランの侍従さんがふむふむと辺りを確認する。五分前行動は社会人の基本ですぅ。今日も完璧。

「大したもんだ。いい嫁さんになるねぇ」

 それ、いりません。褒めてません。私は嫁さんになんか、なりませんから~。
 ちょっとイラッとしたところで、今日最初の謁見のお客様。財務官の狐獣人のマーシーさん。今日もモノクルが良くお似合いです。

「おはようございます、マーシー様」

「おはようイツキ。頑張ってるね」

「ありがとうございます」 

 やっぱり狐獣人は、スタイリッシュでお洒落です。遊び人ですけどね。マーシーさんは超有能な方。尊敬してます。私生活関係ねぇし、下っ端の山猫には。

 ややしばし、お客様を捌き終わったところで、頭痛の種のお出まし....。
 ルノアが衛兵の勤務交代でやってきた。って、ギリギリかよお前。この前も遅刻したろ。

「おはよ、ハニー。無理すんなよ」

 私はあんたのハニーじゃない。ハニーじゃないし、頭の毛が一房おっ立ってる。

「お早くないっ!寝癖ついてるし.....ちょっと屈んで!」

 硬めの銀灰色の髪を手櫛で軽くすいてぺしぺしと整える。

「ありがとうよ、さすが嫁さん」

「嫁さん、違う!」

 ニヤリと人好きのする笑顔をこぼして、足早に走り去るルノア。みんなに陽気に挨拶して、持ち場に急ぐ。愛想が良くて憎めない愛嬌があって、その上、結構男っぽい。

ーなんで、そんなとこまで似てるかねぇ...ー

 私が死んだ時にはあいつは先に課長になってた。三つ年上で、中途採用で入ってきた同期だった。どっかの大手企業にいたらしいのに、ベンチャーの方が面白いから辞めてきた、とか笑ってた。

ー仕事ばかりが人生じゃないぜ。楽しめよー

 口癖のように言いながら、人の倍くらい働いてた。あれから十五年だから、今頃は専務か社長になって...はないか。どっかで起業しているかもしれない。妙に懐こくて馴れ馴れしいやつだった。

ーどうしてるかなぁ.....ー

 白い雲が流れていった。

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