9 / 22
第九話 九日月
しおりを挟む
じじ---と蝋燭が焼ける短い音が耳をかすめ、不意に炎が大きく揺れた。
はっ---として、廊下に目をやると、障子に見覚えのある影が映っていた。
「小十郎、入ってよいか。」
政宗が、答える間もなく、すら---と障子を開け、小十郎の方に近寄ってきた。
「政宗さま、このような夜更けに如何なされました---?また、怖い夢でも見られましたか?」
小十郎は、政宗の方に向き直り、まずは一礼し、政宗の顔を見た。
「違う!--いつまでも子ども扱いするでないわ。馬鹿者!」
政宗は、一瞬、ぷっと頬を膨らませ、だが、大層らしく、小十郎の前に胡座をかいて座った。
「話がある。」
「はて、如何なことで御座いましょうか。」
小十郎は、姿勢を正し、改めて政宗を見た。
「まずは、これを取ってくれ。」
政宗は、右目を覆っていた包帯を指差した。小十郎は、一瞬怯んだ。それは、政宗自身が常に包帯を付けていることを望み、湯に入る時に替えるから外すように---と言いでもしない限り、外すことを拒み、寝む時以外は、決して外すことがなかったからである。
「承知いたしました。」
小十郎は、政宗の方に一歩二歩、膝をついたまま、にじり寄り、包帯に手を掛けた。一瞬、政宗はぴくり--と身を震わせたが、意を決したように硬く口を結び、小十郎の手が包帯を外し終わるのを待った。
「お外ししましたが---」
小十郎は、再び膝で、にじり下がり、政宗の顔を見た。
普段、隠されている右目が徐に開かれた。左目よりやや突き出た感じで見開かれたその瞳は白濁し、病によって視力を奪われた事実を示していた---が、その中央には、金色の筋が一筋、縦に爛とした光を放っていた。
普段は敢えて見ないようにしていたが、今確かめると、幼少期よりも、はっきりと、その存在を主張していた。
「これは、なんだ---?」
殊更に平静を装おう小十郎に、政宗はかつて無いようなきつい口調で問うた。
「何---と仰せられますと?」
まずは、とぼけた。とぼけるより他に思い付かなかった---と言っていい。
「とぼけるな!そなたは、知っていたであろう。」
政宗は、顔を真っ赤にして、激昂して、言った。
そして、ガックリと肩を落とし---呟くように言った。
「今日、母上に会うた---」
小十郎は、はっ---とした。
今日、城に上がったさいに、小十郎は鬼庭綱元に呼ばれて席を外した。
その際に政宗は、母の義姫の元に挨拶に行ったという。館に移ってから一度も訪れて来ない。城に上がっても、挨拶に行った政宗に目もくれない---そんな母親でも会わずにいられない政宗の気持ちが切なかった。
たまたま、母の居室には、弟も、侍女も誰もいなかった。
珍しく母は、政宗に、そこに座るように言った。
そして---意を決したように、告げた。
「包帯を---取ってごらんなさい。」
「は---」
政宗は、母までもが、自分の醜さを嘲笑うのか---と情けなさに胸を詰まらせながら、だが、その言葉に従った。
「こちらを見て---」
母親の反応は、意外だった。一瞬にして顔が蒼白になり、青ざめた唇を震わせ、呟いた。
「何てこと---本当に。」
「母上、何のことですか。」
母親の予想外の言葉に、政宗は、一層、両の目を見開いた。
「あなたは---やはり---もぅ、人の子では、私の子では無いのですね。」
義姫は、そう言うと、早く包帯をつけ直すように---と言った。そして、自分ではうまく直せず、手間取っている政宗に焦れて、母自ら包帯を巻き直してくれた---。
「人の子でないなら、母上の子でないなら、私はいったい誰の子どもだと仰せになるのですか---」
思いもよらぬ母の手の温もりに胸を熱くしながら、しかし、信じられぬ母の言葉に、政宗は声を詰まらせた。
「龍の---あなたは龍の子になってしまった。その右目---もぅ決して人に見せてはいけません。」
母は、言外に、ここにも来てはくれるな---と伏せた眼差しで、伝えていた。
「どういうことですか?」
詰め寄ろうとする政宗を人が来るから---と指先で制し、義姫は、政宗を下がらせた。
「詳しきことは、私も知らない。小十郎にお聞きなさい。」
項垂れて立ち去ろうとする政宗の背中越しに、母は小声で告げた---。
「いったいどういうことなのか?」
一通りの経緯を唇を震わせて語った後、政宗は食いつかんばかりに、小十郎ににじり寄って、ぐぃ---とその端正な面を睨み付けた。
小十郎は、腹を決めた。
「お心当たりが、ございましょう---」
政宗が、高熱で倒れたあのとき、青い光が右目に飛び込んできたあのとき---蒼龍の宿りとなったのだ---と小十郎は、はっきりと告げた。
「俄には信じがたいと思いますが---」
それまで感じなかった異界の気配を察し、邪気に怯えるようになったのも、龍の霊力によって扉が開かれた由縁である---と小十郎は伝えた。
「そんな馬鹿な---あれは疱瘡じゃったと、薬師が言うておった。父上も母上も、喜多だって---お主とてそう言うたではないか!」
一層声を荒げ、掴みかかろうとする手を、ぐぃ---と抑えて、小十郎は言った。
「証が---ございます。右の御耳の後ろ、御髪に隠れた首の付け根に---」
言われて、政宗は、はっ---と自分の首に手をやった。硬い---己が肌とは違う何か---が生えているのを、自らの指で確かめると、その場に崩れ落ちた。
「龍の鱗---にございます。宿りの証---紛れも無い事実にございます。」
そう言って、小十郎は、自らの左の耳の後ろを髪を除けて、政宗の眼前に晒した。
「お前---」
政宗が息を呑み、目を見開いて、そこを凝視しているのが、わかった。
「触って---いいか?」
小十郎は、黙って頷いた。
政宗が、恐る恐る、その硬い部分---自分の鱗に触れ、なぞる。その指先が微かに震えていた。
「我れにも、このようなものが生えているのか---。」
小十郎は、肯定の証に頷き、続けた。
「某の内にあるは黒龍にて、黒い色をしておりますが、政宗さまに宿りなさったは蒼龍でございますゆえ、青き色をしております。」
そして、その位の高さを示すように、虹色に輝いている---。
「だが、そなたは、目を失っておらぬ。無事なままではないか。」
「某の時には、口から飛び込んで参りましたゆえ---」
腹を引き裂かれるように苦しかったこと、やはり高熱を出し、生死の境をさ迷ったこと---を語ると政宗は、目を丸くした。
「幸いにも、某は神域に住まっておりましたゆえ---」
兄の必死の祈祷により、黒龍を腹の中に封じ、一命を取り止めた---と小十郎は、自らの腹に手を当てて言った。
政宗は、小十郎の腹を見、そして、まじまじと小十郎の顔を見た。
「嘘では無いらしいの---」
「政宗さま?」
「そなたの後ろに---いや、そなたに重なって、黒々としたデカイものが、見ゆるわ。おとなしゅうトグロを巻いてはいるが---そなたのように、キツい目でこちらをじっと見ておる。」
なおも目を凝らして、政宗は言った。
「お見えになるのですか---政宗さまは。」
「うむ。お前には見えぬのか。」
「平素には---」
よほど潔斎して、気を集中せねば、祝(はふり)とて、異界の者の姿は見えない。それだって、朧気な光の塊、影---そうした姿でしか捉えられない。
―龍の眼---―
政宗の右目は、まさに伝え聞く『それ』だった。
龍の眼は、縦に開く。それはあらゆる次元を見、あらゆる時を見るという---。
小十郎が、茫然と息を呑んでいると、政宗が、ぐっと胸元に包帯を押し付けた。
「巻いてくれ。」
「は---」
小十郎はその突き付けられた拳の感触に我れに返った。政宗の手から包帯を受け取り、恭しく丁寧に巻いていく。
「で---」
政宗は、小十郎の手が、先ほどまで剥き出しだった右目に慎重に布をあて、覆っていくのを、じっと待ちながら言った。
「我れは、どうすればいい?」
「分かりませぬ。」
小十郎は率直に応えた。
「分からぬ---だと?」
政宗が形の良い眉を寄せ、苛立たし気に口許を歪めた。
「御身に宿りいたしました龍は、その語るによれば、東海龍王の御子にて---某に降りたような下郎の者とは身分も格も霊力(ちから)も違ごうてございますゆえ---」
「封ずることは出来ぬ---か。」
「少なくとも、かような力は某にはございませぬ。」
包帯を巻き終えた小十郎は、改めて膝を正しい、政宗に向き合った。
「ただ---敢えて言いますれば---」
ゴクリ---と唾を呑む音がふたりの喉元から漏れた。
「その龍に克つことが出来るのは、その宿り主たるあなた様のみ---にございます。」
「龍に---克つ、だと?」
「はい---」
小十郎は、政宗の、残された左目をじっと見詰めて言った。
「その龍は、政宗さまが、天下を望むなら、それを助ける---と申しておりました。---なれば、龍の力に相応しい人物となって、その力を使いこなせるようにならねばなりません。」
「天下---か。」
政宗の眼が、キラリと光った。
「なれば、龍の力を我が物として、我れは天下を取る。」
政宗は---まだ幼さを残す頬を上気させて、少年はキッパリと言い放った。
「それが良うございます。」
小十郎はにこやかに微笑んで応えた。
想像外の衝撃から新たな希望を掴み取った少年は、上機嫌で「寝る」とひとこと言い置いて、自分の居室に戻っていった。
小十郎は、ふぅ---と大きく息をつき、開けたままの障子を閉めに立ち上がった。
―龍の試練はキツい---。―
これから、どのような事態が、少年の身に降りかかるか想像すらできない。
―なれど---―
身命を賭して、守る。守ってみせる---小十郎は頭を上げ、頭上を照らす月を見詰めた。
やがて弓張月となろうそれは、煌々と光り、夜の闇を押し開こうとしていた。
はっ---として、廊下に目をやると、障子に見覚えのある影が映っていた。
「小十郎、入ってよいか。」
政宗が、答える間もなく、すら---と障子を開け、小十郎の方に近寄ってきた。
「政宗さま、このような夜更けに如何なされました---?また、怖い夢でも見られましたか?」
小十郎は、政宗の方に向き直り、まずは一礼し、政宗の顔を見た。
「違う!--いつまでも子ども扱いするでないわ。馬鹿者!」
政宗は、一瞬、ぷっと頬を膨らませ、だが、大層らしく、小十郎の前に胡座をかいて座った。
「話がある。」
「はて、如何なことで御座いましょうか。」
小十郎は、姿勢を正し、改めて政宗を見た。
「まずは、これを取ってくれ。」
政宗は、右目を覆っていた包帯を指差した。小十郎は、一瞬怯んだ。それは、政宗自身が常に包帯を付けていることを望み、湯に入る時に替えるから外すように---と言いでもしない限り、外すことを拒み、寝む時以外は、決して外すことがなかったからである。
「承知いたしました。」
小十郎は、政宗の方に一歩二歩、膝をついたまま、にじり寄り、包帯に手を掛けた。一瞬、政宗はぴくり--と身を震わせたが、意を決したように硬く口を結び、小十郎の手が包帯を外し終わるのを待った。
「お外ししましたが---」
小十郎は、再び膝で、にじり下がり、政宗の顔を見た。
普段、隠されている右目が徐に開かれた。左目よりやや突き出た感じで見開かれたその瞳は白濁し、病によって視力を奪われた事実を示していた---が、その中央には、金色の筋が一筋、縦に爛とした光を放っていた。
普段は敢えて見ないようにしていたが、今確かめると、幼少期よりも、はっきりと、その存在を主張していた。
「これは、なんだ---?」
殊更に平静を装おう小十郎に、政宗はかつて無いようなきつい口調で問うた。
「何---と仰せられますと?」
まずは、とぼけた。とぼけるより他に思い付かなかった---と言っていい。
「とぼけるな!そなたは、知っていたであろう。」
政宗は、顔を真っ赤にして、激昂して、言った。
そして、ガックリと肩を落とし---呟くように言った。
「今日、母上に会うた---」
小十郎は、はっ---とした。
今日、城に上がったさいに、小十郎は鬼庭綱元に呼ばれて席を外した。
その際に政宗は、母の義姫の元に挨拶に行ったという。館に移ってから一度も訪れて来ない。城に上がっても、挨拶に行った政宗に目もくれない---そんな母親でも会わずにいられない政宗の気持ちが切なかった。
たまたま、母の居室には、弟も、侍女も誰もいなかった。
珍しく母は、政宗に、そこに座るように言った。
そして---意を決したように、告げた。
「包帯を---取ってごらんなさい。」
「は---」
政宗は、母までもが、自分の醜さを嘲笑うのか---と情けなさに胸を詰まらせながら、だが、その言葉に従った。
「こちらを見て---」
母親の反応は、意外だった。一瞬にして顔が蒼白になり、青ざめた唇を震わせ、呟いた。
「何てこと---本当に。」
「母上、何のことですか。」
母親の予想外の言葉に、政宗は、一層、両の目を見開いた。
「あなたは---やはり---もぅ、人の子では、私の子では無いのですね。」
義姫は、そう言うと、早く包帯をつけ直すように---と言った。そして、自分ではうまく直せず、手間取っている政宗に焦れて、母自ら包帯を巻き直してくれた---。
「人の子でないなら、母上の子でないなら、私はいったい誰の子どもだと仰せになるのですか---」
思いもよらぬ母の手の温もりに胸を熱くしながら、しかし、信じられぬ母の言葉に、政宗は声を詰まらせた。
「龍の---あなたは龍の子になってしまった。その右目---もぅ決して人に見せてはいけません。」
母は、言外に、ここにも来てはくれるな---と伏せた眼差しで、伝えていた。
「どういうことですか?」
詰め寄ろうとする政宗を人が来るから---と指先で制し、義姫は、政宗を下がらせた。
「詳しきことは、私も知らない。小十郎にお聞きなさい。」
項垂れて立ち去ろうとする政宗の背中越しに、母は小声で告げた---。
「いったいどういうことなのか?」
一通りの経緯を唇を震わせて語った後、政宗は食いつかんばかりに、小十郎ににじり寄って、ぐぃ---とその端正な面を睨み付けた。
小十郎は、腹を決めた。
「お心当たりが、ございましょう---」
政宗が、高熱で倒れたあのとき、青い光が右目に飛び込んできたあのとき---蒼龍の宿りとなったのだ---と小十郎は、はっきりと告げた。
「俄には信じがたいと思いますが---」
それまで感じなかった異界の気配を察し、邪気に怯えるようになったのも、龍の霊力によって扉が開かれた由縁である---と小十郎は伝えた。
「そんな馬鹿な---あれは疱瘡じゃったと、薬師が言うておった。父上も母上も、喜多だって---お主とてそう言うたではないか!」
一層声を荒げ、掴みかかろうとする手を、ぐぃ---と抑えて、小十郎は言った。
「証が---ございます。右の御耳の後ろ、御髪に隠れた首の付け根に---」
言われて、政宗は、はっ---と自分の首に手をやった。硬い---己が肌とは違う何か---が生えているのを、自らの指で確かめると、その場に崩れ落ちた。
「龍の鱗---にございます。宿りの証---紛れも無い事実にございます。」
そう言って、小十郎は、自らの左の耳の後ろを髪を除けて、政宗の眼前に晒した。
「お前---」
政宗が息を呑み、目を見開いて、そこを凝視しているのが、わかった。
「触って---いいか?」
小十郎は、黙って頷いた。
政宗が、恐る恐る、その硬い部分---自分の鱗に触れ、なぞる。その指先が微かに震えていた。
「我れにも、このようなものが生えているのか---。」
小十郎は、肯定の証に頷き、続けた。
「某の内にあるは黒龍にて、黒い色をしておりますが、政宗さまに宿りなさったは蒼龍でございますゆえ、青き色をしております。」
そして、その位の高さを示すように、虹色に輝いている---。
「だが、そなたは、目を失っておらぬ。無事なままではないか。」
「某の時には、口から飛び込んで参りましたゆえ---」
腹を引き裂かれるように苦しかったこと、やはり高熱を出し、生死の境をさ迷ったこと---を語ると政宗は、目を丸くした。
「幸いにも、某は神域に住まっておりましたゆえ---」
兄の必死の祈祷により、黒龍を腹の中に封じ、一命を取り止めた---と小十郎は、自らの腹に手を当てて言った。
政宗は、小十郎の腹を見、そして、まじまじと小十郎の顔を見た。
「嘘では無いらしいの---」
「政宗さま?」
「そなたの後ろに---いや、そなたに重なって、黒々としたデカイものが、見ゆるわ。おとなしゅうトグロを巻いてはいるが---そなたのように、キツい目でこちらをじっと見ておる。」
なおも目を凝らして、政宗は言った。
「お見えになるのですか---政宗さまは。」
「うむ。お前には見えぬのか。」
「平素には---」
よほど潔斎して、気を集中せねば、祝(はふり)とて、異界の者の姿は見えない。それだって、朧気な光の塊、影---そうした姿でしか捉えられない。
―龍の眼---―
政宗の右目は、まさに伝え聞く『それ』だった。
龍の眼は、縦に開く。それはあらゆる次元を見、あらゆる時を見るという---。
小十郎が、茫然と息を呑んでいると、政宗が、ぐっと胸元に包帯を押し付けた。
「巻いてくれ。」
「は---」
小十郎はその突き付けられた拳の感触に我れに返った。政宗の手から包帯を受け取り、恭しく丁寧に巻いていく。
「で---」
政宗は、小十郎の手が、先ほどまで剥き出しだった右目に慎重に布をあて、覆っていくのを、じっと待ちながら言った。
「我れは、どうすればいい?」
「分かりませぬ。」
小十郎は率直に応えた。
「分からぬ---だと?」
政宗が形の良い眉を寄せ、苛立たし気に口許を歪めた。
「御身に宿りいたしました龍は、その語るによれば、東海龍王の御子にて---某に降りたような下郎の者とは身分も格も霊力(ちから)も違ごうてございますゆえ---」
「封ずることは出来ぬ---か。」
「少なくとも、かような力は某にはございませぬ。」
包帯を巻き終えた小十郎は、改めて膝を正しい、政宗に向き合った。
「ただ---敢えて言いますれば---」
ゴクリ---と唾を呑む音がふたりの喉元から漏れた。
「その龍に克つことが出来るのは、その宿り主たるあなた様のみ---にございます。」
「龍に---克つ、だと?」
「はい---」
小十郎は、政宗の、残された左目をじっと見詰めて言った。
「その龍は、政宗さまが、天下を望むなら、それを助ける---と申しておりました。---なれば、龍の力に相応しい人物となって、その力を使いこなせるようにならねばなりません。」
「天下---か。」
政宗の眼が、キラリと光った。
「なれば、龍の力を我が物として、我れは天下を取る。」
政宗は---まだ幼さを残す頬を上気させて、少年はキッパリと言い放った。
「それが良うございます。」
小十郎はにこやかに微笑んで応えた。
想像外の衝撃から新たな希望を掴み取った少年は、上機嫌で「寝る」とひとこと言い置いて、自分の居室に戻っていった。
小十郎は、ふぅ---と大きく息をつき、開けたままの障子を閉めに立ち上がった。
―龍の試練はキツい---。―
これから、どのような事態が、少年の身に降りかかるか想像すらできない。
―なれど---―
身命を賭して、守る。守ってみせる---小十郎は頭を上げ、頭上を照らす月を見詰めた。
やがて弓張月となろうそれは、煌々と光り、夜の闇を押し開こうとしていた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
思い出乞ひわずらい
水城真以
歴史・時代
――これは、天下人の名を継ぐはずだった者の物語――
ある日、信長の嫡男、奇妙丸と知り合った勝蔵。奇妙丸の努力家な一面に惹かれる。
一方奇妙丸も、媚びへつらわない勝蔵に特別な感情を覚える。
同じく奇妙丸のもとを出入りする勝九朗や於泉と交流し、友情をはぐくんでいくが、ある日を境にその絆が破綻してしまって――。
織田信長の嫡男・信忠と仲間たちの幼少期のお話です。以前公開していた作品が長くなってしまったので、章ごとに区切って加筆修正しながら更新していきたいと思います。
真田源三郎の休日
神光寺かをり
歴史・時代
信濃の小さな国衆(豪族)に過ぎない真田家は、甲斐の一大勢力・武田家の庇護のもと、どうにかこうにか生きていた。
……のだが、頼りの武田家が滅亡した!
家名存続のため、真田家当主・昌幸が選んだのは、なんと武田家を滅ぼした織田信長への従属!
ところがところが、速攻で本能寺の変が発生、織田信長は死亡してしまう。
こちらの選択によっては、真田家は――そして信州・甲州・上州の諸家は――あっという間に滅亡しかねない。
そして信之自身、最近出来たばかりの親友と槍を合わせることになる可能性が出てきた。
16歳の少年はこの連続ピンチを無事に乗り越えられるのか?
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
戦国九州三国志
谷鋭二
歴史・時代
戦国時代九州は、三つの勢力が覇権をかけて激しい争いを繰り返しました。南端の地薩摩(鹿児島)から興った鎌倉以来の名門島津氏、肥前(現在の長崎、佐賀)を基盤にした新興の龍造寺氏、そして島津同様鎌倉以来の名門で豊後(大分県)を中心とする大友家です。この物語ではこの三者の争いを主に大友家を中心に描いていきたいと思います。
くじら斗りゅう
陸 理明
歴史・時代
捕鯨によって空前の繁栄を謳歌する太地村を領内に有する紀伊新宮藩は、藩の財政を活性化させようと新しく藩直営の鯨方を立ち上げた。はぐれ者、あぶれ者、行き場のない若者をかき集めて作られた鵜殿の村には、もと武士でありながら捕鯨への情熱に満ちた権藤伊左馬という巨漢もいた。このままいけば新たな捕鯨の中心地となったであろう鵜殿であったが、ある嵐の日に突然現れた〈竜〉の如き巨大な生き物を獲ってしまったことから滅びへの運命を歩み始める…… これは、愛憎と欲望に翻弄される若き鯨猟夫たちの青春譚である。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる