The change, is unlike

葛城 惶

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第三章 変容〜美しきAssassin〜

第33話 転身~射撃訓練~

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 邑妹(ユイメイ)とのトレーニングは計画通りの半年に近づきつつある頃には、三度に二度は互角以上の結果を出せるようになってきた。
 元々、香港はファミリー同士の抗争も頻繁に起こっていたし、都合上銃火器を使うわけにいかない部分も多かった。
 邑妹(ユイメイ)の言うところの『腕力に頼らない』身体の使い方に慣れれば、狙いを定めて仕留めることは、そう難しくはない。
.
『小狼(シャオラァ)は殺しの経験があるの?』

 と訊く邑妹(ユイメイ)に、俺はしぶしぶ答えた。

『以前はマフィアの幹部だった。武闘派だったんだが.....』

すると邑妹(ユイメイ)は、ふぅ...と溜め息をついて、唇を少し歪めた。

『それは......気の毒なことをしたわね』

『あいつが.....ミハイルが、あっさり殺ってくれていたら、今頃、こんな苦労はしてないんだがな......』

と返すと、邑妹(ユイメイ)は派手に首を振った。

『それは無理だわ。彼は狙った獲物は逃がさない』

『そうらしいな.....』

 とにかく、あのガキの仇を討つまでは、考えることを止めようと決めてはいた。だが、どこまでも腑に落ちないことがひとつだけあった。

『なぁ師匠、なんで俺なんだ?......いまだにそれが解らない』

 邑妹(ユイメイ)はしばらく考えていたが、ふと俺の顔をまじまじと見て言った。

『たぶん.....あなたが真っ直ぐだからじゃない?あなたはとてもマフィアには見えないもの』

『そりゃあ、このナリだからだろう?』

 元のこいつは堅気の坊やだ。そりゃあヤクザには見えないだろう。だが、彼女は、チッチッと指を振って言った。

『違うわ。あなたの眼よ』

『眼?』

『あなたは、とても一途で真っ直ぐな眼をしている。....少なくとも私の知るマフィアはもっと昏い眼をしてる.....何故なのかしら。』

 あぁ.....と俺はオヤジの顔を思い出した。オヤジはチャイニーズ・マフィアの癖に、ひどく日本人ぽかった。

『俺は18まで日本で育ったから.....。日本のヤクザ...昔堅気のマフィアは、『仁義』を大事にしたから.....』

 そうだ。香港の連中が失ったもの、利権に目が眩んでかなぐり捨てたもの。そうさせたのは、ミハイル達、余所のシンジケートの奴らだ。

『ジンギ?』

『筋を通す.....てことさ。それより、俺はいつになったら銃を持たせて貰えるんだ?接近戦でも、銃撃戦にならないとは限らないんだぜ?!』

『分かったわ。訊いておく』

 邑妹(ユイメイ)は頷いた。




 ミハイルが俺のトレーニングルームに足を運んできたのは、数日後のことだった。

「だいぶ上達したようだな」

 ミハイルは袍(パオ)の襟を寛げて休憩する俺を満足気に見下ろした。より実戦的にーという邑妹(ユイメイ)の提案もあり、一月程前から、裾の長い袍を着てのトレーニングに変わっていた。今では、長い裾やゆったりとした袖の捌きにもかなり慣れた。

「なかなか煽情的な眺めだな.....」

 寛げた襟の間から、昨夜ヤツが着けた紅い痣がちらほらと覗いていることに気付き、俺は急いで襟を閉めた。

「そろそろ射撃のトレーニングも始めるとしよう」

 ヤツについて、地下のもうひとつの部屋、射撃訓練用のスペースに入ると、ニコライが待ち構えていた。

「撃ってみろ.....」

 ミハイルの言葉に、ニコライがコルト-ブローニングのM1911を差し出す。

「カラシニコフじゃないのか?」

と俺が訊くとミハイルが鼻先で笑った。

「それはトレーニング用のモデルガンだ。中は模擬弾だが、重さと衝撃は実物と同じだ」

 手に取ると、ズシリと重さが伝わる。以前にはマグナムを愛用していたが、重いと感じたことはなかった。
 俺は黒い練習用の標的に向かい銃を構えた。両足をしっかり踏ん張り、脇を締めて銃爪を引く.....。

「ちっ......」

 中心を狙ったはずが、衝撃でかなり外側に弾かれた。マグナムの衝撃を受け止めるには、やはりこの身体は脆弱だ。

「俺はコルトは苦手なんだ。俺の相棒なら.....デザートイーグルなら中心を撃ち抜ける」

 俺がボヤくとヤツはくくっ.....と鼻で笑って言った。

「負け惜しみを言うな。身体が違うんだ。別に私はお前にマグナムを撃てるようになれとは言わない。....お前は狙撃手(スナイパー)になる必要はない」

 ヤツは俺の前に二丁の拳銃を置いた。PSS -2とS&Wのリボルバーだ。 

「お前がマスターするのはこれだ」

「小型のハンドガンか......随分舐められたな」

 実際、俺は不満だった。せめてワルサーかベレッタあたりならまだしも、典型的なミニガンだ。

「舐めているわけではない。.....袍の中に装備して不自然でない機種を選んだだけだ。だが、小型なぶん殺傷能力が低く、フォーカスがブレ易い。お前の課題はそれを克服することだ。」

 それでも不服そうな俺にヤツは言った。

「お前が鷲(イーグル)であった時代は終わった。今のお前は私の飼い犬だ。野良犬(ストレイドッグ)ではない。間違えるな」

 俺は密かに舌打ちした。悔しいが、レイラや息子、そしてあのガキの命を握られている俺には、ヤツに抗う手立ては無かった。
 
 ふと、俺は思い出した。

「なぁミハイル、なんであの時、俺の眉間を狙わなかった.....お前のご自慢のAT3000なら確実に俺の眉間を撃ち抜いて止めを刺せた筈だ」

 ヤツの愛用の銃はスイス製のスフィンクスAT3000.....精度も名前も如何にもヤツ好みな代物だ。ヤツは、唇の端を少し歪めて、苦が笑いして言った。

「私はお前を殺すことは本意では無かった。お前の生命を奪わずに『九龍の鷲』を抹殺できたことは最高にラッキーだった」

 同時にそれは、俺にとって最悪な不運だったのだが、ヤツにはそんなことはなんの興味も無いだろう。
 とにかく俺は、早く厄介なネタを......あの小僧の方を片付けたかった。


 
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