The change, is unlike

葛城 惶

文字の大きさ
上 下
33 / 35
第三章 変容〜美しきAssassin〜

第33話 転身~射撃訓練~

しおりを挟む
 邑妹(ユイメイ)とのトレーニングは計画通りの半年に近づきつつある頃には、三度に二度は互角以上の結果を出せるようになってきた。
 元々、香港はファミリー同士の抗争も頻繁に起こっていたし、都合上銃火器を使うわけにいかない部分も多かった。
 邑妹(ユイメイ)の言うところの『腕力に頼らない』身体の使い方に慣れれば、狙いを定めて仕留めることは、そう難しくはない。
.
『小狼(シャオラァ)は殺しの経験があるの?』

 と訊く邑妹(ユイメイ)に、俺はしぶしぶ答えた。

『以前はマフィアの幹部だった。武闘派だったんだが.....』

すると邑妹(ユイメイ)は、ふぅ...と溜め息をついて、唇を少し歪めた。

『それは......気の毒なことをしたわね』

『あいつが.....ミハイルが、あっさり殺ってくれていたら、今頃、こんな苦労はしてないんだがな......』

と返すと、邑妹(ユイメイ)は派手に首を振った。

『それは無理だわ。彼は狙った獲物は逃がさない』

『そうらしいな.....』

 とにかく、あのガキの仇を討つまでは、考えることを止めようと決めてはいた。だが、どこまでも腑に落ちないことがひとつだけあった。

『なぁ師匠、なんで俺なんだ?......いまだにそれが解らない』

 邑妹(ユイメイ)はしばらく考えていたが、ふと俺の顔をまじまじと見て言った。

『たぶん.....あなたが真っ直ぐだからじゃない?あなたはとてもマフィアには見えないもの』

『そりゃあ、このナリだからだろう?』

 元のこいつは堅気の坊やだ。そりゃあヤクザには見えないだろう。だが、彼女は、チッチッと指を振って言った。

『違うわ。あなたの眼よ』

『眼?』

『あなたは、とても一途で真っ直ぐな眼をしている。....少なくとも私の知るマフィアはもっと昏い眼をしてる.....何故なのかしら。』

 あぁ.....と俺はオヤジの顔を思い出した。オヤジはチャイニーズ・マフィアの癖に、ひどく日本人ぽかった。

『俺は18まで日本で育ったから.....。日本のヤクザ...昔堅気のマフィアは、『仁義』を大事にしたから.....』

 そうだ。香港の連中が失ったもの、利権に目が眩んでかなぐり捨てたもの。そうさせたのは、ミハイル達、余所のシンジケートの奴らだ。

『ジンギ?』

『筋を通す.....てことさ。それより、俺はいつになったら銃を持たせて貰えるんだ?接近戦でも、銃撃戦にならないとは限らないんだぜ?!』

『分かったわ。訊いておく』

 邑妹(ユイメイ)は頷いた。




 ミハイルが俺のトレーニングルームに足を運んできたのは、数日後のことだった。

「だいぶ上達したようだな」

 ミハイルは袍(パオ)の襟を寛げて休憩する俺を満足気に見下ろした。より実戦的にーという邑妹(ユイメイ)の提案もあり、一月程前から、裾の長い袍を着てのトレーニングに変わっていた。今では、長い裾やゆったりとした袖の捌きにもかなり慣れた。

「なかなか煽情的な眺めだな.....」

 寛げた襟の間から、昨夜ヤツが着けた紅い痣がちらほらと覗いていることに気付き、俺は急いで襟を閉めた。

「そろそろ射撃のトレーニングも始めるとしよう」

 ヤツについて、地下のもうひとつの部屋、射撃訓練用のスペースに入ると、ニコライが待ち構えていた。

「撃ってみろ.....」

 ミハイルの言葉に、ニコライがコルト-ブローニングのM1911を差し出す。

「カラシニコフじゃないのか?」

と俺が訊くとミハイルが鼻先で笑った。

「それはトレーニング用のモデルガンだ。中は模擬弾だが、重さと衝撃は実物と同じだ」

 手に取ると、ズシリと重さが伝わる。以前にはマグナムを愛用していたが、重いと感じたことはなかった。
 俺は黒い練習用の標的に向かい銃を構えた。両足をしっかり踏ん張り、脇を締めて銃爪を引く.....。

「ちっ......」

 中心を狙ったはずが、衝撃でかなり外側に弾かれた。マグナムの衝撃を受け止めるには、やはりこの身体は脆弱だ。

「俺はコルトは苦手なんだ。俺の相棒なら.....デザートイーグルなら中心を撃ち抜ける」

 俺がボヤくとヤツはくくっ.....と鼻で笑って言った。

「負け惜しみを言うな。身体が違うんだ。別に私はお前にマグナムを撃てるようになれとは言わない。....お前は狙撃手(スナイパー)になる必要はない」

 ヤツは俺の前に二丁の拳銃を置いた。PSS -2とS&Wのリボルバーだ。 

「お前がマスターするのはこれだ」

「小型のハンドガンか......随分舐められたな」

 実際、俺は不満だった。せめてワルサーかベレッタあたりならまだしも、典型的なミニガンだ。

「舐めているわけではない。.....袍の中に装備して不自然でない機種を選んだだけだ。だが、小型なぶん殺傷能力が低く、フォーカスがブレ易い。お前の課題はそれを克服することだ。」

 それでも不服そうな俺にヤツは言った。

「お前が鷲(イーグル)であった時代は終わった。今のお前は私の飼い犬だ。野良犬(ストレイドッグ)ではない。間違えるな」

 俺は密かに舌打ちした。悔しいが、レイラや息子、そしてあのガキの命を握られている俺には、ヤツに抗う手立ては無かった。
 
 ふと、俺は思い出した。

「なぁミハイル、なんであの時、俺の眉間を狙わなかった.....お前のご自慢のAT3000なら確実に俺の眉間を撃ち抜いて止めを刺せた筈だ」

 ヤツの愛用の銃はスイス製のスフィンクスAT3000.....精度も名前も如何にもヤツ好みな代物だ。ヤツは、唇の端を少し歪めて、苦が笑いして言った。

「私はお前を殺すことは本意では無かった。お前の生命を奪わずに『九龍の鷲』を抹殺できたことは最高にラッキーだった」

 同時にそれは、俺にとって最悪な不運だったのだが、ヤツにはそんなことはなんの興味も無いだろう。
 とにかく俺は、早く厄介なネタを......あの小僧の方を片付けたかった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

変態お父さんに騙されて育ったけれど幸せです❤︎

Sara
BL
純粋でちょっぴりおバカな可愛い男の子が、実父から間違った性教育を受けて、えっちなお嫁さんにさせられてしまう話。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

おとなのための保育所

あーる
BL
逆トイレトレーニングをしながらそこの先生になるために学ぶところ。 見た目はおとな 排泄は赤ちゃん(お漏らししたら泣いちゃう)

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

処理中です...