27 / 36
第二章 さらば愛しき日々
第27話 絶望の中で~『俺』との再会~
しおりを挟む
「お前に会わせてやる」
ミハイルが言い出したのは、それから10日ほど経った頃だった。
「ここでか?」
と言うとヤツは苦笑しながら言った。
「ここじゃない。街のカフェに席をリザーブしてある。たまには外に出たいだろう」
「出たい。早くこれを取ってくれ」
「仕方のないパピィだ」
「止してくれ。俺はガキじゃねぇ」
ヤツに俺の正体が知られていることがわかって、とことん絶望し、打ちひしがれもした。その反面、少しだけ楽になった。もうこの身体の元の持ち主のガキの振りをしなくて良くなった。俺は俺の言葉でヤツに喰ってかかり、捩じ伏せられる。それはそれで厳しいものはあるが、妙な気を使わなくて済む。他人の振りというのは、想像以上に消耗するものだ.....と初めて知った。
「外してやれ」
ニコライが足枷を外している間もヤツの目はじっと俺を見ていた。
かろうじて羽織っていたシルクのガウンを脱ぎ捨て、俺はヤツを見返した。
「着替えは?」
俺は男だ。ある一部は別として、男が人前で肌を晒したところで何も恥じるようなことじゃない。たとえ不自然な鬱血痕が首筋やら胸元やら果てはあらぬところに、派手に身体中に華を咲かせていたとしても、女のように隠しだてする理由はない。
けれど....ヤツの視線に晒されて身体が熱を帯びてくることだけが恥ずかしかった。ヤツのブルーグレーの目に身体を肌をまさぐられて、俺は胸内が波立ち、肌がざわざわと粟立つのを感じた。
「ニコライ」
ミハイルよりなお冷たい面が頷き、俺の傍らに着衣を一式置いた。白のハイネックのインナーにジーンズ、ワインカラーのジャケット......まぁ無難なところだ。だが.....
「下着は?!」
またかよ.....と俺は思った。ヤツの趣味の悪さはその一点に尽きた。が、ヤツの差し出したそれは、悪趣味などという可愛らしいものではなかった。革と金属で出来たそれを見せびらかすように目の前に突きつけて、ヤツは悪魔の微笑みで言った。
「ここにある」
「な、なんだそれは....!」
「貞操帯だ。知ってるだろう?」
「知るか!......馬鹿!止めろ!」
喚き散らす俺をニコライが難なく羽交い締めて、ヤツは俺の股間に不気味なそれを嵌め込み、カチリ.....と鍵をかけた。
「なんてことしやがる!.....外せ!」
「帰ってきたら、外してやる」
脱走防止だ......とヤツは口許を歪めて笑った。硬いジーンズの生地がなおさら圧迫感を強める。俺は自分の不甲斐なさに目眩がした。
が、ミハイルとともに指定のカフェで『俺』と対面した時、俺はもっと激しい目眩を覚えた。
道中の車の中でミハイルは、俺の身体をなぶりながら、そいつについて明かした。
魂を入れ替えた後、容態が安定するのを待って、同じように自家用ジェットで日本を出国し、このアジアの『別荘』で療養させていた.....という。
「香港マフィアのお前の身体を正規ルートで持ち出すことは不可能だからな」
そいつは、やはり当初は混乱したが、比較的早く状況を受け入れた...という。
現在はミハイルの部下に匿われて、とりあえずこの国に滞在している.....らしい。
「私には日本人の部下もいるのでね」
車の中でヤツはしれっと言い放った。
「それは知っている」
俺を追い詰めたのもそいつらだ。
「最後に大将が自分で出張ってくるとは思わなかったがな」
俺の精一杯の皮肉にヤツはニヤリと笑った。
「神の啓示だよ、ラウル。神は私にお前を下されたんだ。導いてやれ....とね」
「ふざけるな!」
俺は拳を震わせた。だが、まず『俺の身体』に会わねばならない。俺は窓の素とに眼を移し、怒りをじっと堪えた。
ミハイルが言い出したのは、それから10日ほど経った頃だった。
「ここでか?」
と言うとヤツは苦笑しながら言った。
「ここじゃない。街のカフェに席をリザーブしてある。たまには外に出たいだろう」
「出たい。早くこれを取ってくれ」
「仕方のないパピィだ」
「止してくれ。俺はガキじゃねぇ」
ヤツに俺の正体が知られていることがわかって、とことん絶望し、打ちひしがれもした。その反面、少しだけ楽になった。もうこの身体の元の持ち主のガキの振りをしなくて良くなった。俺は俺の言葉でヤツに喰ってかかり、捩じ伏せられる。それはそれで厳しいものはあるが、妙な気を使わなくて済む。他人の振りというのは、想像以上に消耗するものだ.....と初めて知った。
「外してやれ」
ニコライが足枷を外している間もヤツの目はじっと俺を見ていた。
かろうじて羽織っていたシルクのガウンを脱ぎ捨て、俺はヤツを見返した。
「着替えは?」
俺は男だ。ある一部は別として、男が人前で肌を晒したところで何も恥じるようなことじゃない。たとえ不自然な鬱血痕が首筋やら胸元やら果てはあらぬところに、派手に身体中に華を咲かせていたとしても、女のように隠しだてする理由はない。
けれど....ヤツの視線に晒されて身体が熱を帯びてくることだけが恥ずかしかった。ヤツのブルーグレーの目に身体を肌をまさぐられて、俺は胸内が波立ち、肌がざわざわと粟立つのを感じた。
「ニコライ」
ミハイルよりなお冷たい面が頷き、俺の傍らに着衣を一式置いた。白のハイネックのインナーにジーンズ、ワインカラーのジャケット......まぁ無難なところだ。だが.....
「下着は?!」
またかよ.....と俺は思った。ヤツの趣味の悪さはその一点に尽きた。が、ヤツの差し出したそれは、悪趣味などという可愛らしいものではなかった。革と金属で出来たそれを見せびらかすように目の前に突きつけて、ヤツは悪魔の微笑みで言った。
「ここにある」
「な、なんだそれは....!」
「貞操帯だ。知ってるだろう?」
「知るか!......馬鹿!止めろ!」
喚き散らす俺をニコライが難なく羽交い締めて、ヤツは俺の股間に不気味なそれを嵌め込み、カチリ.....と鍵をかけた。
「なんてことしやがる!.....外せ!」
「帰ってきたら、外してやる」
脱走防止だ......とヤツは口許を歪めて笑った。硬いジーンズの生地がなおさら圧迫感を強める。俺は自分の不甲斐なさに目眩がした。
が、ミハイルとともに指定のカフェで『俺』と対面した時、俺はもっと激しい目眩を覚えた。
道中の車の中でミハイルは、俺の身体をなぶりながら、そいつについて明かした。
魂を入れ替えた後、容態が安定するのを待って、同じように自家用ジェットで日本を出国し、このアジアの『別荘』で療養させていた.....という。
「香港マフィアのお前の身体を正規ルートで持ち出すことは不可能だからな」
そいつは、やはり当初は混乱したが、比較的早く状況を受け入れた...という。
現在はミハイルの部下に匿われて、とりあえずこの国に滞在している.....らしい。
「私には日本人の部下もいるのでね」
車の中でヤツはしれっと言い放った。
「それは知っている」
俺を追い詰めたのもそいつらだ。
「最後に大将が自分で出張ってくるとは思わなかったがな」
俺の精一杯の皮肉にヤツはニヤリと笑った。
「神の啓示だよ、ラウル。神は私にお前を下されたんだ。導いてやれ....とね」
「ふざけるな!」
俺は拳を震わせた。だが、まず『俺の身体』に会わねばならない。俺は窓の素とに眼を移し、怒りをじっと堪えた。
11
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる