The change, is unlike

葛城 惶

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第二章 さらば愛しき日々

第27話 絶望の中で~『俺』との再会~

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「お前に会わせてやる」

 ミハイルが言い出したのは、それから10日ほど経った頃だった。

「ここでか?」

と言うとヤツは苦笑しながら言った。

「ここじゃない。街のカフェに席をリザーブしてある。たまには外に出たいだろう」
 
「出たい。早くこれを取ってくれ」

「仕方のないパピィだ」

「止してくれ。俺はガキじゃねぇ」

 ヤツに俺の正体が知られていることがわかって、とことん絶望し、打ちひしがれもした。その反面、少しだけ楽になった。もうこの身体の元の持ち主のガキの振りをしなくて良くなった。俺は俺の言葉でヤツに喰ってかかり、捩じ伏せられる。それはそれで厳しいものはあるが、妙な気を使わなくて済む。他人の振りというのは、想像以上に消耗するものだ.....と初めて知った。

「外してやれ」
 
 ニコライが足枷を外している間もヤツの目はじっと俺を見ていた。
 かろうじて羽織っていたシルクのガウンを脱ぎ捨て、俺はヤツを見返した。

「着替えは?」

 俺は男だ。ある一部は別として、男が人前で肌を晒したところで何も恥じるようなことじゃない。たとえ不自然な鬱血痕が首筋やら胸元やら果てはあらぬところに、派手に身体中に華を咲かせていたとしても、女のように隠しだてする理由はない。
 けれど....ヤツの視線に晒されて身体が熱を帯びてくることだけが恥ずかしかった。ヤツのブルーグレーの目に身体を肌をまさぐられて、俺は胸内が波立ち、肌がざわざわと粟立つのを感じた。

「ニコライ」

 ミハイルよりなお冷たい面が頷き、俺の傍らに着衣を一式置いた。白のハイネックのインナーにジーンズ、ワインカラーのジャケット......まぁ無難なところだ。だが.....

「下着は?!」

 またかよ.....と俺は思った。ヤツの趣味の悪さはその一点に尽きた。が、ヤツの差し出したそれは、悪趣味などという可愛らしいものではなかった。革と金属で出来たそれを見せびらかすように目の前に突きつけて、ヤツは悪魔の微笑みで言った。

「ここにある」

「な、なんだそれは....!」

「貞操帯だ。知ってるだろう?」

「知るか!......馬鹿!止めろ!」

 喚き散らす俺をニコライが難なく羽交い締めて、ヤツは俺の股間に不気味なそれを嵌め込み、カチリ.....と鍵をかけた。

「なんてことしやがる!.....外せ!」

「帰ってきたら、外してやる」

 脱走防止だ......とヤツは口許を歪めて笑った。硬いジーンズの生地がなおさら圧迫感を強める。俺は自分の不甲斐なさに目眩がした。

 が、ミハイルとともに指定のカフェで『俺』と対面した時、俺はもっと激しい目眩を覚えた。


 道中の車の中でミハイルは、俺の身体をなぶりながら、そいつについて明かした。
 魂を入れ替えた後、容態が安定するのを待って、同じように自家用ジェットで日本を出国し、このアジアの『別荘』で療養させていた.....という。 

「香港マフィアのお前の身体を正規ルートで持ち出すことは不可能だからな」

 そいつは、やはり当初は混乱したが、比較的早く状況を受け入れた...という。
 現在はミハイルの部下に匿われて、とりあえずこの国に滞在している.....らしい。

「私には日本人の部下もいるのでね」

 車の中でヤツはしれっと言い放った。

「それは知っている」

 俺を追い詰めたのもそいつらだ。

「最後に大将が自分で出張ってくるとは思わなかったがな」

 俺の精一杯の皮肉にヤツはニヤリと笑った。

「神の啓示だよ、ラウル。神は私にお前を下されたんだ。導いてやれ....とね」

「ふざけるな!」

 俺は拳を震わせた。だが、まず『俺の身体』に会わねばならない。俺は窓の素とに眼を移し、怒りをじっと堪えた。

 
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