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第二章 さらば愛しき日々
第16話 我愛香港~到着~
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ヤツの自家用ジェットで降り立った時、香港は夜だった。宝石を散りばめたような夜景はとてつもなく美しく懐かしく、俺は涙が出そうになった。ヤツの黒塗りの車で乗り付けた5つ星のホテルのスイートから見下ろすそれは、俺の知ってる香港の夜よりも数倍も美しく懐かしく輝いていた。
大きな窓ガラスに貼り付くようにして、外をじっと見つめる。懐かしい愛しい者達の住む街はこんなにも生き生きと脈動して輝いている。
「香港は初めてか?」
ミハイルがシャンパンのグラスを片手に傍らに立っていた。俺は思わず涙ぐんでいるのを悟られないように、黙って頷いた。
「来なさい」
ミハイルは俺の背に軽く手を当て、テーブルに引き戻した。
「たまには君も飲むといい」
もうひとつのグラスにシャンパンを注いで俺の手に握らせる。ピンクのドンペリだ。とんでもない高級品に思わずすくんでしまう。
「俺は未成年だから.....」
と押し返そうとすると、ヤツがおかしそうに笑った。
「この前、成人しただろう」
俺は、はっ......と思い出した。この身体の持ち主は二週間前に誕生日を迎えていた。
そして...俺はふとアイツを思い出した。
以前の、入れ替わる前『俺』の二十歳の誕生日。アイツとたったふたりで、でもアイツは心から祝ってくれた。
ケーキ屋が閉まる直前で、品物も無くて、ふたりでひとつのサヴァランを分け合って食べた。アイツは物凄く済まなそうな顔をしていたが、俺は生まれて初めて誕生日を祝って貰って、それだけでとても嬉しかった。乞われてカタギの奴にたった一度、背中の刺青を見せたのも、あの日だった……。
「祝ってやれなくて悪かったな」
「いいえ......」
俺は頭を振った。そしてミハイルの口づけを受け止めた。ヤツは俺の髪を撫でて言った。
「明日はパーティーを用意している。いい子でいたご褒美だ」
「本当に....?」
俺は、くい.....とシャンパンを干し、ミハイルを慌てさせた。一気に酔いが回り、視界がぼやける。俺の潤んだ眼がミハイルを見つめる。感情の読めないブルーグレーの目が僅かに細められていた。俺は試しに訊いてみた。
「煙草は?」
「キスが不味くなるからダメだ」
思わず苦笑いをした。コイーバのタリズマン、キューバ産の超高級品の葉巻の匂いを漂わせて言われても説得力がない。が、俺の部屋で燻らすことは無かったし、この部屋に用意されたオリバの葉巻に手をつけることもない。
おそらくこいつにとってシガーを手に取る時は特別な時なのだろう。
そう、俺に鉛玉を撃ち込んだ時のように....。
「おいで......」
ミハイルは俺の背に大きな手を回し、深く口付けてくる。そして俺はキングサイズのベッドに押し倒され、シャツを剥ぎ取られる。
ヤツは俺の胸に指を這わせながら囁いた。
「白くて滑らかで綺麗な肌だ。......タトゥーを入れるのは勿体ないな」
「入れるつもりか?」
「怖いのか?」
「怖くはない」
前の俺の身体には、鷲の刺青があった。俺の背中で大きく翼を拡げ、どこまでも飛翔していくはずだった。
こいつに追い詰められ、鉛玉を撃ち込まれて墜落するまでは.....。
「いずれ私の所有の証を刻まねばなるまい。.....お前は予想以上にやんちゃな質のようだからな......」
言って、ヤツは俺の膝を大きく割り開いた。
「まずは、ここにしっかりと刻んでおくか.....」
ヤツの凶悪な逸物が押し当てられ、情け容赦なく押し入ってくる。
「散々、やってるじゃないか......あっ...あぁっ」
俺は大きく背を仰け反らせ、シーツを鷲掴む。ヤツはその手を引き剥がし、自分の背に回させた。
「私の容を完璧に覚えさせねばならないからな。他の男に気安く脚を開いたりしないようにな......」
「だれが......そん.....な、恥ずかしい.....こと、する......かよ!......あ.......あんっ.....」
男に犯られるなんざ、こいつだけで充分だ。出来るなら、こいつにだって犯られたくは無い。神に誓って。
ヤツは口の端を歪めて小さく笑いながら、言った。
「お前がイヤでも、お前を欲しがる奴はごまんといる......他の男に尻尾を振らないように入念に躾けておかないとな......」
「なんだ、それ?......あっ.....あぁっ.....あひっ!」
さんざめく地上の星空の中で俺はヤツに貫かれ、追い上げられて気を失った。数えきれないネオンの瞬きが俺を嘲笑っているような気がした。
大きな窓ガラスに貼り付くようにして、外をじっと見つめる。懐かしい愛しい者達の住む街はこんなにも生き生きと脈動して輝いている。
「香港は初めてか?」
ミハイルがシャンパンのグラスを片手に傍らに立っていた。俺は思わず涙ぐんでいるのを悟られないように、黙って頷いた。
「来なさい」
ミハイルは俺の背に軽く手を当て、テーブルに引き戻した。
「たまには君も飲むといい」
もうひとつのグラスにシャンパンを注いで俺の手に握らせる。ピンクのドンペリだ。とんでもない高級品に思わずすくんでしまう。
「俺は未成年だから.....」
と押し返そうとすると、ヤツがおかしそうに笑った。
「この前、成人しただろう」
俺は、はっ......と思い出した。この身体の持ち主は二週間前に誕生日を迎えていた。
そして...俺はふとアイツを思い出した。
以前の、入れ替わる前『俺』の二十歳の誕生日。アイツとたったふたりで、でもアイツは心から祝ってくれた。
ケーキ屋が閉まる直前で、品物も無くて、ふたりでひとつのサヴァランを分け合って食べた。アイツは物凄く済まなそうな顔をしていたが、俺は生まれて初めて誕生日を祝って貰って、それだけでとても嬉しかった。乞われてカタギの奴にたった一度、背中の刺青を見せたのも、あの日だった……。
「祝ってやれなくて悪かったな」
「いいえ......」
俺は頭を振った。そしてミハイルの口づけを受け止めた。ヤツは俺の髪を撫でて言った。
「明日はパーティーを用意している。いい子でいたご褒美だ」
「本当に....?」
俺は、くい.....とシャンパンを干し、ミハイルを慌てさせた。一気に酔いが回り、視界がぼやける。俺の潤んだ眼がミハイルを見つめる。感情の読めないブルーグレーの目が僅かに細められていた。俺は試しに訊いてみた。
「煙草は?」
「キスが不味くなるからダメだ」
思わず苦笑いをした。コイーバのタリズマン、キューバ産の超高級品の葉巻の匂いを漂わせて言われても説得力がない。が、俺の部屋で燻らすことは無かったし、この部屋に用意されたオリバの葉巻に手をつけることもない。
おそらくこいつにとってシガーを手に取る時は特別な時なのだろう。
そう、俺に鉛玉を撃ち込んだ時のように....。
「おいで......」
ミハイルは俺の背に大きな手を回し、深く口付けてくる。そして俺はキングサイズのベッドに押し倒され、シャツを剥ぎ取られる。
ヤツは俺の胸に指を這わせながら囁いた。
「白くて滑らかで綺麗な肌だ。......タトゥーを入れるのは勿体ないな」
「入れるつもりか?」
「怖いのか?」
「怖くはない」
前の俺の身体には、鷲の刺青があった。俺の背中で大きく翼を拡げ、どこまでも飛翔していくはずだった。
こいつに追い詰められ、鉛玉を撃ち込まれて墜落するまでは.....。
「いずれ私の所有の証を刻まねばなるまい。.....お前は予想以上にやんちゃな質のようだからな......」
言って、ヤツは俺の膝を大きく割り開いた。
「まずは、ここにしっかりと刻んでおくか.....」
ヤツの凶悪な逸物が押し当てられ、情け容赦なく押し入ってくる。
「散々、やってるじゃないか......あっ...あぁっ」
俺は大きく背を仰け反らせ、シーツを鷲掴む。ヤツはその手を引き剥がし、自分の背に回させた。
「私の容を完璧に覚えさせねばならないからな。他の男に気安く脚を開いたりしないようにな......」
「だれが......そん.....な、恥ずかしい.....こと、する......かよ!......あ.......あんっ.....」
男に犯られるなんざ、こいつだけで充分だ。出来るなら、こいつにだって犯られたくは無い。神に誓って。
ヤツは口の端を歪めて小さく笑いながら、言った。
「お前がイヤでも、お前を欲しがる奴はごまんといる......他の男に尻尾を振らないように入念に躾けておかないとな......」
「なんだ、それ?......あっ.....あぁっ.....あひっ!」
さんざめく地上の星空の中で俺はヤツに貫かれ、追い上げられて気を失った。数えきれないネオンの瞬きが俺を嘲笑っているような気がした。
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