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第一章 入れ替わった男
第3話 見知らぬ場所~ミハイルの企み~
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「ここは何処なんですか、答えてください」
少年に戻ったつもりで、慣れない言葉遣いで真剣に問う俺を見下ろして、ヤツは言った。
「私の隠れ家だ。まぁ別荘という体裁にはなってる」
―つまりは、幾つかあるアジトのひとつというわけか.....―
俺がファミリーの部下に探らせただけでも、こいつらのアジトは十近くはある。海沿いというだけでも数ヶ所。目星をつけるにも大まか過ぎる。するとヤツは、さも可笑しそうにつけ加えた。
「君の故郷からは一番遠いところかもしれないな」
―とするとロシアか.....―
俺は絶望に駆られた。アジアやヨーロッパ、あるいは南米あたりなら、まだツテはある。俺自身でなくとも俺の名前で動かせるヤツがいないわけではない。だが、こいつの本国ではそれも効かない。この国においては、こいつの支配下でない者はチンピラすらいないのだ。
「まぁ、逃げようなどとは思わないことだ。.....『いい子』にしていれば、それ相応の暮らしはさせてやる」
目を細めて俺を見下ろすヤツの眼差しに俺は心底ゾッとした。背中を冷たい汗が流れる。こいつが優しげな表情をするときには必ず血が流れる。
俺のファミリーの誰かがボスの代理で交渉に出向いた時、―優しく笑って了承してくれた―と報告した。直後にオフィスに爆弾を積んだトラックが突っ込んだ。
昼下がりのオフィス街のアスファルトが一面、血に染まった.....無関係な通行人達の血が流され、本来的に善人だったボスは心臓病が悪化した。
「あなたは、いったい誰なんですか.....」
俺は改めてヤツに訊いた。ロシアン-マフィアを牛耳るこいつが、自分をなんと表現するのか、聞いてみたくなった。緊張で声が掠れ、ほんの僅かだが震えた。この脆弱なガキの傷ついた身体では、何も出来ない。その怖さは本物だった。
「俺はミハイル。ミーシャだ。お前はそれ以外に何も知る必要はない」
ヤツはいつも通りの冷ややかな声で言った。
俺は勇気を出してもう一歩踏み込んだ。
「何故、僕を買ったんですか?」
この身体の持ち主だったら、当然聞きたい話だろう。ヤツのミハイルの口が小さく笑った。
「私には、実に気に入っていた東洋人がいてね。だが、何としても私のものになろうとはしなかった。私はそいつをこの世から消し去りたいと思いながら、同時に魂までも支配したいと強力に思っていた.....」
「八つ当たりですか.....?」
この身体の元の持ち主だったら、当然そう思うだろう。
「大人しくしていれば、危害は加えない。日本のえげつないヤクザに売られて、見ず知らずの男達の玩具にされるよりはマシだろう」
「何故、そんな.....」
「君が信じていた伯父さんてヤツに訊くんだな。.....少なくとも高瀬 諒君、君にとっては私は救世主なんだよ」
俺には言葉が無かった。この身体の持ち主の置かれていた環境を、俺は知らない。
「興奮させて悪かったな。怪我が治るまでゆっくり休みたまえ」
言って、ヤツは俺に背中を向けた。かつて一度もしみじみと見た事は無かった。広い大きな背中だった。デカい壁のような背中越しにロシア語の低い呟きが漏れてきた。
『ゆっくり躾けてやる....』
―やはり、こいつは渾名通りの『魔王』だ。―
俺は息を殺して身構え、ヤツは部屋から出ていった。
少年に戻ったつもりで、慣れない言葉遣いで真剣に問う俺を見下ろして、ヤツは言った。
「私の隠れ家だ。まぁ別荘という体裁にはなってる」
―つまりは、幾つかあるアジトのひとつというわけか.....―
俺がファミリーの部下に探らせただけでも、こいつらのアジトは十近くはある。海沿いというだけでも数ヶ所。目星をつけるにも大まか過ぎる。するとヤツは、さも可笑しそうにつけ加えた。
「君の故郷からは一番遠いところかもしれないな」
―とするとロシアか.....―
俺は絶望に駆られた。アジアやヨーロッパ、あるいは南米あたりなら、まだツテはある。俺自身でなくとも俺の名前で動かせるヤツがいないわけではない。だが、こいつの本国ではそれも効かない。この国においては、こいつの支配下でない者はチンピラすらいないのだ。
「まぁ、逃げようなどとは思わないことだ。.....『いい子』にしていれば、それ相応の暮らしはさせてやる」
目を細めて俺を見下ろすヤツの眼差しに俺は心底ゾッとした。背中を冷たい汗が流れる。こいつが優しげな表情をするときには必ず血が流れる。
俺のファミリーの誰かがボスの代理で交渉に出向いた時、―優しく笑って了承してくれた―と報告した。直後にオフィスに爆弾を積んだトラックが突っ込んだ。
昼下がりのオフィス街のアスファルトが一面、血に染まった.....無関係な通行人達の血が流され、本来的に善人だったボスは心臓病が悪化した。
「あなたは、いったい誰なんですか.....」
俺は改めてヤツに訊いた。ロシアン-マフィアを牛耳るこいつが、自分をなんと表現するのか、聞いてみたくなった。緊張で声が掠れ、ほんの僅かだが震えた。この脆弱なガキの傷ついた身体では、何も出来ない。その怖さは本物だった。
「俺はミハイル。ミーシャだ。お前はそれ以外に何も知る必要はない」
ヤツはいつも通りの冷ややかな声で言った。
俺は勇気を出してもう一歩踏み込んだ。
「何故、僕を買ったんですか?」
この身体の持ち主だったら、当然聞きたい話だろう。ヤツのミハイルの口が小さく笑った。
「私には、実に気に入っていた東洋人がいてね。だが、何としても私のものになろうとはしなかった。私はそいつをこの世から消し去りたいと思いながら、同時に魂までも支配したいと強力に思っていた.....」
「八つ当たりですか.....?」
この身体の元の持ち主だったら、当然そう思うだろう。
「大人しくしていれば、危害は加えない。日本のえげつないヤクザに売られて、見ず知らずの男達の玩具にされるよりはマシだろう」
「何故、そんな.....」
「君が信じていた伯父さんてヤツに訊くんだな。.....少なくとも高瀬 諒君、君にとっては私は救世主なんだよ」
俺には言葉が無かった。この身体の持ち主の置かれていた環境を、俺は知らない。
「興奮させて悪かったな。怪我が治るまでゆっくり休みたまえ」
言って、ヤツは俺に背中を向けた。かつて一度もしみじみと見た事は無かった。広い大きな背中だった。デカい壁のような背中越しにロシア語の低い呟きが漏れてきた。
『ゆっくり躾けてやる....』
―やはり、こいつは渾名通りの『魔王』だ。―
俺は息を殺して身構え、ヤツは部屋から出ていった。
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