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三 追録~花の色は~
今ひとたびの......
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無事、中間テスト終わり。
古文、平均点超えたぜ!やったね。
「よくやった。偉いぞ」
小野崎先生は、目をまん丸くしながら、俺の頭を撫でてくれた。
でも......。
「まだ、あっちには帰らないですよね?ー俺、受験を控えてるんですから」
こっそり訊くと、先生はちょっとだけ目尻を下げて、唇の端を上げて言った。
「君は目を離すと、すぐ怠けるからな。受験終わるまでは油断できんな」
俺はなんとなく嬉しくて、テヘヘって笑った。
そして、お楽しみの学園祭......なんだけど、
なんで俺、メイド服着てるの?
『とりかえばや喫茶』って何?
「往生際、悪いわよ。ほら、口紅を塗るから、じっとして」
色部に椅子に押さえつけられ、清原に化粧される俺。
「私も男装してるんだから、文句言わないの!」
清原、そりゃお前はいいよ。上背あるし、スリムだから、執事スタイル、バッチリ似合ってるよ。
けどさ......。
「コマチ君、可愛いわよ。ご指名バッチリよ。清原とふたりで打ち上げのお金、しっかり稼いでね」
「色部、お前なぁ......」
肩越しに色部をジロリと睨む。
こいつ、色部は文芸部の展示販売があるからって、クラスの展示には参加しないんだと。色部の薄い本は素手に予約まで入っているらしい。相変わらず売れっ子作家なのね。
「おい、外の看板できたぞ!」
水本、なに顔を赤くしてるんだよ。
「コマチ、可愛い。可愛いすぎる......」
いきなり鼻を押さえてないで、助けてくれよ。
「諦めましょうよ.....」
同じくメイド服を着せられた深草くんはすでに諦めの境地らしい。篠原・菅生・安達の三人娘に包囲されて、ブロンドのウィッグまで被せられてる。
でも、お前、スカート長いからいいじゃん。俺なんかミニだぞ。膝小僧丸出しだぞ!
「ふたりとも並んで~!」
ってみんなして写メ撮るな!
「これ、頼むわ」
って、水本まで俺の肩抱いて、清原にスマホ渡してる。
青春の記念にとか言うな。
色部がによによしてるじゃないか。絶対、あいつはこの写真、売る気だぞ。
「じゃ、浮気すんなよ~!」
誤解を招く発言止めろー!
バスケ部の焼そば、一人前で済むと思うなよ、コンニャロ!
というわけで、半日、新米ウェイトレスになった俺。
なんで、こんなに客が多いんだ?
まぁ半分は、清原目当ての一年女子のファン達だけど。
「はい、並んで~!」
って、一枚五十円でツーショット撮ってるし。
文芸部の活動費に充てるんだって。意外に商魂たくましいな、清原。
俺はあわあわしながら、なんとかテーブルにコーヒーやジュースを運ぶ。
「ほう可愛いウェイトレスじゃないか」
平野先生、なんでわざわざ見に来るんですかっ!
菅原先生も小野崎先生も、ニコニコしながら長居しないでください。回転率悪いでしょ。
「小野くん、水本君来たから休憩入っていいわよ。深草くん、代わってあげて」
午後になって、やっと解放されて水本と一緒に教室を出た。
「山部達のライブ、行くか」
そう、山部と大江は軽音部で三年の山上さんと一年の柿本とバンド組んでるんだって。
体育館に聞きにいったら、ほぼ満席。
超人気なんだって、山部のメタルバンド『KASEN 』。
ネット配信でも、ダウンロード数、半端ないらしい。う~ん、ノリノリじゃん。
普段と落差激しすぎて頭クラックラするわ。
「あいつら、すげぇなぁ......」
「俺、まだ耳鳴りしてるよ」
ワンステージ聞き終わって、さすがに疲れた俺たちは、水本に買ってもらった焼そばとクレープとコーラを片手に裏庭で一息。
ここは滅多に人は来ないから、花壇のそばのベンチでのんびり。
あ、そうだ。
「透、いろいろ巻き込んでごめんな.....」
俺は食べ終わった容器を袋に押し込む水本にあらためて頭を下げた。
夏休みからこっち、色々ありすぎて、水本を散々振り回しちゃった。でも、いてくれてありがとう。本当に心強かった。
「気にすんなって......」
眩しいイケメンな笑顔で水本が笑う。
「俺は面白かったぜ」
くしゃくしゃと俺の頭を撫でる手が優しい。
「あ、でもご褒美もらっとくかなー」
ご褒美?......と訊く間もなく、俺の唇に何かが触れた。
.............。
二度あることは三度あるとは言うけれど....。
「透、お前なぁ.....」
「あ、口紅ついちった」
しれっとした顔で唇舐めるな、まったく。
悪ノリしすぎ。
「お前なぁ......」
と言いかけたところで、水本がしぃっ、て俺の口を手でふさいだ。
「誰かいる、あの木のとこ」
水本が顔で示すほうを見ると、一組のカップル。......あ、あれは。
「志岐先輩.....」
そう、三年の学園のマドンナ、和泉志岐先輩だ。
「あれ、誰だ?」
見かけない私服姿の男の人と喋ってる。でも、デートにしては、なんか深刻そう。
「卒業生の三条尊先輩よ。和泉先輩の元カレ」
いきなりな声に振り向くと、色部が腕組みして立っていた。
「和泉先輩、三年にいる弟の敦先輩と付き合ってるって噂なのよね。和泉先輩、モテるのはいいけど、トラブル多いのよね」
解説ありがとう。んで、何しにきたの、色部。
「コマチ君たちを探しにきたのよ。看板娘がいないと、困るの」
えー!もう勘弁。
「水本くん、デートはもうちょい待ってね。あと一時間で終わるから」
「了解。コマチ、頑張れ!」
水本~!
呑気に手を振る水本に見送られて、再び教室にドナドナされる俺でした......。
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの 逢ふこともがな
(和泉式部 百人一首 第56番)
古文、平均点超えたぜ!やったね。
「よくやった。偉いぞ」
小野崎先生は、目をまん丸くしながら、俺の頭を撫でてくれた。
でも......。
「まだ、あっちには帰らないですよね?ー俺、受験を控えてるんですから」
こっそり訊くと、先生はちょっとだけ目尻を下げて、唇の端を上げて言った。
「君は目を離すと、すぐ怠けるからな。受験終わるまでは油断できんな」
俺はなんとなく嬉しくて、テヘヘって笑った。
そして、お楽しみの学園祭......なんだけど、
なんで俺、メイド服着てるの?
『とりかえばや喫茶』って何?
「往生際、悪いわよ。ほら、口紅を塗るから、じっとして」
色部に椅子に押さえつけられ、清原に化粧される俺。
「私も男装してるんだから、文句言わないの!」
清原、そりゃお前はいいよ。上背あるし、スリムだから、執事スタイル、バッチリ似合ってるよ。
けどさ......。
「コマチ君、可愛いわよ。ご指名バッチリよ。清原とふたりで打ち上げのお金、しっかり稼いでね」
「色部、お前なぁ......」
肩越しに色部をジロリと睨む。
こいつ、色部は文芸部の展示販売があるからって、クラスの展示には参加しないんだと。色部の薄い本は素手に予約まで入っているらしい。相変わらず売れっ子作家なのね。
「おい、外の看板できたぞ!」
水本、なに顔を赤くしてるんだよ。
「コマチ、可愛い。可愛いすぎる......」
いきなり鼻を押さえてないで、助けてくれよ。
「諦めましょうよ.....」
同じくメイド服を着せられた深草くんはすでに諦めの境地らしい。篠原・菅生・安達の三人娘に包囲されて、ブロンドのウィッグまで被せられてる。
でも、お前、スカート長いからいいじゃん。俺なんかミニだぞ。膝小僧丸出しだぞ!
「ふたりとも並んで~!」
ってみんなして写メ撮るな!
「これ、頼むわ」
って、水本まで俺の肩抱いて、清原にスマホ渡してる。
青春の記念にとか言うな。
色部がによによしてるじゃないか。絶対、あいつはこの写真、売る気だぞ。
「じゃ、浮気すんなよ~!」
誤解を招く発言止めろー!
バスケ部の焼そば、一人前で済むと思うなよ、コンニャロ!
というわけで、半日、新米ウェイトレスになった俺。
なんで、こんなに客が多いんだ?
まぁ半分は、清原目当ての一年女子のファン達だけど。
「はい、並んで~!」
って、一枚五十円でツーショット撮ってるし。
文芸部の活動費に充てるんだって。意外に商魂たくましいな、清原。
俺はあわあわしながら、なんとかテーブルにコーヒーやジュースを運ぶ。
「ほう可愛いウェイトレスじゃないか」
平野先生、なんでわざわざ見に来るんですかっ!
菅原先生も小野崎先生も、ニコニコしながら長居しないでください。回転率悪いでしょ。
「小野くん、水本君来たから休憩入っていいわよ。深草くん、代わってあげて」
午後になって、やっと解放されて水本と一緒に教室を出た。
「山部達のライブ、行くか」
そう、山部と大江は軽音部で三年の山上さんと一年の柿本とバンド組んでるんだって。
体育館に聞きにいったら、ほぼ満席。
超人気なんだって、山部のメタルバンド『KASEN 』。
ネット配信でも、ダウンロード数、半端ないらしい。う~ん、ノリノリじゃん。
普段と落差激しすぎて頭クラックラするわ。
「あいつら、すげぇなぁ......」
「俺、まだ耳鳴りしてるよ」
ワンステージ聞き終わって、さすがに疲れた俺たちは、水本に買ってもらった焼そばとクレープとコーラを片手に裏庭で一息。
ここは滅多に人は来ないから、花壇のそばのベンチでのんびり。
あ、そうだ。
「透、いろいろ巻き込んでごめんな.....」
俺は食べ終わった容器を袋に押し込む水本にあらためて頭を下げた。
夏休みからこっち、色々ありすぎて、水本を散々振り回しちゃった。でも、いてくれてありがとう。本当に心強かった。
「気にすんなって......」
眩しいイケメンな笑顔で水本が笑う。
「俺は面白かったぜ」
くしゃくしゃと俺の頭を撫でる手が優しい。
「あ、でもご褒美もらっとくかなー」
ご褒美?......と訊く間もなく、俺の唇に何かが触れた。
.............。
二度あることは三度あるとは言うけれど....。
「透、お前なぁ.....」
「あ、口紅ついちった」
しれっとした顔で唇舐めるな、まったく。
悪ノリしすぎ。
「お前なぁ......」
と言いかけたところで、水本がしぃっ、て俺の口を手でふさいだ。
「誰かいる、あの木のとこ」
水本が顔で示すほうを見ると、一組のカップル。......あ、あれは。
「志岐先輩.....」
そう、三年の学園のマドンナ、和泉志岐先輩だ。
「あれ、誰だ?」
見かけない私服姿の男の人と喋ってる。でも、デートにしては、なんか深刻そう。
「卒業生の三条尊先輩よ。和泉先輩の元カレ」
いきなりな声に振り向くと、色部が腕組みして立っていた。
「和泉先輩、三年にいる弟の敦先輩と付き合ってるって噂なのよね。和泉先輩、モテるのはいいけど、トラブル多いのよね」
解説ありがとう。んで、何しにきたの、色部。
「コマチ君たちを探しにきたのよ。看板娘がいないと、困るの」
えー!もう勘弁。
「水本くん、デートはもうちょい待ってね。あと一時間で終わるから」
「了解。コマチ、頑張れ!」
水本~!
呑気に手を振る水本に見送られて、再び教室にドナドナされる俺でした......。
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの 逢ふこともがな
(和泉式部 百人一首 第56番)
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