転生・小野小町(♂)の受難~DK 冥官修行録~

葛城 惶

文字の大きさ
上 下
37 / 50
二 通小町

夜をこめて......

しおりを挟む
 先生の言ったとおり、翌朝の橋元達の様子は特に変わった感じは無かった。彼女は比較的早く寝てしまったことになっていて、誰も疑う様子は無かった。
 俺の目の前のふたりを除いては......。

「ねぇ、コマチ君、水本君、昨日はあれからどうしたの?」

 山部たちに聞こえないように、か清原が珍しく小さな声で俺たちに話しかけてきた。
 
「あれからって?」

 今さらだが惚けて返す水本。

「橋姫よ。鬼女よ。......無事に済んだの?」

 尚も突っ込む清原。

「橋姫ってなんだ?俺とコマチは飯食ってから、風呂に入ってずっと部屋にいたぜ。なんか夢でも見たんじゃないか?」

「夢じゃないわよ......」

 色部の眼鏡の奥がキランと光る。ヤバい。先生、術、失敗してますよ。

「そこ、食事中は静かに」

 菅原先生が俺たちの後ろからふたりにご指導。
 ちょっと離れた席にいた小野崎先生は、目が合うと小さく肩をすくめた。
 なんか、こいつらは別格らしい。


 菅原先生に注意されて、ふたりはしばらく大人しく、漬物やら湯葉巻きをもそもそ食べていたが、先生が席を立つや否や、また口を開いた。が、それは鬼女の話よりもっとヤバかった。



「そうそう、コマチ君て夢遊病とかあるの?」

 夢遊病?それ何?言われたこと無いけど。

「昨夜さ、私と那岐子、結構遅くまで喋っててさ。そしたら、男子の部屋のほうで、ドアが開く音がして......」

「トイレかな、と思ったら足音が反対方向に向かっていて、階段、降り始めたのよ」

 清原は夜中コンビニ禁止って厳重なきまりになっていたから、色部と一緒に部屋を出て注意しようと追いかけた、というのだ。

「そしたらさ......コマチ君で、声を掛けても全然、止まらないし、聞こえてないみたいで」

「寝惚けてるにしては目付きが変でさ。『夜が明けてしまう...』とか言いながら、出口のほうに行こうとしてたから、びっくりしちゃって......」

 思わずひっぱたいちゃった......って手を合わせる清原。
 
「ゴメンね」

「いや、全然覚えてないから......」

 朝、ちょっとだけ頬っぺた腫れてるような気がしたのはそれだったのね。
 それからぼーっと突っ立っていた俺を部屋に引き摺って帰ってくれたそうな。お手数おかけしました。ありがと。

「まだ真夜中だよ、って言ったら大人しく布団に入ったけど.....」

 色部が、ずずっとお茶を啜りながら、なぜか水本を睨む。

「ヤバいよ、コマチ君。なんで水本君も気がつかなかったの?」

 いや、昨夜は俺たちヘトヘトだったしさ、目なんか覚めないよ、絶対。

「何時頃?」

って聞き直すと、そうね......と色部が首を傾げた。

「三時過ぎよね.....」

 そんな時間まで起きてたの?お前ら。しかも結局、心配だからって朝まで起きてたって......なんかゴメン。

「大丈夫よ、物書きは二徹三徹、当たり前だから」

「そ。推しを語り始めたら、もうどれだけ語っても語り尽くせないし」

 前言撤回。化け物より化け物だわ、こいつら。

「でもさ......」

 清原が自分のついでに俺たちの湯飲みにお茶を注ぎ足してくれながら、ひそっと囁いた。

「なんか物陰から、誰かがその様子を見ていた気がするのよ。昨日と今日はこの旅館、うちの学校だけでしょ?」

 色部と清原の目線の先には、俺たちに背を向けて食事を取る深草の姿があった。

「一応、『通小町』のお話、教えておくね」

 色部が、ごそごそとデイバックからコピーの束を取り出した。

「小野小町の伝説は色々あるんだけど、百夜通い関連のだけ集めといたわ。原文と現代語訳。解説着けておいたから」

 マメなんだね、色部。古文、苦手だけど、頑張って読んでみるわ。





で、俺のクラスは、午前中に宇治・太秦方面の見学だったんだけど、俺と水本は体調不良でパス。なんせ死ぬほど眠かったんだもん。

 昨夜の顛末を知ってる菅原先生は快く許可してくれた。
 小野崎先生は、出掛けにラインを一本、送ってきた。

ー一寝入りしたら、六道珍皇寺に行ってきなさいー

よくわかんないけど、わかりました。


「じゃあ、無理しないように...」

「大丈夫です。良くなったら太秦には行きます」

 ちょっとだけでも、映画村は見たいから。

心配そうな、担任の立花先生とクラスメイトを手を振ってお見送りをして、俺たちはとりあえず、もう一度、布団に潜り込んだ。


 

夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ
(清少納言 百人一首 第62番)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

このブラジャーは誰のもの?

本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。 保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。 誰が、一体、なんの為に。 この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...