32 / 50
二 通小町
鉄輪(一)
しおりを挟む
翌朝早く、俺たちは観光バスで京都へと向かった。
勿論、あの男の子にもらった折り紙は、小野崎先生に話して、朝も明けきらないうちに、近くの川原で燃やした。
ワイシャツのポケットから取り出したそれは、もらった時には鮮やかな朱色だったのに、真っ黒に変色していた。
「これって.....」
「君の身代わりに陰の気を吸ったからな」
小野崎先生は顔色も変えずに折り紙に火をつけた。
それは瞬く間に真っ黒な灰になった。
「そのままで川に流すこともある.....」
流し雛というんだそうだ。雛人形の原形らしい。
『古都というのは、歴史が長ければ長いほど、色々な事件があり、その痕跡が残っている。注意して歩きなさい』
京都に着いて、まず菅原先生が注意事項だ、と生徒全員に言っていた。
最初の見学先は京都御所。予約制で入れる人数が決まっているので、前もって申請を出して、見学させてもらわなきゃいけなくて、なおかつ今日と明日の二手に別れて見学した。
その中でも、俺たちは一番最初のグループ。
当然、入れる場所と入れない場所があるんだけど、腐才女ふたりの盛り上がりかたは半端ない。
「あそこが弘微殿で、あっちが飛香舎よね」
って後宮のあたりを地図も無しに指差してあれこれ語り合うふたり。凄まじい記憶力だな。
あまりに詳し過ぎて、案内のおじさんがドン引きしてますけど。
片や引率の菅原先生は御帳台を前にえらく沁々している。
「これって即位の大礼の時のアレだよな」
俺たちのノリにちょっと眉をしかめていたけど、仕方ないじゃん、俺たちは令和の若者なんだから。決して平安貴族じゃありませんから。
菅原先生の説明を受けながら、見学する約二十人くらいの生徒の中には深草もいて、なんだか懐かしそうだった。もしかしてお前も仲間なの?
「では、後はグループ行動。破目を外し過ぎないように」
菅原先生はそう言って俺たちを送り出し、いそいそと次のグループの引率に向かった。これを四回くらい繰り返すらしいんだけど、先生はなんか嬉しそうだ。
昔を思い出すんだろうな、きっと。嫌な奴らもいないしね。
で、次のグループが出てくるのを待って、希望先で、幾つかに別れてまとまって引率の先生に着いていく。
俺たちは歴史オタクな水本がリクエストしたので、伏見方面へ。立花先生に引率してもらって、伏見城を見て、お稲荷さんの総本山に参拝。
それから本能寺や新撰組の屯所のあった壬生や寺田屋を巡った。男子ばかりかと思ったら、女子も結構いて、蘊蓄に花を咲かせていた。うちの学校にもいたんだな、歴女。
色部と清原達は市の中心部の神社や寺を巡る平安ロマンをご所望。やっぱり圧倒的に女子が多いなか、紀本や深草、山部はこっちに残った。引率は勿論、古文の小野崎先生。
隣のクラスは今日、先に宇治や太秦を回る予定になっていた。
「面白かったよな~、やっぱり」
歴史オタクの水本、ご満悦。俺は歴史は得意じゃないけど、立花先生の石垣の傾斜角とかの話は面白かったし、伏見稲荷の千本鳥居は圧巻だった。
「こっちも良かったわよ」
色部や清原達は市内の寺社巡りで、お抹茶や和菓子の振る舞いを受けたり、大原あたりまで足を伸ばしたらしい。
夕飯が終わってからは男子どおしで、部屋でだべっていた。もちろん枕投げもした。
俺の部屋は俺と水本、それに大伴と柿本、山部の五人。みんな同じ中学校から上がった気のおけない連中だから、楽しく夜を過ごせるはずだった。
けれど......
勿論、あの男の子にもらった折り紙は、小野崎先生に話して、朝も明けきらないうちに、近くの川原で燃やした。
ワイシャツのポケットから取り出したそれは、もらった時には鮮やかな朱色だったのに、真っ黒に変色していた。
「これって.....」
「君の身代わりに陰の気を吸ったからな」
小野崎先生は顔色も変えずに折り紙に火をつけた。
それは瞬く間に真っ黒な灰になった。
「そのままで川に流すこともある.....」
流し雛というんだそうだ。雛人形の原形らしい。
『古都というのは、歴史が長ければ長いほど、色々な事件があり、その痕跡が残っている。注意して歩きなさい』
京都に着いて、まず菅原先生が注意事項だ、と生徒全員に言っていた。
最初の見学先は京都御所。予約制で入れる人数が決まっているので、前もって申請を出して、見学させてもらわなきゃいけなくて、なおかつ今日と明日の二手に別れて見学した。
その中でも、俺たちは一番最初のグループ。
当然、入れる場所と入れない場所があるんだけど、腐才女ふたりの盛り上がりかたは半端ない。
「あそこが弘微殿で、あっちが飛香舎よね」
って後宮のあたりを地図も無しに指差してあれこれ語り合うふたり。凄まじい記憶力だな。
あまりに詳し過ぎて、案内のおじさんがドン引きしてますけど。
片や引率の菅原先生は御帳台を前にえらく沁々している。
「これって即位の大礼の時のアレだよな」
俺たちのノリにちょっと眉をしかめていたけど、仕方ないじゃん、俺たちは令和の若者なんだから。決して平安貴族じゃありませんから。
菅原先生の説明を受けながら、見学する約二十人くらいの生徒の中には深草もいて、なんだか懐かしそうだった。もしかしてお前も仲間なの?
「では、後はグループ行動。破目を外し過ぎないように」
菅原先生はそう言って俺たちを送り出し、いそいそと次のグループの引率に向かった。これを四回くらい繰り返すらしいんだけど、先生はなんか嬉しそうだ。
昔を思い出すんだろうな、きっと。嫌な奴らもいないしね。
で、次のグループが出てくるのを待って、希望先で、幾つかに別れてまとまって引率の先生に着いていく。
俺たちは歴史オタクな水本がリクエストしたので、伏見方面へ。立花先生に引率してもらって、伏見城を見て、お稲荷さんの総本山に参拝。
それから本能寺や新撰組の屯所のあった壬生や寺田屋を巡った。男子ばかりかと思ったら、女子も結構いて、蘊蓄に花を咲かせていた。うちの学校にもいたんだな、歴女。
色部と清原達は市の中心部の神社や寺を巡る平安ロマンをご所望。やっぱり圧倒的に女子が多いなか、紀本や深草、山部はこっちに残った。引率は勿論、古文の小野崎先生。
隣のクラスは今日、先に宇治や太秦を回る予定になっていた。
「面白かったよな~、やっぱり」
歴史オタクの水本、ご満悦。俺は歴史は得意じゃないけど、立花先生の石垣の傾斜角とかの話は面白かったし、伏見稲荷の千本鳥居は圧巻だった。
「こっちも良かったわよ」
色部や清原達は市内の寺社巡りで、お抹茶や和菓子の振る舞いを受けたり、大原あたりまで足を伸ばしたらしい。
夕飯が終わってからは男子どおしで、部屋でだべっていた。もちろん枕投げもした。
俺の部屋は俺と水本、それに大伴と柿本、山部の五人。みんな同じ中学校から上がった気のおけない連中だから、楽しく夜を過ごせるはずだった。
けれど......
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる