31 / 50
二 通小町
いにしえの......(二)
しおりを挟む
「コマチ、本当にもう大丈夫なのか?」
.「うん。大丈夫。完璧だぜ」
明日香村では散々だったけど、あの母子と会ってからは絶好調になった俺。
水本はあれから心配してすぐに戻ってきてくれたし、清原と色部も見学を早目に切り上げて俺の様子を見に来てくれた。結構、優しいんだよね、こいつら。
で、俺たちは、夕飯のあと、ロビーで小野崎先生と地学の長柄先生の特別授業。
万葉集や古事記、日本書紀の時代についてのお話を伺った。
実は結構好きな奴がいるらしくて、長柄先生には古墳好きな奴らが群がり、小野崎先生は万葉集にロマンを感じる女子に質問攻めに会ってた。
長柄先生は出身が奈良で考古学専攻ということで、古代の話はめっちゃ詳しい。
古代は古墳の墳丘の上で祖先祭祀をしたりしていて、死後の世界の概念は仏教伝来以後とまったく違うんだって。
ーだから、奈良、大和の地には古い、もう形も無い御霊がずっといるんだー
って小野崎先生がぼやいていた。
本人達は子孫を見守っているつもりだし、成仏という概念が無いから、『そのまんま』なんだって。
つまり管轄外ってわけね。
ちなみに日本史の平野先生は一年生の担任を持っているので、今回は不参加。
『どうも京都には来たくないらしい』
と、こっそり小野崎先生が言っていた。そりゃあ、平将門は三条河原に首を晒されているから、いい印象無いんだろうな。わかるけど。
気になったので首を巡らせると、深草くんは女子と万葉集の話をしていた。
俺がホッとしてふっと外を見ると......。
『お兄ちゃん♪』
昼間の男の子、すなわち小野崎先生いわくの他戸親王さまが、ガラス越しに手を振っていた。
俺はギョッとして、一瞬固まったけど、失礼のほうがヤバそうなんで、こっそり外に出て、男の子に近づいた。
「昼間はありがとう。こんな遅くにどうしたの?」
いくら御霊とは言え、小さい子どもが夜一人歩きなんていけません。
「母上がね、お兄ちゃんのこと心配して、様子を見てきなさいって」
やはりにっこにこの愛らしい笑顔で言う。とても怨霊とは思えない。
「ありがとう。もう大丈夫です。あ、ちょっと待っててね」
俺はデイバックに入れていたオヤツのグミとチョコレートを男の子に手渡した。
「くれるの?」
「昼間のお礼...。こんなものしかないけど」
「ありがとう」
再びキラッキラの笑顔で答える男の子。可愛いわ、ほんと。
「コマチ、どうした?」
とそこに顔を出す水本と腐才女コンビ。
「あら、可愛い。コマチ君の知り合い?」
お前らにも見えてるのね、俺はちょっと安心して、昼間助けてもらった、ってだけ言った。
「本当に?ありがとうね!」
水本や腐才女からもクッキーやら飴やらのお菓子のプレゼントを両手いっぱいに抱えて、親王さま、本当に嬉しそう。
「ありがと。みんな気をつけて行ってね。あ、お兄ちゃん、あれは後で燃やしてね」
べこりんと可愛くお辞儀しつつ、俺にこっそり耳打ちして、手を振って、男の子は闇の中に走っていった。遠くにほんの小さく光りが見えたから、皇后さま、お迎えに来たのね。
「可愛いかったわね」
「理想のショタだわ。弟に欲しいくらい」
色部、お前、親王さまになんてことを。祟られる前に不敬罪で捕まるぞ。
きゃいきゃいはしゃぐ女子達の後ろで、小野崎先生は再び硬直していた。
「女は強い......」
今さらですよ、先生。
いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に にほひぬるかな
(伊勢大輔 百人一首 第61番)
.「うん。大丈夫。完璧だぜ」
明日香村では散々だったけど、あの母子と会ってからは絶好調になった俺。
水本はあれから心配してすぐに戻ってきてくれたし、清原と色部も見学を早目に切り上げて俺の様子を見に来てくれた。結構、優しいんだよね、こいつら。
で、俺たちは、夕飯のあと、ロビーで小野崎先生と地学の長柄先生の特別授業。
万葉集や古事記、日本書紀の時代についてのお話を伺った。
実は結構好きな奴がいるらしくて、長柄先生には古墳好きな奴らが群がり、小野崎先生は万葉集にロマンを感じる女子に質問攻めに会ってた。
長柄先生は出身が奈良で考古学専攻ということで、古代の話はめっちゃ詳しい。
古代は古墳の墳丘の上で祖先祭祀をしたりしていて、死後の世界の概念は仏教伝来以後とまったく違うんだって。
ーだから、奈良、大和の地には古い、もう形も無い御霊がずっといるんだー
って小野崎先生がぼやいていた。
本人達は子孫を見守っているつもりだし、成仏という概念が無いから、『そのまんま』なんだって。
つまり管轄外ってわけね。
ちなみに日本史の平野先生は一年生の担任を持っているので、今回は不参加。
『どうも京都には来たくないらしい』
と、こっそり小野崎先生が言っていた。そりゃあ、平将門は三条河原に首を晒されているから、いい印象無いんだろうな。わかるけど。
気になったので首を巡らせると、深草くんは女子と万葉集の話をしていた。
俺がホッとしてふっと外を見ると......。
『お兄ちゃん♪』
昼間の男の子、すなわち小野崎先生いわくの他戸親王さまが、ガラス越しに手を振っていた。
俺はギョッとして、一瞬固まったけど、失礼のほうがヤバそうなんで、こっそり外に出て、男の子に近づいた。
「昼間はありがとう。こんな遅くにどうしたの?」
いくら御霊とは言え、小さい子どもが夜一人歩きなんていけません。
「母上がね、お兄ちゃんのこと心配して、様子を見てきなさいって」
やはりにっこにこの愛らしい笑顔で言う。とても怨霊とは思えない。
「ありがとう。もう大丈夫です。あ、ちょっと待っててね」
俺はデイバックに入れていたオヤツのグミとチョコレートを男の子に手渡した。
「くれるの?」
「昼間のお礼...。こんなものしかないけど」
「ありがとう」
再びキラッキラの笑顔で答える男の子。可愛いわ、ほんと。
「コマチ、どうした?」
とそこに顔を出す水本と腐才女コンビ。
「あら、可愛い。コマチ君の知り合い?」
お前らにも見えてるのね、俺はちょっと安心して、昼間助けてもらった、ってだけ言った。
「本当に?ありがとうね!」
水本や腐才女からもクッキーやら飴やらのお菓子のプレゼントを両手いっぱいに抱えて、親王さま、本当に嬉しそう。
「ありがと。みんな気をつけて行ってね。あ、お兄ちゃん、あれは後で燃やしてね」
べこりんと可愛くお辞儀しつつ、俺にこっそり耳打ちして、手を振って、男の子は闇の中に走っていった。遠くにほんの小さく光りが見えたから、皇后さま、お迎えに来たのね。
「可愛いかったわね」
「理想のショタだわ。弟に欲しいくらい」
色部、お前、親王さまになんてことを。祟られる前に不敬罪で捕まるぞ。
きゃいきゃいはしゃぐ女子達の後ろで、小野崎先生は再び硬直していた。
「女は強い......」
今さらですよ、先生。
いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に にほひぬるかな
(伊勢大輔 百人一首 第61番)
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる