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一 奥の細道
夏草や......(一)
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義雄さんは、それは若くてカッコいい義経っぽいイケメンだけど、藤原さん。
名字も違うし、なんか源氏と関わりなさそうなんだけど。
「義経は鞍馬山を出てから、奥州藤原氏に身を寄せた。頼朝に逐われるようになって、再び藤原氏を頼った。藤原秀衡は義経を実の息子以上にかわいがっていたそうだ」
だから藤原さん家に生まれたの?元の自分の家じゃなくて?
「義経の牛若丸は父親が死んだとき、まだ一歳にもなってない。顔も知らない父親より、大事にしてくれた秀衡を父親のように思ってたんじゃない?」
さらっと言う、歴史オタ水本。だから、慕っていた秀衡さんの本当の息子になりたくてさっさと生まれ変わったわけね。じゃあ頼朝はどうすんの?てのは余計なお世話だね。
「それより、菅生に連絡」
「おぉ、忘れてた」
俺が水本に促されてラインを入れると、ソッコーで返事が返ってきた。親父さんの車で北上してて、もうすぐ岩手と宮城の県境を超えるとこだって。もう少しかかりそう。
かなり高速ぶっ飛ばしてるな。捕まらないでよね。
「ここです」
車が到着したところは......旅館というよりホテルみたいに立派でデカかった。義雄さんは、菅生のお姉さん......静さんを支えるようにして気遣いながら、中に入った。
すぐにロビーに社長らしき人が来て、俺たちに、応対してくれた。貫禄のある落ち着いた雰囲気の大物感たっぷりの社長は、訳を話すと快く、空いていた一番いい部屋に案内してくれた。
いただいた社長の名刺の名前は、言うまでもなく、藤原秀雄さんだった。なんか社長、義雄さんを目のなかに入れても痛くないほど可愛いかんじ。二人とも念願叶って良かったね。
松尾のじいちゃんいわく、藤原さんはこの辺一帯の大地主でリゾート施設とか幾つも持ってる地元の名士なんだって。義雄さんは、その跡取り息子。
一慶さんは義雄さんの大学の先輩で、今はこの旅館の番頭さん。
『京都の実家は兄貴が継ぐから、俺は自由』
とか言って、義雄さんについてきてしまったらしい。まあ、昔から義経さん命でしたからね、弁慶さん。
とりあえず、菅生のお姉さん、静さんは少し横になっていてもらい、義雄さんに面倒をお願いした。
積もる話もあるでしょうからね。野暮はしません。
「それじゃ、俺が少し観光案内でもしてやるか」
って松尾のじいちゃん。
車を使うほどの距離でも無いって、結構歩かされた。健脚なのね、六十過ぎてるくせに。
で、案内された覆い堂の中中尊寺金色堂は本当に金ぴかだった。須弥壇の下のところにミイラが安置されている話にはドキッとしたけど、よっぽど故郷を愛していたんだね。
頼朝の軍勢に滅ぼされた藤原氏の館跡は今は大きなお寺になっている。庭もすんごい広くて、よく手入れしてある。所々にでっかい石が置かれていて、じいちゃんのいわく、中国の山水図を模倣して作られた庭なのだそうだ。約千年も前から、ほぼまんまなお庭。文化レベル高かったのね。
「まぁ、過ぎてしまえば夢のようなもんだけどな......」
松尾のじいちゃん、遠い眼差し。
知ってます。有名な俳句ありますもんね。
じいちゃんの奢りで昼御飯に山菜天婦羅大盛のざるそばを食べた。超美味くて、するする喉を通っていく。
「椀子そばも結構いけそうだな」
ってニコニコしながらじいちゃんが、座敷の方を指差す。そこには、テーブルいっぱいに朱塗りのお椀が重なっていて、その奥に座った体格のいい兄ちゃんが、お姉さん達がほいほいお椀に足すソバを絶え間なく掻き込んでいる。よく喉に詰まらないな。感心するわ。
「それは無理。あんなに焦って食べてたら味わかんないじゃん」
なっ、水本。
ウンウンと頷く親友と俺をじいちゃんは嬉しそうに見比べている。ちなみに小野崎先生と牛頭さん、馬頭さんは別行動。車で待ってる、と言ってさっさと何処かへ行った。
「あ、そうだ。駒治くん、貞佳が夕方、盛岡に迎えに来るて。久しぶりに父さんの家に泊まったらどうだ。お友達も一緒に」
「え?父さん、忙しいんじゃないの?」
「それはほれ、可愛い息子に会えるんだ、多少の無理は平気だろう」
正直、俺、あの人苦手なんだよね。ムッキムキのガテン系でさ。筋肉凄いの。腹筋なんか見事に割れてて、俺とは大違い。
「考えとく」
って店を出たら、見覚えのあるランクルがいた。
「平野先生?」
「おう!」
と朗らかに手を上げる平野先生。白い歯が眩しい。けどなんか顔色良くないよ。
「首尾は?」
「上々だ」
「じゃあ宿に戻ろうか」
小野崎先生の言葉に俺たちは車に乗り込む。
松尾のじいちゃんは、なぜか平野先生と一緒。
「まだ吹っ切れんのか?お前さんもヘタレじゃなあ」
車に乗り際に、松尾のじいちゃんが平野先生に一言。え、じいちゃん、その人平将門だよ?
でも、平将門な平野先生てば、なんか申し訳なさそう。
「なかなか割りきれなくて......」
その先の会話は別な車だから分からなかったけど、まぁ古い知り合いなのね、分かった。
名字も違うし、なんか源氏と関わりなさそうなんだけど。
「義経は鞍馬山を出てから、奥州藤原氏に身を寄せた。頼朝に逐われるようになって、再び藤原氏を頼った。藤原秀衡は義経を実の息子以上にかわいがっていたそうだ」
だから藤原さん家に生まれたの?元の自分の家じゃなくて?
「義経の牛若丸は父親が死んだとき、まだ一歳にもなってない。顔も知らない父親より、大事にしてくれた秀衡を父親のように思ってたんじゃない?」
さらっと言う、歴史オタ水本。だから、慕っていた秀衡さんの本当の息子になりたくてさっさと生まれ変わったわけね。じゃあ頼朝はどうすんの?てのは余計なお世話だね。
「それより、菅生に連絡」
「おぉ、忘れてた」
俺が水本に促されてラインを入れると、ソッコーで返事が返ってきた。親父さんの車で北上してて、もうすぐ岩手と宮城の県境を超えるとこだって。もう少しかかりそう。
かなり高速ぶっ飛ばしてるな。捕まらないでよね。
「ここです」
車が到着したところは......旅館というよりホテルみたいに立派でデカかった。義雄さんは、菅生のお姉さん......静さんを支えるようにして気遣いながら、中に入った。
すぐにロビーに社長らしき人が来て、俺たちに、応対してくれた。貫禄のある落ち着いた雰囲気の大物感たっぷりの社長は、訳を話すと快く、空いていた一番いい部屋に案内してくれた。
いただいた社長の名刺の名前は、言うまでもなく、藤原秀雄さんだった。なんか社長、義雄さんを目のなかに入れても痛くないほど可愛いかんじ。二人とも念願叶って良かったね。
松尾のじいちゃんいわく、藤原さんはこの辺一帯の大地主でリゾート施設とか幾つも持ってる地元の名士なんだって。義雄さんは、その跡取り息子。
一慶さんは義雄さんの大学の先輩で、今はこの旅館の番頭さん。
『京都の実家は兄貴が継ぐから、俺は自由』
とか言って、義雄さんについてきてしまったらしい。まあ、昔から義経さん命でしたからね、弁慶さん。
とりあえず、菅生のお姉さん、静さんは少し横になっていてもらい、義雄さんに面倒をお願いした。
積もる話もあるでしょうからね。野暮はしません。
「それじゃ、俺が少し観光案内でもしてやるか」
って松尾のじいちゃん。
車を使うほどの距離でも無いって、結構歩かされた。健脚なのね、六十過ぎてるくせに。
で、案内された覆い堂の中中尊寺金色堂は本当に金ぴかだった。須弥壇の下のところにミイラが安置されている話にはドキッとしたけど、よっぽど故郷を愛していたんだね。
頼朝の軍勢に滅ぼされた藤原氏の館跡は今は大きなお寺になっている。庭もすんごい広くて、よく手入れしてある。所々にでっかい石が置かれていて、じいちゃんのいわく、中国の山水図を模倣して作られた庭なのだそうだ。約千年も前から、ほぼまんまなお庭。文化レベル高かったのね。
「まぁ、過ぎてしまえば夢のようなもんだけどな......」
松尾のじいちゃん、遠い眼差し。
知ってます。有名な俳句ありますもんね。
じいちゃんの奢りで昼御飯に山菜天婦羅大盛のざるそばを食べた。超美味くて、するする喉を通っていく。
「椀子そばも結構いけそうだな」
ってニコニコしながらじいちゃんが、座敷の方を指差す。そこには、テーブルいっぱいに朱塗りのお椀が重なっていて、その奥に座った体格のいい兄ちゃんが、お姉さん達がほいほいお椀に足すソバを絶え間なく掻き込んでいる。よく喉に詰まらないな。感心するわ。
「それは無理。あんなに焦って食べてたら味わかんないじゃん」
なっ、水本。
ウンウンと頷く親友と俺をじいちゃんは嬉しそうに見比べている。ちなみに小野崎先生と牛頭さん、馬頭さんは別行動。車で待ってる、と言ってさっさと何処かへ行った。
「あ、そうだ。駒治くん、貞佳が夕方、盛岡に迎えに来るて。久しぶりに父さんの家に泊まったらどうだ。お友達も一緒に」
「え?父さん、忙しいんじゃないの?」
「それはほれ、可愛い息子に会えるんだ、多少の無理は平気だろう」
正直、俺、あの人苦手なんだよね。ムッキムキのガテン系でさ。筋肉凄いの。腹筋なんか見事に割れてて、俺とは大違い。
「考えとく」
って店を出たら、見覚えのあるランクルがいた。
「平野先生?」
「おう!」
と朗らかに手を上げる平野先生。白い歯が眩しい。けどなんか顔色良くないよ。
「首尾は?」
「上々だ」
「じゃあ宿に戻ろうか」
小野崎先生の言葉に俺たちは車に乗り込む。
松尾のじいちゃんは、なぜか平野先生と一緒。
「まだ吹っ切れんのか?お前さんもヘタレじゃなあ」
車に乗り際に、松尾のじいちゃんが平野先生に一言。え、じいちゃん、その人平将門だよ?
でも、平将門な平野先生てば、なんか申し訳なさそう。
「なかなか割りきれなくて......」
その先の会話は別な車だから分からなかったけど、まぁ古い知り合いなのね、分かった。
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