11 / 50
一 奥の細道
浅茅生の......(三)
しおりを挟む
と、ギュッと目を瞑る俺の頭上に鋭い叫び声が上がった。
「止めて!お母さん!......もう止めて!」
婆ぁが声に振り返る。俺はのし掛かっていた体を跳ね除けた。
婆ぁが篠原の方に向かってヨロヨロ歩き出した。
「バカ、篠原、危ねぇぞ!来んな!逃げろ!」
俺は必死で叫んだ。が、篠原は動かない。んで、泣いてる。ボロボロ涙を溢して、泣いてる。
「お母さん、もう止めて!お願い!」
お母さん.......て。
思った途端に、景色がもう一度ふぉんと揺れた。篠原が着物姿になった。髪も長い。
固まる婆ぁの口が小さく動いた。
『お加代......?』
『そうじゃ、お前の娘じゃ。姥よ』
見上げると、正装姿の小野崎先生こと#小野篁__おののたかむら___#マジなお姿で厳かにのたまう。
『嘘だ......ワシが、ワシが殺めてしもうたんじゃ。旅の者と間違うて......』
『違うわ。私はここにいる。お母さん......だから人殺しなんか、もう止めて』
篠原じゃない篠原が、涙をいっぱい流しながら叫ぶ。
婆ぁの手から包丁がぽろっと落ちて......。おぼつかない足取りで篠原の方に歩み寄る。
『加代......お加代?』
『そうよ、お加代よ。母さん......お母さん!』
婆ぁは篠原に抱きつき、篠原も婆ぁにしがみついて、おんおん泣き始めた。
泣いて、泣いて.......。
呆然としている俺の目の前で婆ぁは砂が崩れるように消えて......篠原がその場に崩れ落ちた。
「篠原!?」
俺は急いで篠原を抱き抱え......そしたら、景色がふいに元に戻った。
見回すと、ぐったりしている他二名の女子に水本が水を飲ませてた。
篠原もうっすら目を開けた。
「大丈夫か?」
「小野......くん?」
なんとか起き上がろうとする篠原はTシャツとGパン姿に戻っていた。
「私たち助かったの?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
平野先生がにっこり笑う。安心感ありますね、先生。
「さぁ、帰ろう」
女子達は、菅原先生と馬頭さんの運転するステーション・ワゴンに。俺たちと小野崎先生は、平野先生のランクルに乗り込む。
きっとあっちの車では菅原先生がお説教だな、うん。
それにしても......。
「なんなんですか?あの異空間?」
水本、お前、直球だな。
「とあるきっかけで異層の空間が開くことがある」
と#小野崎先生__ごせんぞさま__#。
今回のきっかけは篠原なんだって。
「娘の母を思う気持ちが、時空と時を超えた」
篠原はあの婆ぁの娘の転生なんだって。心配で成仏できずに転生を繰り返してた。だから......。
「時が来たんだ」
と平野先生。
「今回は水本が来てくれて助かった」
婆ぁに俺が追い詰められてたとき、水本と平野先生は気絶している二人をあの家から運び出した。でないと、二人とも異空間に閉じ込められたままになるところだったんだそうだ。怖い......。
いわゆる神隠しって、そういうのもあるらしい。
「でも、みんな無事でよかったよ」
俺は、篠原のお母さんが涙でぐしゃぐしゃになりながら、篠原を抱きしめてるのを見て、つくづくそう思った。
「加代子、加代子ぉ....」
って、篠原のお母さん、本当に心配してたんだな。それも愛ってヤツなんだな。
そして、過去世の篠原も母親を愛していた。
「愛って深いわぁ......」
「コマチ、病気か?」
違うわ!
それに、俺はコ・マ・ハ・ル!
水本の脛を思いっきり蹴る俺の傍らで、沢山の星が瞬いていた。
お前も今日は家に帰れよ、水本。親父さん、帰ってんだろ?
浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき
(参議等 百人一首 39番 『後撰集』恋・578)
「止めて!お母さん!......もう止めて!」
婆ぁが声に振り返る。俺はのし掛かっていた体を跳ね除けた。
婆ぁが篠原の方に向かってヨロヨロ歩き出した。
「バカ、篠原、危ねぇぞ!来んな!逃げろ!」
俺は必死で叫んだ。が、篠原は動かない。んで、泣いてる。ボロボロ涙を溢して、泣いてる。
「お母さん、もう止めて!お願い!」
お母さん.......て。
思った途端に、景色がもう一度ふぉんと揺れた。篠原が着物姿になった。髪も長い。
固まる婆ぁの口が小さく動いた。
『お加代......?』
『そうじゃ、お前の娘じゃ。姥よ』
見上げると、正装姿の小野崎先生こと#小野篁__おののたかむら___#マジなお姿で厳かにのたまう。
『嘘だ......ワシが、ワシが殺めてしもうたんじゃ。旅の者と間違うて......』
『違うわ。私はここにいる。お母さん......だから人殺しなんか、もう止めて』
篠原じゃない篠原が、涙をいっぱい流しながら叫ぶ。
婆ぁの手から包丁がぽろっと落ちて......。おぼつかない足取りで篠原の方に歩み寄る。
『加代......お加代?』
『そうよ、お加代よ。母さん......お母さん!』
婆ぁは篠原に抱きつき、篠原も婆ぁにしがみついて、おんおん泣き始めた。
泣いて、泣いて.......。
呆然としている俺の目の前で婆ぁは砂が崩れるように消えて......篠原がその場に崩れ落ちた。
「篠原!?」
俺は急いで篠原を抱き抱え......そしたら、景色がふいに元に戻った。
見回すと、ぐったりしている他二名の女子に水本が水を飲ませてた。
篠原もうっすら目を開けた。
「大丈夫か?」
「小野......くん?」
なんとか起き上がろうとする篠原はTシャツとGパン姿に戻っていた。
「私たち助かったの?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
平野先生がにっこり笑う。安心感ありますね、先生。
「さぁ、帰ろう」
女子達は、菅原先生と馬頭さんの運転するステーション・ワゴンに。俺たちと小野崎先生は、平野先生のランクルに乗り込む。
きっとあっちの車では菅原先生がお説教だな、うん。
それにしても......。
「なんなんですか?あの異空間?」
水本、お前、直球だな。
「とあるきっかけで異層の空間が開くことがある」
と#小野崎先生__ごせんぞさま__#。
今回のきっかけは篠原なんだって。
「娘の母を思う気持ちが、時空と時を超えた」
篠原はあの婆ぁの娘の転生なんだって。心配で成仏できずに転生を繰り返してた。だから......。
「時が来たんだ」
と平野先生。
「今回は水本が来てくれて助かった」
婆ぁに俺が追い詰められてたとき、水本と平野先生は気絶している二人をあの家から運び出した。でないと、二人とも異空間に閉じ込められたままになるところだったんだそうだ。怖い......。
いわゆる神隠しって、そういうのもあるらしい。
「でも、みんな無事でよかったよ」
俺は、篠原のお母さんが涙でぐしゃぐしゃになりながら、篠原を抱きしめてるのを見て、つくづくそう思った。
「加代子、加代子ぉ....」
って、篠原のお母さん、本当に心配してたんだな。それも愛ってヤツなんだな。
そして、過去世の篠原も母親を愛していた。
「愛って深いわぁ......」
「コマチ、病気か?」
違うわ!
それに、俺はコ・マ・ハ・ル!
水本の脛を思いっきり蹴る俺の傍らで、沢山の星が瞬いていた。
お前も今日は家に帰れよ、水本。親父さん、帰ってんだろ?
浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき
(参議等 百人一首 39番 『後撰集』恋・578)
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる