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一 奥の細道

浅茅生の......(一)

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 相変わらず暑い。

 じいちゃんの家は古い造りなんで、縁側の戸を開け放して風が入るようにしてあるんだけど、それでも暑い。

 今日は特に風が無いから、服がべったり貼り付くようだ。

 俺は水本と牛頭さん、馬頭さんと、追試に向けて特訓中。

......にしても、よくよく思うんだけど、

「恋の歌、多いよな。和歌って......みんな、そんなに暇だったのかな」

 馬頭さん、思わず苦笑い。

「暇な訳じゃありませんよ。見たでしょ?恋とは、状況に関わらずしてしまうもんなんですよ」

「そうそう、戦国武将なんて暇な訳ないじゃん」

 水本が大きく頷く。佐竹氏やら奥州の合戦年表見せられて唸る俺。びっちりじゃん。しかも一年の間にあっちだのこっちだの。超ご多忙。

「まぁ、文字摺の方とか蘆名公はあまり問題無い方々なんですよ」

 まぁね、両想いだし。
 でもホント昔は遠距離恋愛は大変だな。ライン無いし、新幹線も飛行機も無い。会うの大変だよな。

「でも、人の思いは恋愛だけじゃないですからね。親子の情愛を詠んでたりするのを、後の人が恋愛に解釈してるだけかもしれません」

 ふぅ~ん。ま、三十一文字しかないもんね。

「いずれにしても、人の思いだからな」

牛頭さん。ちょっと遠い目。なんか地獄で色々見てるんだろうな。深いわ。
 麦茶、お代わりちょうだい。

 というところでスマホが鳴った。発信を見ると見慣れない番号。とりあえず出る。

「もしもし......」

『あ、小野君?......教務の菅原だけど、篠原君、そっち行ってないか?』

 あ、ガッコの先生でした。怖~い風紀の菅原先生。担当は倫理社会。らしすぎる。

「来てませんよ。なんかあったんですか?」

『家に帰って無いんだそうだ。お母さんから電話があった』

 家に帰って無いって......ふぃっと時計を見るともう十一時、夜中です。都会と違ってド田舎のここじゃ、十一時なんて真っ暗。どこの店も開いてない。マクドなんかも無いし。

「街場行って、帰れなくなってんじゃないすか?」

 あり得る。駅で夜明かし。

『篠原君は真面目な子だ。連絡くらいするはずだ』

あ、スマホ持ってるよね?普通。篠原、女の子だし。ヤバくね?

『クラスの連中と肝試し行くって言ってたらしい。......心当たりないか?』

 肝試しって.....この辺、夜遅く歩くのって、まんま肝試しだけど。

「あ、黒塚!」

 水本が叫ぶ。安達ヶ原の鬼婆ってヤツ?あれ、伝説でしょ。

「そうとも言えんぞ。......牛頭車出せ!二本松だ」

 あれ?どっから現れたの?小野崎先生ごせんぞさま

 なんかヤバい案件?行ってらっしゃい。

「お前も来い!馬頭もだ」

 なんで?あ、人手いるか、救出係。怖いんだけど......。

「僕も行きます!」

て、水本。お前、怖いもん知らないね。
 うん、とか頷かないの、先生。顔がマジ過ぎて怖い。

「早くしろ!」

 あれ?平野先生まさかどさんもなの?仲良しだね。
デッカいランクル、似合ってますね。
......て、言ってる間もなく、車に引き摺り込まれる俺たち。
 戸締まりは~?

「済ませました」

って馬頭さん、そこでファンタジーしなくていいからあぁ~!




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