転生・小野小町(♂)の受難~DK 冥官修行録~

葛城 惶

文字の大きさ
上 下
6 / 50
一 奥の細道

みちのくの......(二)

しおりを挟む
「一般道でいいですよね」
 
 と言う牛頭さんにふぅむと軽く頷く、ナビゲーションシートの平野先生まさかどさん

「まぁ大して変わらんからな」

 片手には何故かスマホ。で、誰かにメールしてる。なんだか今ドキに馴染み過ぎてて、とっても違和感なんですけど。

「何処に行くんですかぁ?」

と訊く俺に、なんだかワクワクでナビを凝視する水本。

「北に向かってますよね?何処まで行くんですか?仙台ですか?」

「それはさすがに遠すぎるだろう。朝から出ないと無理だよ」

 バックミラー越しに苦笑いの牛頭さん。本当にこうして見ると、普通の大学生の好青年に見えるから不思議。馴れてんのかな、化けるの。

 見慣れた道の傍ら、西側前方にちょっと小高い山が見えてくる。

「あ、わかった!」

 いきなり座席から乗り出す水本。どぅしたんだお前?!

「文字摺観音ですね?!」

「正解」

 ぴっ、と親指を立てる平野先生まさかどさん。イメージ壊れるから止めて。似合うけど。

「文字摺観音て、何?」

「百人一首の歌枕の地だよ。松尾芭蕉や正岡子規も訪れた有名な場所だ」

 にっこり笑う平野先生まさかどさん。あ、嫌な予感。


「さぁ着いたぞ」

 一時間半程のドライブで行き着いたのは由緒のありそうなお寺。
 その門前に真っ白なポロシャツとスラックス姿で優雅に佇む紳士が約一名。
 嫌な予感、的中です。

「早かったね」

「まぁな」

 然り気無く俺たちを迎え入れたのは、他の誰でもなく、小野崎先生。つまりは御先祖、小野篁おののたかむら様。

「じゃあ行こうか」

 俺たちを軽やかな足取りで案内する背中にめっちゃ圧を感じるのは俺だけですか?


 
 で、辿り着いたのは境内の涼しげな木陰に置かれた結構な大きさの石の前。

「これが文字摺石だよ」

 と、小野崎先生ごせんぞさま

 先生のレクチャに寄れば、京都から赴任していた都の役人、源融みなもとのとおると土地の長者の娘、虎御前の悲恋の地なんだそう。

 恋に落ちた源融みなもとのとおると虎御前は両想いだったんだけど、とおるは都に帰らなきゃならなくなって、別れ別れ。

 もう一度会いたい一心で虎御前が願を掛けたのがこの石で、なんと虎御前が必死で祈ったらとおるの顔が浮かび上がった。けど、虎御前は病気で亡くなって会えず終い。

 その病床に亡くなる直前に届けられたとおるの歌が、百人一首の歌なんだって。

「両想いだったんだけど、融の地位がふたりを引き裂いたようなもんだな」

と、平野先生まさかどさん。確かに京都とここじゃ遠すぎるよな。



「でも、無事に再会出来て良かったな......」

 えっ?

 ふと水本の方を見ると、愛おしそうに石を撫でてる。
 なんでお前、泣いてんの?

ーまさか......ー

 チラっと、小野崎先生ごせんぞさまを見ると、小さな声で耳打ち。

「見えるだろう?」

 その指先では薄ボンヤリと古めかしい着物を着た女の人が水本の背中を抱いていた。
 そして......ふと気がついたようにこちらを見ると、にっこり笑って、そして消えた。

「逝けたようだな.....」

 ポツリ、と平野先生まさかどさん
 てことは、水本は......。
 
源融みなもとのとおるの転生、分け御霊だー
 
 こっくり頷く、小野崎先生ごせんぞさま。頼むから直接頭に話し掛けるの止めて。

ーつまりは、こういうことだー

 そ、そうですか。じゃ終わったら帰りましょうよ。水本もスッキリしたみたいだし。



「いや、まだだな」

 突然、平野先生まさかどさんの顔が険しくなる。水本が俺達の方に来た、その背後の石をじっと睨んでる。

「何者だ?」

『その方ら、我れが見えるのか?』

 じぃっと目を凝らすと大河ドラマの若侍みたいな格好の人がひとり。でも、すんげぇ美人。いや男なんだろうけど.....。

『我れにも、如何にしても会いたき御仁がおる。......此れにて願を掛ければ会えると聞いた』

 頭の中に響いてくる声もめっちゃ美声。ちょっと高めだけど。

 小野崎先生ごせんぞさまが静かに語り掛ける。

「御名は?」

蘆名盛隆あしなもりたか......』

「では逢いたいと申されるは.....」

『常陸介殿に......』

小野崎先生ごせんぞさまと、平野先生まさかどさん、顔を見合せて、静かに頷いた。

よし、して寄り代は如何に?」

 平野先生まさかどさんが言うと、若侍はふうっと消えて、石の陰からひょっこりと白い塊が顔を出した。

 え?ウサギ?

「連れておいで」

 小野崎先生ごせんぞさまに言われて、そーっと近づくと、ぴょこっと腕の中に飛び込んできた。

 何これ?めっちゃ可愛い。でも......

「近いうちに、常陸だな」

って、勝手に予定組まないで。


 ちなみに水本は寺でのことは何も覚えていないらしく......。

「え?これ何処にいたの?可愛い!」

と帰りの車の中で、ひたすら若侍の兎を撫で回していた......。




 


陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに

(河原左大臣(源融みなもとのとおる) 百人一首 第14番 『古今集』恋四・724)


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

このブラジャーは誰のもの?

本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。 保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。 誰が、一体、なんの為に。 この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...