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一 奥の細道

みちのくの... (一)

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 今日も暑い。
 こういう日はやっぱり『そうめん』だよね。
 牛頭あかさんが昼飯に呼びに来たんで行ってみたら、氷水に締めた美味そうなそうめん......ではなく冷や麦だった。
 色つきの麺が珍しくて、そっちにしたらしい。まぁいいけど。
 

「宿題は終わったんですか?」

 馬頭あおさんが、つるるんと器用に麺を啜りながら言う。

「高校に宿題は無いよ」

 みんな受験を控えて、夏期講習とかインターハイ前の部活の合宿とかで忙しい。

「俺は帰宅部だから気楽だけどね」

『そうはいかん』

 て誰よ。その野太い声でわかるけどね。
 ざくざくと雑草踏んで、庭の奥から平将門たいらのまさかどもとい平野先生が片手にスイカを下げてご登場。

『土産じゃ』

 気が利いてるじゃん、先生。

『そこの農協で買ってきたから心配ないぞ』

 お気遣いどうも。地産地消は大事です。先生の冷気でよく冷えてるし。

「切ってきますね」

と座を立った馬頭あおさんの代わりにどっかり座り込み、冷や麦に手を伸ばす平野先生まさかどさん

「あ、新しい器ありますよ」

牛頭あかさんからきれいな蕎麦猪口を受け取って、まずは一口。

「ほぅ、美味いのう」

「もう少し茹でますか?」

と言う牛頭あかさんに、『それには及ばん』とのたまいながら、赤いのや緑色の麺を珍しそうに啜り込む。

 こっちでの食事どうしてんのよ?と思ったらコンビニ弁当か外食なんだって。学校の斜め前のお蕎麦屋さんがご贔屓らしい。

『勉強は進んでるか?』

 ちーっともです、先生。だって興味無いから、全然頭に入ってこないんです。

『仕方ないのぅ......』

 深~い溜め息。
 と、表の玄関の辺りに人の気配。



「こっちにいま~す!」

「あ、いた!」

 俺の叫びに答えて、庭石踏んで走り寄ってきたのは、親友の水本。あれ?今日お前、バスケの練習は?

「今日、練習休みだから遊びに来た。......あれ、平野先生?」

「よぅ、水本。お前も食うか?」

 目をまん丸する水本にニッカリ笑い、縁側にどっかと座って、スイカをカプつく平野先生まさかどさん

「どしたんですか?先生。......あれ、コマチ、そっちの人達は?」

「あ、あぁ、じいちゃんのお弟子さん。牛尾さんと馬込さん。家の留守番頼んだんだって」

「駒治くんの家庭教師もね」

しどろもどろになる俺を馬頭あおさんがにっこり笑ってフォロー。うん、イケメンな爽やか笑顔。地獄の鬼とは思えません。ー実は地獄でも若いお姉さんの亡者に人気なんだって。まあ、わかる。

「家庭教師って......あ、お前、日本史ボロボロだもんな。俺が教えてやったのに」

 ひょいとスイカを一切れ掴んで頷く、悪友。

「だってお前、教えるって言いながら、ゲームの話ばっかだったじゃんか」

 そう、実はコイツ、歴史オタクで平野先生まさかどさんとは大の仲良し。歴史シミュレーション・ゲームにハマってて、来るたんびに『推し』を熱く語るんだけど、俺にはイミフ。

「そんなこと無ぇよ。この辺が小野小町の出身地だから、コマチの家があるんだって、教えたろう?」

「伝説じゃねぇか、それ」

 そういう伝説はあるけど、こんなド田舎に絶世の美女なんかいるわけないじゃん。まあ、和泉先輩は別格だけど。

 俺たちのやり取りを聞いてた平野先生、ははは......と豪快に笑って立ち上がった。

「せっかく水本もいるんだ。校外学習にでも行くか?」

「校外学習?どこですか?」

 キラッキラに目を輝かせる水本。本当にお前、歴史好きだな。

「来ればわかるさ。おい、誰か車出せるか?」

「出せますよ」

平野先生まさかどさんの言葉に、サクッと車のキーをちらつかせる牛頭あかさん。

 え?運転免許持ってるの?

『教習所もあります』

って、こっそり馬頭あおさんが俺に耳打ち。
 すげぇわ、地獄。自動車教習所まであるんかい?!

「じゃあ、行ってきます」

 牛頭あかさんのハイブリッド・カーに乗り込む、俺と水本。そして平野先生まさかどさん。#馬頭__あお__#さんは留守番だって。

「夕飯作っておきます。お赤飯炊いておきますから、デビュー戦、頑張って!」

 にっこり笑ってお見送りの__#。#馬頭__あお__#さんから何やら不穏な発言が......。

 
 え、えっ?......今の何ぃ~?

 




 

 
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