(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

文字の大きさ
上 下
36 / 37

陛下、嘘でしょ?!

しおりを挟む
 目を丸くする賓客の間をレイトン先生が厳かに、皇帝陛下の前に進み出て跪く。
 
「王都学園の実践魔術教師、Dr.レイトンと申します」

「転移者か......」

 あ、知ってたのね、皇帝陛下。先生は小さく頷き話を続ける。

「先頃、辺境にダンジョンが出現しました。魔物とそれを統轄する存在も確認されております」

「知っておる」

 なんの話だ?と言いたげな陛下。

「その魔王は、ここにいるラフィアン・サイラスにしか倒せません」

「なんじゃと?」
 
 身を乗り出す陛下。そんなにまじまじ観ないで、穴空くから。

「かの魔王を倒すには秘策がいります。それはラフィアン君にしかできないのです」

 いや、そんなことは無いからね。別な異世界から取り寄せた薄い本を餌に隙をつくだけだから。でも、それは内緒。

「皇帝陛下、どうか私に討伐の命をお下しください」

 俺はレイトン先生の半歩後ろで皇帝に跪く。行かせて、お願い。部下の失態は上司の責任、後輩のミスは先輩がカバーしなくちゃいけないんです。

う~ん、と唸る皇帝陛下。

「しかし、ひとりでは無理だろう」

 お言葉はごもっともでございます。けれど、

「私達が、共に参ります」

 人の群れの中から颯爽と現れたふたつの影。

「王都第一騎士団所属、マグリット・オーウェンと申します」

「王都初級魔術師、ルートヴィヒ・ワグナーにございます」

 皇帝陛下の前で堂々と名乗りを上げるふたり、格好いいよ。

 ここで王都魔術師団長のフォロー、実はルートヴィヒのお祖父ちゃん。

「ふたりとも若輩ではございますが、技量は飛び抜けております。ルートヴィヒは私の孫ですが、知識・技術では補えない経験を積ませてやりたいと思います。同行をお許しください。」

 王都騎士団総括団長のトニー兄さんも大きく頷く。反対したら一生口きいてやらないって言ったら、すぐ折れた。わりとチョロかった。

「三人か.....」

と皇帝陛下は渋い。が、そこに想定外の声がふたつ、響いた。

「俺も行きます!俺は、ケヴィン・ターナー。ダンジョンが出来たのは俺の実家の領地。案内なら任せてください!」

「お前......」

 隣に跪いた栗毛がニヤッと笑った。

「俺が冒険者志望なの、知ってるだろ?黙って行こうなんて、ズルいぞ」
 
 そして......。

「僕もお供します。ニコル・シュタットです。物資の調達はシュタット商会にお任せください」

 ニコルの灰色の瞳がにっこり笑う。

「レイトン先生との話、聞いちゃったんだ。父も商売のツテが拡がるから大歓迎だって」


 目の前にならんだ五つの頭に陛下もふぅ、と息をついてレイトン先生を見た。

「許そう、無事を祈る」

 やった!!

 にっこり微笑むレイトン先生の後見も決まった。
 俺達は大はしゃぎでハイタッチを交わし、もう、一礼をして皇帝陛下の御前を辞した。



 辞した......んだけど、

「待ちなさい」

 と厳かな声音に呼び止められた。許可、いただきましたよね。いいって言ったよね?


 皇帝陛下は、呆然と突っ立っているアントーレ王子の方を振り向いて、言った。

「お前も行きなさい」

ーは?ー

「アントーレ、試験問題を盗もうなどという気を起こした罰だ。彼らと共に行って、見事に魔王を退治してきなさい」

 こ、皇帝陛下、何を仰るんですか。
 アントーレ、何を嬉しそうな顔をしてるんだよ。体のいい王都追放だぞ?厄介払いだぞ?

「はい!」

 て、何そのいい返事。今までで一番いいんじゃん。目がキラッキラじゃん。

「よろしく頼む、ラフィアン・サイラス」

 陛下にっこり......。

「えーーーっ!」

 俺の悲惨な叫びがホールにこだましたのは、言うまでもない。






しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...