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ダンジョン?何それ美味しいの?
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本当に最悪なクリスマスだった。
俺は屋敷に帰ってすぐに自分の部屋に籠った。誰にも会いたくなかった。
父や兄が入れ替わり立ち替わり説得に来たが、俺は部屋から出なかった。扉越しに言われる言葉はどれも言い訳と自己弁護でそれは聞かれたものじゃなかった。
そうして三日間が過ぎたころ、レイトン先生の伝書フクロウが窓辺に現れた。俺は窓から部屋を出て、細かな雪の舞い降りるなか、学園のレイトン先生の家に走った。
「そうだったのか」
「最悪ですよ.....」
先生の部屋について、一気に事の顛末をまくし立てた後、俺は盛大に腹の虫を鳴らした。三日間、ろくに食べて無かったのだ。
部屋にお菓子隠しておいて良かったよ。
先生は苦笑しながら暖かいお茶と、先生のパートナーが作ってくれたキッシュ、クリスマス・プディングを振る舞い、暖かい毛布を差し出してくれた。
「だが、二番目の兄上は噛んでなかったんだろう?」
「でも知ってたんですよ」
俺はぷっと頬を膨らませて吐き捨てた。
俺の家族は王家と親類になりたかった。相手がアントーレでもウィスタリアでも、どちらでも良かったんだ。
どちらにしても、それには俺の最も近しい友人達が邪魔だった。
俺が彼らに、特にマグリットに心を寄せていたのを知っていたから。
トニー兄さんの到着が早かったのは、連中がへまをしていないか確かめるためだった。
近衛騎士団の手練れが大人しく引いたのは、俺を傷つけずにふたりを殺すことが困難だと判断したからだ。
俺は毛布にくるまって先生の淹れてくれたお茶を啜りながら、重い溜め息をついた。
先生は俺が落ち着くのを見計らって、部屋に結界を張り、いつもより慎重に遮断魔法を施した。
そして自身の容姿変化の魔法を解いた。重要案件の発生だ。こんな時に......。
「こちらもたぶん、最悪な話だ」
課長の顔に戻ったレイトン先生はやはり重い溜め息をついて言った。
「辺境に、ダンジョンが出来た」
.「ダンジョンですって?」
『奇跡の青薔薇』は乙女ゲームで恋愛ゲームなはずだ。あくまでも学園と王都を中心としたヤマもオチも無い、テンプレまんまなダサいストーリーだったはずだ。まぁだいぶ書き換えちゃったけど。
「『青薔薇』はRPG じゃないですよね?まぁ魔法属性とかは最近の流行りでついてましたけど」
「そのはずだ」
課長に戻った先生は、顔をしかめた。
「俺がプログラムチェックをした。バグは無かった」
「作家先生の第三のゲームシナリオは?」
「あの先生に冒険モノは書けない。企画会議でもさんざん言っていた」
「じゃあなんで......」
ふと、俺は前世の会社で席を並べていたヤツの顔を思い出した。典型的な陰キャのゲームオタクで、『青薔薇』の開発にまわされたことに不満をもらしていた。
ーオレ、ドラ○エみたいの作りたかったんすよね。F F とか.....ー
それがヤツの口癖だった。
「まさか、二宮......」
「ん?」
「開発の。俺の後輩で、R18の後半パート投げてたヤツです。確か、全年齢版はほんの一部しか触ってないはずです。ストーリーに当たり障りの無いところ」
課長の目がキラリと光った。
「どの辺りだ?」
「えっと......アントーレ王子が主人公と恋に落ちたことを王家の家族が責めるあたりです。シーンとしてはふたつくらい。悪役令息がウィスタリア殿下に泣きついて、主人公を王宮に呼び出して糾弾させるんです」
ストーリー的には結構なヤマだ。ウィスタリア殿下に呼び出された主人公をアントーレ王子が兄上の部屋に乗り込んで取り戻す。王子が主人公を連れ出して、王宮の樅の木の下で熱烈に愛を告げるシーンだ。
「そこか......」
課長が唸るように言った。
「二宮はプログラミングは得意だったか?」
「ええ、ずっとパソ研にいて、最初に就職した会社でコンピューターセキュリティの開発をしていた、と言ってました。あいつ後輩でしたけど、俺より三つくらい上だったんすよね」
俺は風采の上がらない、だが異様に神経質な男の顔を思い浮かべた。やたら時間を掛けて凝ったプログラムを作ってきては、やり直しをさせられていた。
ーみんな、ボクの才能がわかってないんだ....ー
それがヤツの口癖だった。
「仕込みやがったか.....」
「え?」
課長がギリリと唇を噛んだ。
俺は屋敷に帰ってすぐに自分の部屋に籠った。誰にも会いたくなかった。
父や兄が入れ替わり立ち替わり説得に来たが、俺は部屋から出なかった。扉越しに言われる言葉はどれも言い訳と自己弁護でそれは聞かれたものじゃなかった。
そうして三日間が過ぎたころ、レイトン先生の伝書フクロウが窓辺に現れた。俺は窓から部屋を出て、細かな雪の舞い降りるなか、学園のレイトン先生の家に走った。
「そうだったのか」
「最悪ですよ.....」
先生の部屋について、一気に事の顛末をまくし立てた後、俺は盛大に腹の虫を鳴らした。三日間、ろくに食べて無かったのだ。
部屋にお菓子隠しておいて良かったよ。
先生は苦笑しながら暖かいお茶と、先生のパートナーが作ってくれたキッシュ、クリスマス・プディングを振る舞い、暖かい毛布を差し出してくれた。
「だが、二番目の兄上は噛んでなかったんだろう?」
「でも知ってたんですよ」
俺はぷっと頬を膨らませて吐き捨てた。
俺の家族は王家と親類になりたかった。相手がアントーレでもウィスタリアでも、どちらでも良かったんだ。
どちらにしても、それには俺の最も近しい友人達が邪魔だった。
俺が彼らに、特にマグリットに心を寄せていたのを知っていたから。
トニー兄さんの到着が早かったのは、連中がへまをしていないか確かめるためだった。
近衛騎士団の手練れが大人しく引いたのは、俺を傷つけずにふたりを殺すことが困難だと判断したからだ。
俺は毛布にくるまって先生の淹れてくれたお茶を啜りながら、重い溜め息をついた。
先生は俺が落ち着くのを見計らって、部屋に結界を張り、いつもより慎重に遮断魔法を施した。
そして自身の容姿変化の魔法を解いた。重要案件の発生だ。こんな時に......。
「こちらもたぶん、最悪な話だ」
課長の顔に戻ったレイトン先生はやはり重い溜め息をついて言った。
「辺境に、ダンジョンが出来た」
.「ダンジョンですって?」
『奇跡の青薔薇』は乙女ゲームで恋愛ゲームなはずだ。あくまでも学園と王都を中心としたヤマもオチも無い、テンプレまんまなダサいストーリーだったはずだ。まぁだいぶ書き換えちゃったけど。
「『青薔薇』はRPG じゃないですよね?まぁ魔法属性とかは最近の流行りでついてましたけど」
「そのはずだ」
課長に戻った先生は、顔をしかめた。
「俺がプログラムチェックをした。バグは無かった」
「作家先生の第三のゲームシナリオは?」
「あの先生に冒険モノは書けない。企画会議でもさんざん言っていた」
「じゃあなんで......」
ふと、俺は前世の会社で席を並べていたヤツの顔を思い出した。典型的な陰キャのゲームオタクで、『青薔薇』の開発にまわされたことに不満をもらしていた。
ーオレ、ドラ○エみたいの作りたかったんすよね。F F とか.....ー
それがヤツの口癖だった。
「まさか、二宮......」
「ん?」
「開発の。俺の後輩で、R18の後半パート投げてたヤツです。確か、全年齢版はほんの一部しか触ってないはずです。ストーリーに当たり障りの無いところ」
課長の目がキラリと光った。
「どの辺りだ?」
「えっと......アントーレ王子が主人公と恋に落ちたことを王家の家族が責めるあたりです。シーンとしてはふたつくらい。悪役令息がウィスタリア殿下に泣きついて、主人公を王宮に呼び出して糾弾させるんです」
ストーリー的には結構なヤマだ。ウィスタリア殿下に呼び出された主人公をアントーレ王子が兄上の部屋に乗り込んで取り戻す。王子が主人公を連れ出して、王宮の樅の木の下で熱烈に愛を告げるシーンだ。
「そこか......」
課長が唸るように言った。
「二宮はプログラミングは得意だったか?」
「ええ、ずっとパソ研にいて、最初に就職した会社でコンピューターセキュリティの開発をしていた、と言ってました。あいつ後輩でしたけど、俺より三つくらい上だったんすよね」
俺は風采の上がらない、だが異様に神経質な男の顔を思い浮かべた。やたら時間を掛けて凝ったプログラムを作ってきては、やり直しをさせられていた。
ーみんな、ボクの才能がわかってないんだ....ー
それがヤツの口癖だった。
「仕込みやがったか.....」
「え?」
課長がギリリと唇を噛んだ。
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