(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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ヤバくなってきました...

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「はあぁ......」

 学園祭が終わった。
 元のゲームのシナリオじゃ、このクリスマスにアントーレ王子が主人公に愛を告白して、悪役令息に婚約破棄を言い渡す決心をするんだけど、一向にそんな空気になってくれない。

「なに脱力してんだよ、ラフィ。美人が台無しだぞ」

 ケヴィンが前の席の椅子にこちら向きに座って、ニヤニヤ笑う。
 長い指が俺の前髪をくしゃっとする手を軽く払い、俺は机に突っ伏した。こいつもいつの間にか背が伸びて、俺より頭ひとつもデカくなった。騎士の試験にも一発合格。
 学園をやめないのは、卒業したら辺境の国境警備隊に入るから、吸えるだけ王都の空気を吸っておきたいんだと。
 確かに、親父さん厳しそうだもんな。家出したくなるの、解るわ。

 ニコルも卒業したら、親父さんの船でまた買い付けに出る。だから地に足のついた生活を満喫するんだって。なんか意味違う気もするけど、解らなくはない。俺なんか湖の遊覧船で船酔いする質だったから、何ヵ月も海の上なんてゾッとする。でも......

「みんないいなぁ......」

「ん?」

「嫁になんか行きたくない......」

 あのポンコツ王子に尻掘られるのヤダ。いや、相手が誰でも掘られたくない。
俺は結婚するなら女の子がいいの。可愛い女の子と暮らしたい。無理だけど。

「そうだ!」

 もう直談判しかない。元のゲームのシナリオ通りでなくても、クリスはちゃんと生徒会長までは攻略してる。だからスイッチが入れば、シナリオ通りにアントーレ王子を攻略してくれるはずだ。元々、野心家なはずだから。



 俺は放課後、クリスをお茶に誘った。王都の一番お洒落なカフェで、好きなもの奢るからって。
 そして俺は彼に訊いた。

「ねぇ、クリスはどう思ってるの?王子のこと?」

 彼は二個目のパフェをスプーンで突っつきながら、う~んと唸って一言。

「ポンコツ......」

 はぁ?それ違うでしょ。

「好きとか密かに想ってるとか、無いの?」

美形だよ。イケメンだよ。顔面数値最高だよ?

「確かに顔はいいけど、スタイル抜群だし、ノーブルだし......」

 でしょ?でしょ?

「でもヘタレなんだもん。ポンコツだし.....」

 そう言うなよ。最近、頑張ってるんだから。伸び代あるよ。

「王宮で優雅な暮らししたくない?」

「剃りゃあ、憧れるけど......」

 よし、もう一押し。

「結婚したら、案外いいパートナーになるかもよ?」

 またまた首を捻るクリスちゃん。駄目、そこ考えないの。

「でも、僕好きな人いるから......パフェお代わりしていい?」

「いいけど......」

 いや、別に財布は大丈夫なんだけど。お小遣い、ちゃんとあるから。でも、そんなに甘いもんばっかり食べて気持ち悪くならない?
俺のほうが胸焼け起こしそうなんだけど。
 クリスちゃん、三個目のパフェを受け取りながら、いきなり切り出した。

「でもそう言えば、ラフィ様は、アントーレ王子と婚約してるんでしょ?」
 
 そう、そうなんです。って今頃気がついたんか~い。

「もしかしたら、アントーレ王子と結婚したくないの?」

 そう、そうなんです。コクコク頷く俺。

「誰か好きな人いるの?」

「そうじゃないけど......」

 そんなに身を乗り出さないで。食い付きよすぎ。なんか目付きが真剣過ぎて怖いんですけど......。

「僕さ......お嫁さんていうタイプじゃないし。王子の好みも違うと思うんだ。もっと可愛らしくて守ってあげたくなるような......クリスちゃんみたいな子がいいんじゃないかな...と」

 クリスちゃん、ぱっと目を見開いた。

「そう。そうだよね。ラフィ様はお嫁さんには向かないよね」

 クリスちゃん、腕組みしてうんうんと頷く。わかってるんだけど、そういう男らしい仕草止めて。夢、壊れるから。

「つ・ま・り、ラフィ様はアントーレ王子の気持ちが他に向いてくれればいいんだね?」

 そう、そうなんです。わかっていただけましたか、ありがとう。

「わかった。僕に任せて!」

 ありがとうクリスちゃん。でも男らしく胸叩くの止めて。わかってるんだけど......。
 
 意気揚々とお土産のガトーショコラを手に、ピンクブロンドの長い髪を揺らして帰っていくクリスちゃんの背中にほっと安堵の息をついた。髪色はともかく、本当に可愛いんだよね。なんで女の子じゃないんだろ、今さらだけど......。

 
 とりあえず、約束どおり次の日からアントーレに急接近のクリスちゃん。王子も満更ではない様子。ちょこっと胸は痛むけど、尻大事。やっとフラグが立ちました。

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