(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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犯人は誰だ?!

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 俺は夏休みが終わってすぐ、学園の中を走り回った。あのポンコツ王子を探すためだ。

 その日、あいつは珍しく図書館にいた。勉強してた。俺は思わず太陽が落ちてくるんじゃないかと、真っ青になって空を見上げた。

「失礼なやつだな」

 アントーレは、唖然としている俺に少しむくれて言った。

「なんの用だ?今、忙しいんだ」

 そうだ、呆けている場合じゃなかった。

「殿下、なんで俺達を襲ったんですか?!」

「なんの事だ?」

 アントーレは教科書から目を上げずに答えた。わーこいつ、本当に勉強してるよ。あり得ねぇ。やっぱ今日は吹雪だ、きっと。

「別荘で、襲われたんです。俺達。俺とマグとルー。黒覆面の男達に」

 アントーレの頬がピクリと動いた。

「で、無事だったのか。......だが、なんで私のせいになるんだ?何故、私が君達を襲わないといけないんだ?」

「これ、拾ったんです」

 俺はルードヴィヒから預かった襟章をアントーレの目の前に突き出した。
アントーレは一瞬、目を見開き、そして襟章をまじまじと見つめて言った。

「私は知らない.......勉強のジャマだ。行きたまえ」

 俺は思わずカッとなって、拳を振り上げそうになった。
 その肩を誰かがポン、と叩いた。

「うるせっ......」

 振り向いた目線の先で、レイトン先生が、めっ!と俺を睨んだ。

「他人の勉強を妨げてはいけないよ、ラフィアン・サイラス」

 先生は、くいっと首を傾けて、ーこっちにおいでーと示した。


 

「何があったんだね、ラフィアン」

 先生は俺を部屋に連れていった。
 ソファーに座らせ、お茶を淹れてー落ち着けーと言った。
 俺は別荘での経緯を先生に話した。

「それで、アントーレ王子が黒幕だと?」

「これが落ちていたんです、現場に」

「これは?」

「近衛騎士団の襟章です」

「ふぅむ.......」

 俺は、あの襟章をテーブルの上に置いた。先生は襟章を手に取り、ひとしきり眺めて、再び俺の手に戻した。

「殿下はシロだな」

 先生は、手元の器からキャンディをひとつ詰まんで口の中に放り込んだ。以前ー俺の上司だった時は結構なヘビースモーカーでもあったから、煙草の無いこの世界では、どうも口寂しいらしい。

「何故ですか?」

 訝る俺に先生はあっけらかんと言った。

「アントーレ殿下は、近衛騎士団に命令することはできない」

 俺はハッと気付いた。騎士の資格を持たないアントーレには命令権が無いのだ。

「近衛騎士団を動かせるのは、皇帝陛下と皇太子殿下、それと宰相閣下......君の兄上、スゥイストフ・サイラス」

 そうだ。スゥエン兄さんは、この春から父に代わって宰相になった。

「後は......ネヴィル伯爵だな」

「ネヴィル伯爵?」

「近衛騎士団の副団長だ。知らないのかね?」

「知らないです.....」

 俺は頭を抱えた。陛下や皇太子殿下が闇討ちなど命令するわけがない。
 スゥエン兄さんは、俺を大事に思っている。ネヴィル伯爵なんて、面識どころか聞いたこともない。

「でも、護衛騎士なら......」

「護衛騎士は殿下のお傍を離れることは許されない」

 レイトン先生は溜め息をつきながら、俺の顔を見て言った。

「アントーレ殿下はこの休暇中、ずっと学園にいた」

「学園に?なぜ?」

「さぁ......」

 先生が、肩をすくめた。
 と同時に、勢いよく扉が開いた。

「騎士の資格を取るためだ!」

 振り向くとアントーレが仁王立ちしていた。お前、図書館にいたんじゃなかったのか?

「ラフィを守るのは私だ。あの赤毛になんか負けない」

はぁ?

「でも、俺は卑怯なことはしない。ラフィが怒るから......だから騎士になって正々堂々と勝負してやる」

 それだけ言うと、アントーレはうって変わって静かに扉を閉めて立ち去った。随分、キャラ変わったなお前。


 
 けど、ストーカーはやめろ。



 


 


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