(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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巨大ミミズ現る!......てオカシイ!

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 三学年が終わった。
 俺はレイトン先生こと村上課長の部屋でふたりで頭を抱えていた。


 

 魔物が召喚された。召喚したのは魔法学の教師、アーミラ。そう、主人公クリスの攻略対象。そして被害者は他ならぬ主人公クリスだった。

 春休み前の最後の日曜日、俺はレイトン先生と定期連絡のために教師の宿舎のある建物に向かっていた。
 その途中、魔法学の教室から悲鳴が聞こえてきたのだ。
 窓から様子を窺うと、クリスとアーミラ先生の姿と......触手の化け物が見えた。

ー触手ぅ?ー

 俺は目を剥いた。

 俺の記憶では、全年齢向けのゲームに触手は出てこない。触手が出てくるのは......R18版だけだ。
 俺は急いで教室に向かった。 
 中から主人公クリスの叫び声が聞こえた。

『先生、約束が違います。僕、こんなの頼んでません。僕が頼んだのは魔方陣です!』

『いやぁ君の欲しいものを手に入れたいのなら、報酬は必要だろう?なに、すぐに気持ち良くなるから......』

 アーミラ先生のねちっこい声もはっきり聞こえた。

ーヤバい!ー

 間違いなく、R18版のイベントのひとつだ。だが、ストーリーが違う。悪役令息に依頼された魔術師が触手の化け物を使って主人公クリスを襲わせるのだ。そしてそれを助け出すのが、ヒーローのアントーレ王子だ。

 全年齢版とR18版のストーリーで一番顕著に異なるところだ。

ーおかしい...ー

 とは言え、このままでは主人公クリスが襲われてしまう。
 俺は思い切り力を込めて、扉を開いた。

「先生、何をなさってるんですかぁ~?」

「誰だね、君は!?」

 アーミラ先生のダミ声が怯んで裏返る。

「三年のサイラスですが......なんですか、この生き物?」

「触手だよ、知らんのかね?」

 窓の外にレイトン先生の伝書フクロウが飛んできた。俺が時間に来ないことに『異変』を察知してくれたのだ。
 
 俺は勇気を出して、アーミラ先生に詰め寄る。

「先生、生徒にセクハラなんかしていいんですか?校長に知れたらマズイんじゃないですか?」

「わ、私はセクハラなど......!」

「説得力ないですよ、先生」

 クリスの服は半分引きちぎられて、細い触手が両腕や両脚に絡み付いている。グロい。リアルの触手は初めて見たけど、まんま巨大ミミズ。エロと言うよりホラー映画だよ。

「ええい面倒くさいな。君も触手に巻かれてしまいなさい!」

 ヤバっ!ウネウネしたヤツがこっちに向かってくる。気持ち悪いよぅ。

「ラフィ!」

 そこに飛び込んできたのは、アントーレ王子.....ではなく

「マグ!」 

 そう、俺の親友のマグリットと、騎士団員らしき男達。

「ラフィ、大丈夫か?」

 マグリットの剣が巨大ミミズをスパッと切り落とし、俺を抱えてミミズから引き離す本気まじ、格好いい、マグ。
 同じように騎士団員がクリスにまとわりついていた触手を切り落として、巨大ミミズの魔の手から救い出してくれた。そして、アーミラ先生は捩じ伏せられて......。

「お手数をおかけしましたね」

 扉のところにはレイトン先生が校長先生とともに立っていた。

「先生!」

ー助かったー

と思ってクリスを振り向くと......あれ?なんでマグリットを睨み付けてんの?
 しかもアーミラ先生が連行されて、

「良かったね」

って俺に抱きつきながら、やっぱりマグリットを睨んでる。
 で、校長先生に優しくハグされて、

「ついておいで」

って招かれてるのに、なんで舌打ち?
チッ......てその顔怖いんだけど?


 で、肝心のヒーロー、アントーレは姿を見せず.......俺はマグリットに付き添われて家に帰った。
 マグリットは俺を凄く心配してくれて、何度も

ー大丈夫か?ー

って声をかけてくれた。

 マグリットは士官学校に通いながら、もう騎士見習いもしてて......制服が良く似合ってた。

『なんで助けに来てくれたの?』
 
と訊いたら、俺の危機ならなんでもわかる、って眩しい笑顔で言った。
  
『本当は、レイトン先生の伝書フクロウが詰所にSOS 咥えて飛び込んだのを追って来た』

ってそれでもマグリットが来てくれて俺は凄く嬉しかった。

 触手はレイトン先生が元の魔界へ返してアーミラ先生はクビ、かつ違法生物を呼び出した罪で裁判を受けることになった。
 先生はクリスが好きだったみたいだけど、馬鹿じゃね?主人公クリスの攻略対象の教師は、レイトン先生だって俺も後から知ったんだけど。




 問題はそこじゃなくて.....。
「「「「「」」」」」


「これって、全年齢バージョンですよね?」
 
 念を押す俺にレイトン先生、もとい課長は大きく頷いた。  

「気を抜けば、すぐにR18ルートに引っ張られるということだな」

 俺達は顔を見合せ、深い溜め息をついた。

 イベントはあとひとつ。
 俺の尻は無事だろうか......。
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