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それ、いりませんから!
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年が明けて、新学期が始まった。
俺は名目上ではなく、実際にレイトン先生の実践魔術の特訓を受ける事になった。
ーいつ何が起こるかわからないー
不測の事態に備えて、だ。
今日は、課長......ではなく、完璧なレイトン先生モードで、状況確認を始める。さすが年の功。
「ストーリー補正というヤツだな」
今のこの世界はゲームのシナリオとはかなり変わってしまった。まぁ変えたのは俺なんだけど。
悪役令息の俺が悪さをしない、ということは、つまり誰かが取ってかわる、ということ。
レイトン先生いわく、ここが、ゲームの世界であるからには、ある種の強制力というのが働くらしい。
「まず......」
本来的に物語の流れは決まっている。それ自体が変わることは無い、というのだ。
「君が悪役の働きをしないなら、誰かがそれに代わる働きをする」
学園祭の時の不良達と四年のビッチがそれに当たるという。
「あの作家が、どういう裏設定をしているかわからないし、別パターンのゲームがどういったストーリーで書かれているかわからないが.....」
レイトン先生は、ゆったりとお茶を啜りながら言った。
「確か、キャラクターはほぼ同じだったはずだ。役回りはともかくとして......ね」
「役回り......ですか」
俺は片付けのお駄賃のフルーツタルトにフォークを突き立て、口に運んだ。
現段階では俺の婚約解消はあっても、断罪は無い。ストーリー的には攻略ルートは後は教師とアントーレ王子、他には隠し攻略キャラのウィスタリア皇太子の三人が残ってる。
そして、俺の断罪に至るイベントはあと二つ。
ゲーム『奇跡の青い薔薇』では、俺は魔術師に主人公を陥れるために魔物を召喚させるよう依頼するが、主人公に攻略された教師に阻まれ、自分が魔物に襲われそうになる。
もうひとつは街中でのならず者による誘拐だ。これはアントーレ王子と騎士に阻止される。
この二つの事件から、以前から怪しまれていたラフィアンの悪事が露呈するのだが、
「君がかなりシナリオを変えてしまったからねぇ......」
魔術師への魔物の召喚はまず無い。
街中で、主人公を襲わせる予定もまったく無い。それでも、誰かの手によって魔物は召喚されるし、ならず者事件は起きるという。
ただし、
ー被害者と加害者が入れ替わるー
か、
ー細部のシチュエーションが変わる可能性があるー
というのだ。
「僕が被害者になる可能性がある、と?」
先生はこっくりと頷いた。
「ゲームの登場人物に大事なのは、名前ではなく、各人物の性格づけだ。他のキャラクターはともかく、君はおおいに変わってしまった。......それと本来、ゲームに出てこない、あるいはモブに過ぎないキャラクターが重要な位置にいる」
先生は、ペンの先でトントン、とメモを叩いて、言った。
「マグリットくんと、ルードヴィヒくんは本来、ゲームには出てこないだろう?......それにニコルくんとケヴィンくんも名前の出てこないモブキャラだ。だが、彼らはこの世界では君の親友だ」
つまりは悪さに加担する取り巻きがマグリット達に変わり、友情を育む、というまったく別なルートに変わった......という。
「まあ、一番の違いは悪役であるはずのラフィアンの性格・行動が、君が前世を思い出したことで、まったく違ってしまったことだ。そしてもうひとつ......」
先生は、マジックボックスにメモをしまうと、つかつかと扉に歩みより、俺にウィンクをした。
そして、指を鳴らした。
「アントーレ...殿下?」
容赦なく開かれた扉の向こうには、アントーレがばつが悪そうに突っ立っていた。
たぶん、扉の外で聞き耳をたてていたのだろう。だが残念ながら、外界遮断の魔法がかかっていたから、何も聞こえなかったはずだ。先生は至って穏やかに言った。
「ようこそ殿下。何か用向きが?」
「いや.....別に。ラフィが何かしたのかと思って......」
しどろもどろになるアントーレに先生はつとめてにこやかに入室を勧めた。
「ラフィアン君に、防護魔法と回復魔法の修練を勧めていたのですよ。殿下もお茶をいかがですか?」
「あぁ、それなら私も.....」
断らんのかい、ポンコツ王子。ここは遠慮して帰るところだろう。こら、そんなにくっついて座るな、暑苦しい。
「ラフィには私からも勧めたいと思っていました。......その......貞操というか、きちんと身を守ってもらいたいので」
アントーレ、顔赤くしてそんなこと言うな、気持ち悪い。俺は尻はちゃんと守る。あんたからも、だ。
「ん。確かに」
先生、そこで頷かなくていいからっ!
そして、先生は後でこっそり俺に耳打ちした。
ーつまり、こういうことだー
............勘弁してくれ。
俺は名目上ではなく、実際にレイトン先生の実践魔術の特訓を受ける事になった。
ーいつ何が起こるかわからないー
不測の事態に備えて、だ。
今日は、課長......ではなく、完璧なレイトン先生モードで、状況確認を始める。さすが年の功。
「ストーリー補正というヤツだな」
今のこの世界はゲームのシナリオとはかなり変わってしまった。まぁ変えたのは俺なんだけど。
悪役令息の俺が悪さをしない、ということは、つまり誰かが取ってかわる、ということ。
レイトン先生いわく、ここが、ゲームの世界であるからには、ある種の強制力というのが働くらしい。
「まず......」
本来的に物語の流れは決まっている。それ自体が変わることは無い、というのだ。
「君が悪役の働きをしないなら、誰かがそれに代わる働きをする」
学園祭の時の不良達と四年のビッチがそれに当たるという。
「あの作家が、どういう裏設定をしているかわからないし、別パターンのゲームがどういったストーリーで書かれているかわからないが.....」
レイトン先生は、ゆったりとお茶を啜りながら言った。
「確か、キャラクターはほぼ同じだったはずだ。役回りはともかくとして......ね」
「役回り......ですか」
俺は片付けのお駄賃のフルーツタルトにフォークを突き立て、口に運んだ。
現段階では俺の婚約解消はあっても、断罪は無い。ストーリー的には攻略ルートは後は教師とアントーレ王子、他には隠し攻略キャラのウィスタリア皇太子の三人が残ってる。
そして、俺の断罪に至るイベントはあと二つ。
ゲーム『奇跡の青い薔薇』では、俺は魔術師に主人公を陥れるために魔物を召喚させるよう依頼するが、主人公に攻略された教師に阻まれ、自分が魔物に襲われそうになる。
もうひとつは街中でのならず者による誘拐だ。これはアントーレ王子と騎士に阻止される。
この二つの事件から、以前から怪しまれていたラフィアンの悪事が露呈するのだが、
「君がかなりシナリオを変えてしまったからねぇ......」
魔術師への魔物の召喚はまず無い。
街中で、主人公を襲わせる予定もまったく無い。それでも、誰かの手によって魔物は召喚されるし、ならず者事件は起きるという。
ただし、
ー被害者と加害者が入れ替わるー
か、
ー細部のシチュエーションが変わる可能性があるー
というのだ。
「僕が被害者になる可能性がある、と?」
先生はこっくりと頷いた。
「ゲームの登場人物に大事なのは、名前ではなく、各人物の性格づけだ。他のキャラクターはともかく、君はおおいに変わってしまった。......それと本来、ゲームに出てこない、あるいはモブに過ぎないキャラクターが重要な位置にいる」
先生は、ペンの先でトントン、とメモを叩いて、言った。
「マグリットくんと、ルードヴィヒくんは本来、ゲームには出てこないだろう?......それにニコルくんとケヴィンくんも名前の出てこないモブキャラだ。だが、彼らはこの世界では君の親友だ」
つまりは悪さに加担する取り巻きがマグリット達に変わり、友情を育む、というまったく別なルートに変わった......という。
「まあ、一番の違いは悪役であるはずのラフィアンの性格・行動が、君が前世を思い出したことで、まったく違ってしまったことだ。そしてもうひとつ......」
先生は、マジックボックスにメモをしまうと、つかつかと扉に歩みより、俺にウィンクをした。
そして、指を鳴らした。
「アントーレ...殿下?」
容赦なく開かれた扉の向こうには、アントーレがばつが悪そうに突っ立っていた。
たぶん、扉の外で聞き耳をたてていたのだろう。だが残念ながら、外界遮断の魔法がかかっていたから、何も聞こえなかったはずだ。先生は至って穏やかに言った。
「ようこそ殿下。何か用向きが?」
「いや.....別に。ラフィが何かしたのかと思って......」
しどろもどろになるアントーレに先生はつとめてにこやかに入室を勧めた。
「ラフィアン君に、防護魔法と回復魔法の修練を勧めていたのですよ。殿下もお茶をいかがですか?」
「あぁ、それなら私も.....」
断らんのかい、ポンコツ王子。ここは遠慮して帰るところだろう。こら、そんなにくっついて座るな、暑苦しい。
「ラフィには私からも勧めたいと思っていました。......その......貞操というか、きちんと身を守ってもらいたいので」
アントーレ、顔赤くしてそんなこと言うな、気持ち悪い。俺は尻はちゃんと守る。あんたからも、だ。
「ん。確かに」
先生、そこで頷かなくていいからっ!
そして、先生は後でこっそり俺に耳打ちした。
ーつまり、こういうことだー
............勘弁してくれ。
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