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変わらないですね
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期末試験も終わって、楽しいクリスマス休暇。でも何故か俺は学園にいる。
理由はひとつ、課長もといレイトン先生のお呼び出し。
名目は実践魔法の特訓。だけど実態は先生の部屋の片付け、掃除。それと今後の作戦会議。
クリスマスの翌日、ーまあ、ここは気を使ったんだろうけど、先生の伝書フクロウがやってきた。
封筒を開くと、
ー学園で待つ。チョコレートケーキとブツ持参のことー
先生、いや課長、性格変わりませんね。どうして家の今日のおやつがチョコレートケーキなの、知ってるんですか。
俺は両親に話をして、シェフにチョコレートケーキ二人分を切り分けてもらって学園に急いだ。
幸い休みに入っていて、生徒は誰もいない。ケヴィン達、寮生も帰省ずみだった。
学園の東の隅にある建物の一番奥の二階、ハロルド・レイトン先生の部屋のドアを三回ノックする。
「どなたですか?」
中から先生の声。
「ラフィアンです。ラフィアン・サイラス、来ました」
名乗ると、低い音をたてて、扉が開いた。
「おぅ、入れ」
いきなり素に戻るの、止めてください、課長。いくら結界で外界遮断したからって、安易すぎません?
「まずは、頼むわ」
はぁ......と息をついて、俺は散らかしっぱなしの本と書類の整理にかかる。課長、もとい先生はと言えば、水晶玉を覗きながら、何やらしきりに羊皮紙に書き込んでいる。
「変わりませんね~。そういうとこ」
前世の会社でも、課長席の周りはいつも書類のファイルと決裁の山。総務部に怒られるたびに、俺や後輩がせっせと片付け。その傍らで課長はなんも気にせずに仕事に没頭していた。
まあ、帰りに美味い晩飯を奢ってくれたけど。
机周りは乱雑な癖に、仕事は完璧。部下に振った仕事の進捗もきっちり把握してて、漏れなく適切にフォローしてくれる。
あのBL 作家さんが乱入した時にも、きっと誰かを庇って事故に遭ったんだろうな。
「これが無きゃいいんですけどね.....」
「なんだ?」
溜め息混じりに言うと、顔も上げないで返事をする。俺はもうひとつ、大きな溜め息をつく。
「課長は残念なイケメンですよね。昔から......」
「ギャップ萌えだ。ギャップ萌え」
いや、それ違いますから。でも、なんで魔法万能なのに、魔法でさっと片付けないんだろう。不思議。
見透かしたように、イケボが答える。
「魔法使うと何が何処にいったかわかんなくなるんだよ。君にやってもらえば、君が場所、覚えてくれてるだろ?」
本っとにまんまですね。全然変わりませんね。絶対、レイトン信者の生徒達には見せられませんね。この実態知ったら、みんな泣きますよ。
「さて、お茶にするか.....」
ひとしきり書き物も終わったところで、伸びをして椅子から立つ先生、もとい課長。
俺の持参のチョコレートケーキを皿に乗せ、美味しいお茶を淹れてくれる。
それは嬉しいんですけど、変貌魔法まで解くの止めてくれません?いくら疲れるからって、イメージ狂うでしょ。
「で、持ってきたか?」
「コレです」
俺が持参したのは、銀のバングル。
あろうことか休み前にクリスからもらったものだ。先生に相談したら、念のため持ってくるように言われたんだ。
クリスはこのゲームの主人公。もしかしたら.....ということで、確認してもらうことにした。
先生はひとしきり、バングルを手に取り、眺めていた。が、一言。
「無いな」
「無いんですか?」
尋ねる俺に片眉を上げて唇を歪めた。
「あの先生の最推しは主人公じゃなかったからな」
「誰なんです?」
俺が身を乗り出すと、さも困ったように言った。
「お前だよ。ラフィアン・ガルネク・サイラス」
「えっ?......俺、悪役ですよ。悪役令息ですよ」
眉をしかめる俺に、先生、いや課長は苦笑いして、両手を拡げた。
「だが、作家先生はそう言ってた。最初のR18版のラフィアンの断罪後、知ってるか?」
「知りません」
知りたくもなかったし。
「地下牢に幽閉されて、触手に弄ばれた後、死ぬまでモブレだぞ」
「えぇーっ!......追放じゃないんですか?」
「違う。......目ぇキラッキラさせながら語ってたぞ」
非道いっ!S かよ、作家先生。
「もう無いですよね、それ?」
恐る恐る訊く俺に課長な先生はカラカラ笑った。
「ねぇよ。シナリオ自体、書き換えさせたしな。んなもん商品化できねぇだろ」
「良かった....」
俺はほぅっと胸を撫で下ろした。
「後はカラーピンに、ペーパーナイフに、ブローチか......特には問題無いな」
先生は俺の全身を一通り眺めて言った。
「守護魔法を入れといてやるよ。ブローチには特に念入りにな」
「それって......」
俺はほのかに顔が赤らむのを感じた。ブローチは、あの王子からのプレゼントだった。
「付けといてやれよ。王子喜ぶぞ......」
「か、いや先生......」
ニンマリ笑うレイトン先生に俺は頭を抱えたくなった。
「このバングルはヤバくはないが、ちょっと魔法が入ってるから、加護と入れ替えとくぞ」
先生は、魔法の杖を取り出し、バングルをコンコン、と叩いた。俺は少し不安になった。クリスはやはり俺が邪魔なんだろうか。
「呪いですか?」
「呪い......とも言えるが、特に君に悪さをするものじゃない。が、不要だから抜いといたほうがいいだろう」
先生は短い詠唱を唱えると、バングルを俺の手元に戻した。
「やっぱり、俺は悪役令息なんですかね......」
邪魔者はやはり退散しなければいけないんだろうな。顔を歪める俺に先生、もとい課長は肩をすくめて笑った。
「君は、相変わらず鈍いな」
「どういう意味ですか?!」
「そういう意味だよ」
口を尖らせる俺に、先生な課長はそれ以上、何も説明せず、魔法で探った現状に話は移った。
結論としては、この学園内に腐女子作家の転生や転移はいない。サイラス家や王宮、友人達の家族や知人も問題は無いという。
だが、しかし......。
「どこでどう影響してくるかわからない。気を緩めるなよ」
俺は深く頷いた。
理由はひとつ、課長もといレイトン先生のお呼び出し。
名目は実践魔法の特訓。だけど実態は先生の部屋の片付け、掃除。それと今後の作戦会議。
クリスマスの翌日、ーまあ、ここは気を使ったんだろうけど、先生の伝書フクロウがやってきた。
封筒を開くと、
ー学園で待つ。チョコレートケーキとブツ持参のことー
先生、いや課長、性格変わりませんね。どうして家の今日のおやつがチョコレートケーキなの、知ってるんですか。
俺は両親に話をして、シェフにチョコレートケーキ二人分を切り分けてもらって学園に急いだ。
幸い休みに入っていて、生徒は誰もいない。ケヴィン達、寮生も帰省ずみだった。
学園の東の隅にある建物の一番奥の二階、ハロルド・レイトン先生の部屋のドアを三回ノックする。
「どなたですか?」
中から先生の声。
「ラフィアンです。ラフィアン・サイラス、来ました」
名乗ると、低い音をたてて、扉が開いた。
「おぅ、入れ」
いきなり素に戻るの、止めてください、課長。いくら結界で外界遮断したからって、安易すぎません?
「まずは、頼むわ」
はぁ......と息をついて、俺は散らかしっぱなしの本と書類の整理にかかる。課長、もとい先生はと言えば、水晶玉を覗きながら、何やらしきりに羊皮紙に書き込んでいる。
「変わりませんね~。そういうとこ」
前世の会社でも、課長席の周りはいつも書類のファイルと決裁の山。総務部に怒られるたびに、俺や後輩がせっせと片付け。その傍らで課長はなんも気にせずに仕事に没頭していた。
まあ、帰りに美味い晩飯を奢ってくれたけど。
机周りは乱雑な癖に、仕事は完璧。部下に振った仕事の進捗もきっちり把握してて、漏れなく適切にフォローしてくれる。
あのBL 作家さんが乱入した時にも、きっと誰かを庇って事故に遭ったんだろうな。
「これが無きゃいいんですけどね.....」
「なんだ?」
溜め息混じりに言うと、顔も上げないで返事をする。俺はもうひとつ、大きな溜め息をつく。
「課長は残念なイケメンですよね。昔から......」
「ギャップ萌えだ。ギャップ萌え」
いや、それ違いますから。でも、なんで魔法万能なのに、魔法でさっと片付けないんだろう。不思議。
見透かしたように、イケボが答える。
「魔法使うと何が何処にいったかわかんなくなるんだよ。君にやってもらえば、君が場所、覚えてくれてるだろ?」
本っとにまんまですね。全然変わりませんね。絶対、レイトン信者の生徒達には見せられませんね。この実態知ったら、みんな泣きますよ。
「さて、お茶にするか.....」
ひとしきり書き物も終わったところで、伸びをして椅子から立つ先生、もとい課長。
俺の持参のチョコレートケーキを皿に乗せ、美味しいお茶を淹れてくれる。
それは嬉しいんですけど、変貌魔法まで解くの止めてくれません?いくら疲れるからって、イメージ狂うでしょ。
「で、持ってきたか?」
「コレです」
俺が持参したのは、銀のバングル。
あろうことか休み前にクリスからもらったものだ。先生に相談したら、念のため持ってくるように言われたんだ。
クリスはこのゲームの主人公。もしかしたら.....ということで、確認してもらうことにした。
先生はひとしきり、バングルを手に取り、眺めていた。が、一言。
「無いな」
「無いんですか?」
尋ねる俺に片眉を上げて唇を歪めた。
「あの先生の最推しは主人公じゃなかったからな」
「誰なんです?」
俺が身を乗り出すと、さも困ったように言った。
「お前だよ。ラフィアン・ガルネク・サイラス」
「えっ?......俺、悪役ですよ。悪役令息ですよ」
眉をしかめる俺に、先生、いや課長は苦笑いして、両手を拡げた。
「だが、作家先生はそう言ってた。最初のR18版のラフィアンの断罪後、知ってるか?」
「知りません」
知りたくもなかったし。
「地下牢に幽閉されて、触手に弄ばれた後、死ぬまでモブレだぞ」
「えぇーっ!......追放じゃないんですか?」
「違う。......目ぇキラッキラさせながら語ってたぞ」
非道いっ!S かよ、作家先生。
「もう無いですよね、それ?」
恐る恐る訊く俺に課長な先生はカラカラ笑った。
「ねぇよ。シナリオ自体、書き換えさせたしな。んなもん商品化できねぇだろ」
「良かった....」
俺はほぅっと胸を撫で下ろした。
「後はカラーピンに、ペーパーナイフに、ブローチか......特には問題無いな」
先生は俺の全身を一通り眺めて言った。
「守護魔法を入れといてやるよ。ブローチには特に念入りにな」
「それって......」
俺はほのかに顔が赤らむのを感じた。ブローチは、あの王子からのプレゼントだった。
「付けといてやれよ。王子喜ぶぞ......」
「か、いや先生......」
ニンマリ笑うレイトン先生に俺は頭を抱えたくなった。
「このバングルはヤバくはないが、ちょっと魔法が入ってるから、加護と入れ替えとくぞ」
先生は、魔法の杖を取り出し、バングルをコンコン、と叩いた。俺は少し不安になった。クリスはやはり俺が邪魔なんだろうか。
「呪いですか?」
「呪い......とも言えるが、特に君に悪さをするものじゃない。が、不要だから抜いといたほうがいいだろう」
先生は短い詠唱を唱えると、バングルを俺の手元に戻した。
「やっぱり、俺は悪役令息なんですかね......」
邪魔者はやはり退散しなければいけないんだろうな。顔を歪める俺に先生、もとい課長は肩をすくめて笑った。
「君は、相変わらず鈍いな」
「どういう意味ですか?!」
「そういう意味だよ」
口を尖らせる俺に、先生な課長はそれ以上、何も説明せず、魔法で探った現状に話は移った。
結論としては、この学園内に腐女子作家の転生や転移はいない。サイラス家や王宮、友人達の家族や知人も問題は無いという。
だが、しかし......。
「どこでどう影響してくるかわからない。気を緩めるなよ」
俺は深く頷いた。
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