(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

文字の大きさ
上 下
21 / 37

変わらないですね

しおりを挟む
 期末試験も終わって、楽しいクリスマス休暇。でも何故か俺は学園にいる。

 理由はひとつ、課長もといレイトン先生のお呼び出し。
 名目は実践魔法の特訓。だけど実態は先生の部屋の片付け、掃除。それと今後の作戦会議。

 クリスマスの翌日、ーまあ、ここは気を使ったんだろうけど、先生の伝書フクロウがやってきた。
 封筒を開くと、

ー学園で待つ。チョコレートケーキとブツ持参のことー

 先生、いや課長、性格変わりませんね。どうして家の今日のおやつがチョコレートケーキなの、知ってるんですか。

 俺は両親に話をして、シェフにチョコレートケーキ二人分を切り分けてもらって学園に急いだ。
 幸い休みに入っていて、生徒は誰もいない。ケヴィン達、寮生も帰省ずみだった。

 学園の東の隅にある建物の一番奥の二階、ハロルド・レイトン先生の部屋のドアを三回ノックする。

「どなたですか?」

 中から先生の声。

「ラフィアンです。ラフィアン・サイラス、来ました」

 名乗ると、低い音をたてて、扉が開いた。

「おぅ、入れ」

 いきなり素に戻るの、止めてください、課長。いくら結界で外界遮断したからって、安易すぎません?

「まずは、頼むわ」

 はぁ......と息をついて、俺は散らかしっぱなしの本と書類の整理にかかる。課長、もとい先生はと言えば、水晶玉を覗きながら、何やらしきりに羊皮紙に書き込んでいる。

「変わりませんね~。そういうとこ」

 前世の会社でも、課長席の周りはいつも書類のファイルと決裁の山。総務部に怒られるたびに、俺や後輩がせっせと片付け。その傍らで課長はなんも気にせずに仕事に没頭していた。
 まあ、帰りに美味い晩飯を奢ってくれたけど。
 
 机周りは乱雑な癖に、仕事は完璧。部下に振った仕事の進捗もきっちり把握してて、漏れなく適切にフォローしてくれる。
 あのBL 作家さんが乱入した時にも、きっと誰かを庇って事故に遭ったんだろうな。

「これが無きゃいいんですけどね.....」

「なんだ?」

 溜め息混じりに言うと、顔も上げないで返事をする。俺はもうひとつ、大きな溜め息をつく。

「課長は残念なイケメンですよね。昔から......」

「ギャップ萌えだ。ギャップ萌え」

 いや、それ違いますから。でも、なんで魔法万能なのに、魔法でさっと片付けないんだろう。不思議。
 見透かしたように、イケボが答える。

「魔法使うと何が何処にいったかわかんなくなるんだよ。君にやってもらえば、君が場所、覚えてくれてるだろ?」

 本っとにまんまですね。全然変わりませんね。絶対、レイトン信者の生徒達には見せられませんね。この実態知ったら、みんな泣きますよ。




「さて、お茶にするか.....」

 ひとしきり書き物も終わったところで、伸びをして椅子から立つ先生、もとい課長。
 俺の持参のチョコレートケーキを皿に乗せ、美味しいお茶を淹れてくれる。
 それは嬉しいんですけど、変貌魔法まで解くの止めてくれません?いくら疲れるからって、イメージ狂うでしょ。

「で、持ってきたか?」

「コレです」

 俺が持参したのは、銀のバングル。
あろうことか休み前にクリスからもらったものだ。先生に相談したら、念のため持ってくるように言われたんだ。

 クリスはこのゲームの主人公。もしかしたら.....ということで、確認してもらうことにした。

 先生はひとしきり、バングルを手に取り、眺めていた。が、一言。

「無いな」

「無いんですか?」  

 尋ねる俺に片眉を上げて唇を歪めた。

「あの先生の最推しは主人公クリスじゃなかったからな」

「誰なんです?」

 俺が身を乗り出すと、さも困ったように言った。

「お前だよ。ラフィアン・ガルネク・サイラス」

「えっ?......俺、悪役ですよ。悪役令息ですよ」

 眉をしかめる俺に、先生、いや課長は苦笑いして、両手を拡げた。

「だが、作家先生はそう言ってた。最初のR18版のラフィアンの断罪後、知ってるか?」

「知りません」

 知りたくもなかったし。

「地下牢に幽閉されて、触手に弄ばれた後、死ぬまでモブレだぞ」

「えぇーっ!......追放じゃないんですか?」

「違う。......目ぇキラッキラさせながら語ってたぞ」

 非道いっ!S かよ、作家先生。

「もう無いですよね、それ?」

 恐る恐る訊く俺に課長な先生はカラカラ笑った。

「ねぇよ。シナリオ自体、書き換えさせたしな。んなもん商品化できねぇだろ」

「良かった....」

 俺はほぅっと胸を撫で下ろした。

「後はカラーピンに、ペーパーナイフに、ブローチか......特には問題無いな」
 
 先生は俺の全身を一通り眺めて言った。

「守護魔法を入れといてやるよ。ブローチには特に念入りにな」

「それって......」

 俺はほのかに顔が赤らむのを感じた。ブローチは、あの王子からのプレゼントだった。

「付けといてやれよ。王子喜ぶぞ......」

「か、いや先生......」

 ニンマリ笑うレイトン先生に俺は頭を抱えたくなった。

「このバングルはヤバくはないが、ちょっと魔法が入ってるから、加護と入れ替えとくぞ」

 先生は、魔法の杖を取り出し、バングルをコンコン、と叩いた。俺は少し不安になった。クリスはやはり俺が邪魔なんだろうか。

「呪いですか?」

「呪い......とも言えるが、特に君に悪さをするものじゃない。が、不要だから抜いといたほうがいいだろう」


 先生は短い詠唱を唱えると、バングルを俺の手元に戻した。

「やっぱり、俺は悪役令息なんですかね......」

 邪魔者はやはり退散しなければいけないんだろうな。顔を歪める俺に先生、もとい課長は肩をすくめて笑った。

「君は、相変わらず鈍いな」

「どういう意味ですか?!」

「そういう意味だよ」

 口を尖らせる俺に、先生な課長はそれ以上、何も説明せず、魔法で探った現状に話は移った。
 結論としては、この学園内に腐女子作家の転生や転移はいない。サイラス家や王宮、友人達の家族や知人も問題は無いという。

 だが、しかし......。
 


「どこでどう影響してくるかわからない。気を緩めるなよ」

 俺は深く頷いた。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...