(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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なんですと?!

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 招かれて入ったレイトン先生の部屋は綺麗に片付いて......はいなかった。
 大きなオークの机の上や周囲に書物や書類が山のように積まれ、出窓の上には黒猫...ではなくキジトラ猫が一匹、悠々と寝そべっていた。

「さぁ入って。そこに適当に座って。今、お茶を淹れるから」

 普段の、厳格で端正なイメージとは大きくかけ離れた室内の様子に戸惑いながら、俺は書類の束を除けて、ソファーの隅に座った。

「散らかっていて申し訳ないね。さあどうぞ......」
 
 意外に綺麗に洗ってあるカップを手に取り、おずおずと口をつけたそのお茶は......美味かった。温度も濃さも絶妙で、あまりの高低差の激しさに、前世のお笑い番組じゃないが、耳鳴りを通り越して、鼓膜が破けそうだった。

「まずは、きちんと話が出来たようだな、良かった」

「先生、魔法使いましたね」

 先生は、これまた似合わないラフなスタイルで椅子に座り、にかっと笑った。

「ちょっと足止めしただけだ。......君は昔から感情的な話から逃げたがる傾向があったからね」

 昔って、先生、そんな前からお知り合いでしたっけ?
 先生は構わず、自分のお茶を一口飲むと、口の中でぶつぶつ呟いて、魔法の杖を二度三度、軽く振った。室内に変化はない。が、空間全体が薄い膜で覆われた感じがした。

「結界ですか?」

「そう、それと遮断魔法。この部屋の中のことは誰にも見えないし、聞こえない」

「なんで、そんなことを?」

 身構える俺に、先生はあっけらかんと言った。

「周りに聞こえちゃマズイ話だからな。おいで、茶太郎」

 にゃ~ん、と鳴いて猫がちてちてとこちらに寄ってきた。

ー茶太郎?ー

 俺は妙な既視感に目眩がしそうになった。
 渋いイケメンで、遣り手なのに、仕事ぶりに似合わない片付け下手。でもお茶の淹れ方にはすごく拘りがあって、美味いお茶を淹れてくれる。そして、無類の猫好きで、中でもキジトラ猫がお気に入りで......。

 そう、前世の会社の上司にそっくりなんだ、性癖が。いや、悪い人じゃなかったよ。仕事が出来て、部下の面倒見も良くて。
 でも片付けだけは全く駄目な、残念なイケメンだった。

ーまさか......ー

 いやいやいや、そんなこと、あり得ないでしょ。ここは異世界なんだし、『青薔薇』のゲームの開発責任者だったけど、あの時は健在だったし。

 恐る恐る顔を上げると、先生は再びにかっと笑った。

「ラフィアン・サイラス、君は転生者だよね?」

「どうして......?」

 ドキリ。そんなことは誰にも話したことは無いのに。
 
 灰色の瞳がじっと俺を見つめる。

「俺が自分の可愛い部下を見間違えると思うかぁ?おい」

 先生の口調がいきなり変わった。

 信じがたいけど、その口調は......少し変なイントネーションは......。

「村上......課長?」

「ビンゴ!」

 俺は思わずソファーから滑り落ちそうになった。

「君、須藤くんだろ?.......いやぁ久しぶりだなぁ」

 ちょっと待て。異動で戻ってきた部下じゃないんですから、なんですかその軽いノリは。いや、課長っぽいですけど、すごく。

「なんで......?」

 目を丸くする俺に、課長、もとい先生はへらっと笑った。

「野生のカン」

「嘘でしょ?」

「うん、嘘」

 これだよ、このノリ。信じたくないけど、課長まんまだ。課長な先生は、ズズッ......とお茶を啜って、続けた。

「サイラス公爵家の息子が豹変したって、入学前から噂になっててさ。おしとやかで内気だった少年が、いきなり腕白坊主になるなんて、普通に考えたらあり得ないっしょ」

 課長だよ。ホントにこの人、課長まんまだ。見た目違うのに、なんで?

「でさ、入学してきてから、よくよく見てたら、どうも似てるんだよね。若いのに交通事故で逝っちゃった部下に。癖とか口調とかまんまでさ。もしかして......と思ったんだよね」

 まんまなのは貴方です。村上課長、もといレイトン先生。

「ちびっ子になったってことは転移じゃなく転生だよな。須藤クン」

 むきー!ちびっ子言うな!

 でも、なんで課長がこの世界にいるんだ?あの日は課長は先に帰宅してて、家から様子見の電話、くれたじゃん?

「俺は転移なんだよね~。本当にあるとは思わなかったよ」

 
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